第25話:岩の巨人
——ガァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッ!!!!
龍の咆哮と共に多量の魔力が周囲へと放たれ、本能的な恐怖を覚えた晃生達は無意識に一歩、後ろへ退がらされる。
戦闘ヘリに乗っていた操縦者達は魔力への耐性が低かったらしく、今の咆哮で3人が気絶。コントロールを失ったヘリ3機は急降下し——墜落、爆発した。
残り2機は高度を落としつつも何とかローターの仰角を保っているが、意識が朦朧としている搭乗者にとっては絶望の追撃——ファイアブレスがドラゴンの巨大な口から放たれる。
1機を墜としたドラゴンは、そのまま首を振り回して薙ぎ払うようにブレスを放射し、もう1機のAH-64Dも撃墜した。
「めちゃくちゃだ……」
「あのドラゴン、アイツが操ってやがんのか……おい晃生、お前のお友達はどんな能力してやがんだよ」
「……魔物の声が聞けるって言ってた。俺はそれしか知らなかった……」
どうしてこうなったんだと晃生が目を向けたジャックが、呼び寄せたドラゴンの背中へと飛び乗る。
「晃生……また会おう。今度は敵じゃないといいな」
そう言い残し、リザードマン、オークの群れと巨大ゴーレムを残したまま、ジャックはゲートの向こう側へと飛び去った。
「…………」
何かを言い返す暇もなく、晃生はただ黙って見ていることしかできなかった。
「呆けるのは後だ。あの野郎、バケモン共を残していきやがったッ……!」
「僕達がやるしかないみたいだね」
灯真は体に炎を纏い、勇斗は魔剣を構える。
晃生も頭を切り替え、目の前のモンスター達に意識を向ける。
現在ゴーレムは晃生達に向けて一歩ずつ、民家を蹴散らしながら緩慢な動きで迫ってきており、リザードマンとオークの群れはゴーレムより先行して駆けて来ている。
(あのゴーレムは一刻も早く止めないと被害がデカすぎる……けど、1人や2人じゃ無理だッ。リザードマンやオークも放置できない……どうする……!)
その時、4筋の斬撃が閃き、数体のリザードマンを一瞬で切り裂いていった。
突然の襲撃に振り向いたオークに対してはガガガガガガガガガガガガッッと機銃掃射のような魔力の弾丸が浴びせかけられる。
さらに地鳴りのように響いていたゴーレムの足音が止み、その足元を見ると巨大な岩石の脚が凍り付き、地面に固定されている。
「もうっ、晃生君は。私を置いて行こうったってそうはいかないから」
「とーまもだし! うちだって戦えるっつーのっ」
「勇ちゃん、1人で危ない所に行かないでって言ったでしょう?」
木乃香、舞桜、愛奏音がそれぞれ男達にお小言しながらやってきた。
「天音さ……あー、木乃香。避難しろって言ったのに……」
未だに名前呼びに慣れない晃生が木乃香に言い返す。
だが、能力者が3人増えた事で現状に希望を見出した。
「ま、こうなったら俺ら全員で奴らをぶっ倒すぞ。舞桜、お前ら3人であの細かいのをやれるか?」
灯真が女子だけでリザードマンとオークの群れを倒せるかと問いかける。
「ヨユーなんですけど! ってかとーま達こそ、3人であのおっきいの相手にする気?」
「なんとかするしかねーだろ。そういや、お前ら何が出来る? 勇斗は剣の達人って感じだったが」
灯真の問いに勇斗はその通りだと答えるように剣を握り直して頷き、晃生は、
「俺は回復だ」
そう答えて能力を実演しようと自身の体内にある魔力を操作する。
晃生から発せられた魔力が舞桜と愛奏音を包み込み、それぞれ灯真の手を掴んだ時と魔剣を掴んだ時の手の火傷が跡形もなく治っていく。
「すごっ! 病院行ったけど、うちのは一生跡が残るって言われたのに……」
「ええ……私も……」
そこでついに、バキィィィンッとゴーレムが脚の氷縛を引き千切り、木乃香と舞桜の攻撃に怯んで警戒していたリザードマンとオーク達も左右へ散開しながら晃生達を囲むように迫り始める。
「さ、そろそろ話してる余裕も無くなってきたな。誰が1番槍行く?」
灯真がさっき言えなかった自身の能力を伝えるように、ボゥウッと炎を纏う。
その点火を目印にするようにゴーレムが右手を振りかぶった。
大質量の拳が迫る、その直前——
「——俺が行く」
ドゥッッッと晃生が飛び出した。まるで灯真の排熱噴射機動でも備えているかのようなロケットスタートで。
「おいッ、お前回復役だろ!」
灯真の制止も耳に届かず、晃生は超回復で強化され続けた身体能力を発揮し全速力で駆け抜けた。
単純な物理計算——K=1/2mv²。運動エネルギーは質量と速度に比例する。
(あの大質量には、超スピードで対抗するしかないッ!)
動作緩慢だが圧倒的な質量を持つゴーレムに対し、晃生は自身が駆ける速度に拳の速度を足し合わせて運動エネルギーを釣り合わせようとしていた。
「ぉぉォォォァァアアアアアアッ!」
——ドッッッゴォォォォォオオオオオオオンッッッッッ!!!
ゴーレムと晃生の拳が激突し、まるで隕石でも落ちたかのような音と衝撃波が放たれる。
過剰な負荷が掛かった晃生の右腕の骨、関節、筋肉、靱帯がビキビキッと悲鳴をあげる中、数瞬——両者の運動エネルギーが釣り合って静止する。だが速度による運動エネルギーを失った晃生がゴーレムの大質量に押し負けていく——その寸前、ザグンッッッと晃生の後ろから衝撃波に耐えて駆けてきていた勇斗がゴーレムの手に決して折れない魔剣を突き刺し、地面に縫い付けた。
それを見た晃生はすぐさまゴーレムの右腕を駆け上がり、並行して灯真が熱噴射飛行でゴーレムへと接近する。
「ハッ、ヒーラーでその身体能力って、どうなってんだよッ!」
「そっちもまさか空を飛ぶとはな!」
「行くぞ!」
「ああ!」
2人同時にゴーレムの顔へと殴りかかり——
——バガァァァァアアアアアンッッッ!!!
渾身の、そして爆速の一撃が頭部の巨岩を粉砕する。
ドッッズゥゥゥゥウウンッッッッと岩の巨体が倒れ、自重でアスファルトの地面へとめり込んだ。
「硬ってぇな! だが、ぶっ壊してやったぜッ……!」
「ただの岩石じゃないな。多分魔力で強化されてる」
既に固定を外していた勇斗が倒れるゴーレムから距離を取り、それぞれ回転受け身と熱噴射による揚力を利用して着地した晃生、灯真もゴーレムの様子を窺う。
そのゴーレムが——ズズゥゥウウンンッッと当然のように動き出した。
もともと脳みそもない岩の体で自律的に行動しているゴーレムにとって頭を破壊される事に大した意味はないらしい。
「おいおい、どうなってんだよコイツは……ッ!」
ゴーレムを睨みながら言う灯真と共に、晃生も驚愕する。
(そもそもどうやって動いてるんだ……!?)
「来るぞッ!」
ゴァァァァアアッッと再度振われるゴーレムの巨大な拳。
灯真は熱噴射で飛んで回避し、距離が空いていないこの状況ではさっきのように相殺出来ないと判断した晃生も同様に超人的な跳躍力で上へ避ける。
(ヤバッ!)
即座に晃生がミスを悟った通り、その眼には反対の拳を振りかぶるゴーレムが映り——ッゴォォォォォオオオッッと空中で身動きが取れない晃生に大質量の打撃が迫る。
無防備に喰らえば人間が生卵を殴り割るように、脳みそごと粉砕されるだろう。そうなれば如何に晃生と言えど超回復を使う間も無く絶命する。
「晃生ィッッッ!」
その巨岩の腕が晃生に直撃する寸前、灯真が空中で掻っ攫って回避する。
咄嗟の事で調整が間に合わず、灯真の手から発する炎が晃生の腹部を少し焼いてしまっていた。
「スマンッ! 大丈夫か!?」
「問題ない。助かった」
地面に降ろされた晃生は何ともない顔で服を捲って腹を見せる。その熱傷は既に超回復で跡形もなく治っていた。
「さすがだな……でもスマン」
「大丈夫だって、それより——」
晃生が目線で示すゴーレムは、勇斗が脚に斬りかかっているにも関わらずそのダメージをものともしていない。
(痛覚もないっぽいな……どうする……!)
晃生が打開策を考える中、ゴーレムによる大質量の踏み潰しを躱した勇斗が余波で飛んでくる瓦礫の破片をヒュガガガガガガァッと剣で捌く。
(くッ、こんなのどうやったら倒せるんだ……!)




