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解離性アストラルレイド 〜異世界大戦〜  作者: Aki
第1章 覚醒者達
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第23話:Jアラート

(やっべぇッ、このままじゃ遅刻だ……!)

 4月7日の始業式の日。千歳(ちとせ)灯真(とうま)は寝坊し、学校への道を急いでいた。

(絶対間に合わねぇぞ……使うか(・・・)……?)


 灯真は周囲に人がいないことを確認すると、バシュゥゥゥッッと燃焼により両足から噴流(ジェット)を発生させ空へ飛び上がった。さらに両手でもジェットを使って制御スラスターとし、空中姿勢を安定させる。


(まぁ、下からは顔まで見えねぇだろ。別にバレても良いんだが……)

 飛翔する灯真は道行く人達に指を差されながらもそのまま一気に学校まで飛んで行き、校舎裏へと降り立つ。


「フゥ、何とか間に合ったな……」


 何食わぬ顔で教室へと入って行く灯真は自分の席に着いて遅刻せずに済んだことを安堵(あんど)する。


「ねぇとーま、今日飛んで来た?」

 灯真の能力を知る女子——氷堂(ひょうどう)舞桜(まお)が、クラスメイトが火の玉が飛んでいるのを見たと言っているのを聞き、灯真の事だと確信して話しかける。


「しょーがねーだろ、遅刻しそうだったんだから」

「もー、また寝坊? うちが明日からモーニングコールしたげよっか?」

「なっ! い、いらねーっつの!」

「あははっ、そう言うと思ったー」

 いつものように灯真をからかう舞桜がニヤニヤと笑う。


 そんなやり取りをしているうちに、春休み明けで久しぶりに友達と会った生徒達がガヤガヤと騒ぐ教室内でホームルームが終わる。

 体育館に移動し、退屈そうに始業式もやり過ごした灯真はみんなが新学期早々部活の準備をしたり、翌日の課題テストに備えたりする中、1人帰ろうと下駄箱へ直行する。


 靴を履き替えていると、急に灯真の肩に手を回して密着してきた生徒がいた。

「よっ、アンタ、千歳灯真? 今日空飛んで学校来なかった?」

 突然そんな質問をしてきたのは隣のクラスのギャル——花野井(はなのい)瞳愛(めあ)

 舞桜よりももっと分かりやすいギャルで、制服を内側から押し出す大きな胸が灯真の腕に当たっている。


「ちょっ、え、はっ?」

 喋り方の割に舞桜以外の女子への耐性が少ない灯真は焦って返答できずにどもり、動揺しているうちにそのままの姿勢で校舎裏へと引っ張られていく。


 自分が能力者だということはそれほど隠しているわけではないが、あまり吹聴することでもないと考えている灯真は人気(ひとけ)の無い校舎裏へと大人しく付いて行った。


「で、どうなん? アタシ、春休み中に黒い犬みたいなモンスターに襲われた時、火の魔法使う人に助けられた事があってさぁ。その男はすぐどっか行っちゃって顔とかあんま見えなかったんだけど、この学校の制服着てたから、アンタじゃないかなって思ってね。アンタも火で飛んでたっしょ?」


 ウェーブを当ててブロンドベージュに染めた長い髪と共に短いスカートをそよ風に揺らしながら、瞳愛(めあ)が改めて尋ねる。


 確かに灯真は魔力に覚醒してからレギュラーだったバスケ部を辞め、パトロールのような事をして近所のモンスターを倒していた。母や妹のような犠牲者を少しでも減らそうとして。


(そういや1週間くらい前、補習の帰りに黒妖犬(ヘルハウンド)を倒したことがあったか……)


「あー、火を扱う能力者は他にもいるだろうしな。俺かどうか分かんねーし、気にしなくて良いって」

 灯真は照れ臭くて誤魔化すが、

「その反応……やっぱりアンタが助けてくれたんだっ」

 ヘタな演技を見破られ、瞳愛(めあ)は自分を救ったのが灯真だと今ので確信した様子でまた抱き付いた。


「ちょっ、だから気にしなくて良いってッ……!」

「んーん、ちゃんとお礼したいの。ありがとね、助けてくれて。あの時、すっごい怖かったから……」


 ——モンスターに襲われる恐怖。

 まだその時の新鮮な記憶が蘇っているのか、自分を抱き締めている細い腕が小さく震えていることに気付き、自分も鬼に遭遇した時の事を思い出した灯真は少しだけそのままにさせることにした。


「も、もういいだろ……こんなところ誰かに見られたら……」

「……灯真は……見られて困る相手……いんの……?」

 胸に(うず)めていた顔を上げ、至近距離から目を真っ直ぐ見つめて言ってくる瞳愛(めあ)の顔は、真っ赤に染まっていた。


 その熱が伝導するように灯真も顔を赤くさせるが、その脳裏に舞桜の顔が浮かび——


「……悪い。困る相手は……いる……」

 灯真はそれ以上どう言っていいか分からず瞳愛(めあ)の肩を掴んで自分から離し、言葉に詰まりながらも頭を下げて謝った。


「プッ、あははっ、ごめんごめん冗談! やーい本気になったー!」

「はっ? おまっ……!」

「ごめんって〜、でもそっかぁ、灯真好きなコいるんだ〜、ふ〜ん?」

 瞳愛(めあ)は体の後ろで手を組み、ニヤニヤ顔で灯真を見上げる。


「な、何だよ……」

「いや〜? べっつに〜?」

(ヤベェ……まさかコイツ俺の弱みを握って……強請(ゆす)る気か……!?)


「あははっ、そんなマジ顔しなくてもいいじゃん。冗談だって。誰にも言わないから」

「え、ンだよビビらせやがって……」

「あんなに強い灯真でもこんなことでビビったりするんだ。ウケる。ギャップかも」

「……ビビってねーよ、別に」

「えー、ホントかな〜?」

「…………」


「まっ、イジメるのはこれくらいにしといてあげよう。それじゃね。助けてくれた事、忘れないから。マジ感謝してる」

 それ以上何も言わせないよう背を向けて足早(あしばや)に去っていく瞳愛(めあ)


(気にしなくて良いって言ってんのに……)


 苦笑いしつつその背を見送った灯真が今度こそ帰ろうと歩き出し、校舎の壁沿いに少し歩いたところでその隣にいつの間にか舞桜が並んで歩いていた。

「うおっ、舞桜。いつの間に……ってかさっきの見てたのか?」

「別に見てないしー。一緒に帰ろうと思って探してたのにいないと思ったら……」


(絶対見てたろ……)


「……何話してたの?」

「……別に、大したことは話してねーよ」

「なのに抱き付かせてたんだ」

「いや、あれはッ……てかやっぱ見てんじゃねーかッ」

「見てないし。別にうちには関係ないし」

「…………」


 なんとなく気不味(きまず)い空気が流れ、並んで歩きながらも無言で運動場の脇を通り抜けていく2人。


 部活動が盛んな高校の為、グラウンドではサッカー部や野球部の他、トーチトワリング部なんかもパフォーマンスの練習をしている。灯油を染み込ませた布を針金で棒の先端に巻き付かせ、その燃える(バトン)を華麗に振り回す様子を見て、

「綺麗……」

「そうだな……」

 何となくさっきまでの空気が払拭(ふっしょく)され、2人して短い感想を()らした。


 つるぎ、8の字、大車輪等の技を集団で同時に繰り出していくのを横目に通り過ぎた時、パッとすっぽ抜けたトーチ棒——バトンが火を付けたまま舞桜の背後へ飛ぶ。

 あっ——と手を離してしまった生徒が青ざめた顔で声を上げ、それに振り向いた舞桜が飛んでくる炎に驚いて目を(つぶ)ってしまった直後——パシッ。

 熱源感知で察知した灯真が、背を向けたままバトンを掴み取る。


「えっ?」

 ゆっくり目を開けた舞桜は、灯真がトーチの先端——炎が灯る布部分を素手で握っていることに一瞬驚くが、熱耐性を持っている灯真には火傷一つなく、謝りに駆け寄って来た生徒にバトンを返した。


「あ、ありがとう……守ってくれて……」

「いや、別に……」

 顔を赤くして見つめてくる舞桜に対し、灯真はそっぽを向いて照れているのを隠そうとする。


 だがもう一度舞桜の方を向いた灯真が、

「あ、あのさ……」

 と、何かを言おうとした時——ウゥッウゥッウゥッと警報(アラート)がそこら中の携帯から鳴り響いた。


 灯真と舞桜の携帯からもなっているそれは、気象庁が発表し対象地域のテレビやラジオ、防災行政無線、そして携帯端末に流れる緊急地震速報と酷似した音。

 だが地震ではなく、これは頻発するモンスター被害に対し防衛省が新たに全国瞬時警報システム(Jアラート)に組み込んだ緊急速報であり、多大な被害を(もたら)すと予想される魔物が現れた際に流れる警報だ。


 続いて——ピンポンパンポーンと校内放送が始まり、

『ま、魔物ですっ、ゲートが開き、巨大な魔物が付近に出現しました。校内に残っている生徒は体育館に集まって下さい。繰り返します——』

 と、慌てた様子の教頭が学校中に呼びかけた。


 それを聞いたグラウンドにいる生徒たち——サッカー部、野球部、そしてさっきのトーチトワリング部の部員は、

「も、モンスターが襲って来るってのかよ!」

「やばい逃げるぞッ!」

 パニックになりながら我先にと体育館へ走って行く。


「舞桜、お前も体育館に行け」

「ちょっ、灯真(とーま)は!?」

 舞桜の疑問には答えず、灯真は逃げる生徒達の流れに逆らって逆方向へ歩き、集団が通り過ぎると同時に、ボウゥゥゥッッと噴射(ジェット)による移動——排熱噴射機動(ジェットエンジン)で飛び立っていった。


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