第24話:集結
——ゴゥゥゥゥゥウウウッッ——バシュッ!
まさに航空機のような音を立てて飛行、着陸した灯真は遠くからも見えていた巨大なモンスターを見上げる。
「なんだよこのバカデケェ怪物は……!」
灯真が以前戦った鬼も人間から見るとかなりの大きさだったが、目の前にいるこの岩石でできた巨人のような魔物——ゴーレムは比べ物にならない程に巨大だった。
横にある10階建てのマンションよりもデカい。
周囲には自衛隊が採用している10式戦車が、踏み潰されたようにひしゃげていたりディーゼルエンジンの軽油に引火して爆発したかのような残骸が幾つも転がっている。
その戦争のような光景に灯真が踏み留まっていると、
「君! 何してる! 早く避難するんだ!」
若い男の自衛官が駆け寄ってきた。
「いや、俺は——」
その時、フッと太陽光が遮られたかと思うと、自衛官の上に家が降ってきた。
「おいッ!」
灯真が叫びながら自衛官を助けるため、熱噴射を放って加速しようとした時——
——ズバァアアンッッッッッ!!
降ってきた家が真っ二つに斬られ、ドズンンンッッッと自衛官を避けて左右に落ちた。
スタッと着地して手に持っていた剣を魔力に変え体内に還元した男は——
「お前……1組の藤田勇斗か……?」
「うん。君は……」
——ギャァァアアアアアアアアアッッッ!!!
勇斗が灯真の事を確認しようとした時、上空から聞こえた怪獣のような鳴き声が鼓膜を振るわせた。
「何だよあれッ……!」
「アイツがさっきの家を落としたんだ……!」
灯真と勇斗が見上げた先、日本の上空に、ドラゴンが飛んでいた。高速で飛翔する巨体は旋回しながら再度灯真達の方へと迫り、ガパァァと蛇の捕食時のように顎を大きく開いたかと思うと——ゴァァァァァアアアアアアアアアアッッッと口から超高温の火炎放射を発した。
灯真も火炎放射で相殺しようとするが、自衛官と勇斗が前に位置していて、タイミング的に間に合わない。
(炎は斬ったことないけど……斬れるか……ッ!?)
勇斗が一か八か魔剣を構えた時、
「伏せろッ!」
3人の前にもう1人の男が現れ、生身の体を盾にしてドラゴンの火炎を受けた。
放射状に放たれている火炎はその男を頂点とした角錐状の後方には及ばず、熱耐性のない灯真以外の2人も輻射熱に炙られただけで済む。
「大丈夫か?」
竜の炎の直撃を浴びて火傷一つない男が振り返りながら尋ねる。
「いや……お前が大丈夫かよ……!」
「君……2組の中川晃生君……?」
「ああ、そうだけど……そっちは灯真と勇斗か。受験の時隣だったよな。ってか、自衛隊の人? 無事か?」
全員に回復能力をかけておいたため熱傷等は残っていないと分かってはいたが、一旦高熱に晒されること自体は避けられなかった為、晃生は一応の安否確認をする。
「あ、ああ。助かった。君らは能力者だったんだな」
「分かったろ。避難するのはあんただ。早く行け」
灯真は自衛官を促して逃した後、勇斗と晃生に改めて目を向ける。
(コイツら……制服着てるって事は俺と同じで学校にいたはずなのに、直線距離で空を飛んできた俺とほぼ同時に到着して来やがった……)
「お前らも覚醒者だったとはな。俺の事は灯真でいい。ここに来たってことは、アレを倒しに来たのか?」
「一応、そのつもりだよ。君達も一緒に戦ってくれるのなら心強い」
勇斗が答えるが、晃生の答えは2人の予想と違うものだった。
「俺は……止めに来ただけだ」
「止めに……?」
その答えに灯真が眉を寄せた時——バババババババッとヘリのローター音が聞こえてくる。
見上げると、音源は自衛隊の戦闘ヘリ、AH-64D。
それがゴーレムの周囲を旋回しながら、ドドドドドドドドドドッッッとM230機関砲を連射している。だがそれはゴーレムの表面に小さな傷を付けて行くだけだった。
(効いてない……! でもあれじゃ近付けねぇぞッ……!)
灯真が舌打ちする中、勇斗はゴーレムの動きに違和感を覚えていた。
(何かを、追っている……?)
勇斗がそのことに気付いた時、徐々に見えて来たのは……以前ウェアゴブリン戦で罪を犯し捕まっていたはずの三浦一己が、ゴーレムから逃げている姿だった。
「何だ、アイツを狙ってんのか……?」
灯真、そして晃生もそこに目を向けた時、
「助けてぇぇぇぇッ! 誰かぁぁぁぁ——ァ゛ガッ!」
瓦礫に躓いて転ぶ一己。
「ヤバいッ!」
晃生が叫び、3人同時に助けに入ろうと駆け出したが、ドズンンッッッ!
無慈悲な巨岩の脚が、泣き喚く一己を踏み潰した。
「クソッ、何で自衛隊は民間人がいたのに攻撃してやがったんだッ……!?」
「……多分自衛隊は、追われていたのが犯罪者だと知っていたんだ。彼が犯した殺人未遂罪は……死刑または無期もしくは5年以上の懲役が科せられる重罪。だから彼の命よりも、他の民間人の被害を抑えることを選んだ……」
勇斗は自分の予想を語る。
「何でお前がそんな事知ってんだよ」
「殺人未遂の相手が……僕だったからだ」
その言葉に、灯真と晃生が目を見開く。
「……マジかよ……だが、だからって自衛隊がそんな事……」
「ゲートが開いてから3ヶ月、人間だけじゃなく、この世のルールすら変わり始めてるってことだ」
晃生がゴーレムの脚の間から覗くゲートを見据えながら言う。
その上空では、機関砲が効かないと悟ったAH-64Dが対戦車用の空対地ミサイル——AGM-114を向ける。
しかし突如そのヘリを影で覆うように、さっきのドラゴンがさらに上空を飛んだ。
ゴォォオオオォォォォォォオオッッッと高密度の火炎放射がドラゴンの口から放たれ、世界最強の戦闘ヘリとして日本の陸自や米陸軍をはじめ世界各国で採用されているAH-64Dが、撃墜された。
「マジかよ……ッ!」
「あのドラゴン……」
その竜の背から飛んだ一人の男が、ゴーレムの上に降り立つ。
同時に男の背後にあるゲートから大量の魔物が姿を現し、ゴーレムの足元へわらわらと集まって来た。
「今度は何だッ……!?」
灯真が誰にでもなく疑問をぶつける。
出現したのは、リザードマンとオークの群れ。
推定200体を超える大群で現れたそれらは明らかに普通の生物ではないが、それぞれがギョロギョロと周囲を見回していることから、一体一体に自我があることが分かる。
「なんだあれ……あの男が統率しているのか……!」
地球にいる既存の動物とは違い、飼い慣らすことなど到底出来ない程凶暴な魔物を大群で従えている謎の男を勇斗が見据える中、晃生が1歩前へと進む。
「ジャァァァァックッ! 何でこんな事をしたんだッ!」
「晃生……こんな所で再開するとはな」
「答えろジャック! 何で殺した!」
「俺の仲間を殺されたからだ」
そう言われて次の言葉に詰まった晃生に、灯真が問いかける。
「お前、あのモンスターを操ってる奴と知り合いなのかよ。なんなんだアイツは」
「……向こうの世界で出会った。1日だけだったけどな。友人になれたと思ってた……!」
そこで説明を終えた晃生はもう一度ジャックの方へ目を向ける。
「ジャック! 頼む、退いてくれ! お前の仲間を傷つけた奴はもう死んだだろ!」
その言葉に一旦は敵意を収め、ゴーレムの肩から降りたジャックは晃生の前へと歩いてきた。
「……晃生。この世界の人間は、お前みたいな奴ばかりじゃない」
「でも、悪い奴ばかりでもない。どこの世界でもそうだろ?」
「そうだ、だが俺には——」
その時、AH-64Dが新たに5機現れ、ドラゴンに向けて搭載している武装を一斉に発射する。
——ズガガガガガガガガガガガガガァッッッ!!!
——ドゴゴゴゴゴゴゴゴォッッッ!!!
30mm機関砲、AGM-114、AIM-92、ハイドラ70mmロケット弾。
あらゆる武装が火を噴き、ドラゴンに命中した弾が火花を散らし、爆炎を発生させる。
「まるで戦争だ……」
勇斗が呟き、灯真は自衛隊の戦力に驚嘆する。
だが、それを見たジャックが怒りに震え、勇斗達を睨みながら言い放つ。
「俺には——お前らが、お前らこそがモンスターにしかみえねぇよ」
羽ばたき1発でバサァァァァァッッッッと強烈な風圧を起こして爆炎を吹き飛ばしたドラゴンは……無傷。
その異常に硬い龍鱗で戦闘ヘリ5機の一斉攻撃を全て受け切っていた。




