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透鏡越しラヴァーズ  作者: 卯月猫
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 4時に起きる。ぼんやりする頭を掻きながら時計を見て、んー。と首を傾げる。


「なんで最近ずっと4時起きなんだろうなぁ……まぁ、動く時間が増えていいか? ふわぁ」

 

 欠伸を一つ、あんまり深くは考え込まずに、いつものルーティーンを始める。

 着替えて、冷やしてあるボトルを持って外へ出る。この日は、ウォーキングと筋トレとで2時間程の外出を終えて帰宅。

 朝ご飯の準備、と言っても、本当に簡単な物をより合わせるだけだが。

 一人での食卓。

 これから、ずっと一人なのだ。

 シンとする空間に一人の生活音だけが響く。


「言葉を交わす人が居ないってこんな寂しいんだな」


 ぽつり、とそんな言葉が漏れ出た事に気が付かない。テレビを横目に見ながら黙々と食べる。

 テレビでは早朝からずっと朝の番組が何かしらやっているから、賑やかになっていいかとつけておいた。ニュースや芸能トレンドを見ながら食べ終えて、食器を片づけてしまう。お母さんとお父さんの写真前に置いたご飯は後で片づける事とする。



 今日からやらなければいけない事が山のようにあるのだ。諸々の行政関係の手続き、遺産相続についてや今後の一人暮らしの事を考える。中には期限付きの物もあり、これらを順を追ってやっていかねばならない。

 身内を喪ってあんまり悲しむ間も無く事務的な事をどんどん終わらせていかねばならない。


「世知辛いなぁ……」


 しかし、悲しみばかりに囚われていても、やらない事には終わりもしない。時間なんてゆっくりになってくれる訳でもなければ、止まってくれると言う事も無いのだから。

 結局、全てを片づけ終えてから初めて再スタートが切れるのかもしれないがそこに行くまでどれ程時間が掛かるのだろうかと溜息が漏れる。

 そんな事を考えつつ、洗濯などの簡単な家事をこなし終え、父からもらう形になったPCを使い、ノートとペンを片手に諸々手続きについて検索を掛ける。

 良子ばあちゃんが色々と手伝うよと言ってくれていたけれど、丁寧に断った。

 親を送る事さえもおんぶに抱っこでここまで一緒にやって貰ったのだ、これ以上迷惑を掛ける訳にいかない。

「出来る事は自分でやれる所までやってみるよ、もしも躓いて進めなくなったらちょっと声を掛けさせてもらうかもしれないけど……」

 そう言うと、良子ばあちゃんは嬉しそうに「分かったよ」と頷いた。



 だが、しかし──



「……だぁあぁあっ!!」


 やってみると言ったものの、やる事が、やる項目がとてつもなく多い!!

 こ、こんなにあるだなんて…………終わるのかこれ……?

 彼是PCと睨めっこしつつ、ノートにやる事リストなるものをピックアップしていく事2時間以上が経過していた。

 魂が抜けそうである。まずは役所に行かねばならないのだろうが、行ったり来たりと何度も繰り返す事になりそうで頭が痛い。


 身内の死後は、特に大変なのが相続関係の事らしい。雑多の口コミサイトを覗けば、『身内同士で醜い争いがずっと続いている』『介護を押し付けていた親族が祖父母が亡くなった後に押しかけてきた』『仲の良かった親族関係が嘘のように滅茶苦茶になり全て縁を切った』『金を持ち逃げされた』中には、身内以外の外部の人間に騙されてしまった等々……見るだけでゲッソリと5キロは痩せそうな内容がズラリと並ぶ。


 とは言っても、相続権一位である直系卑属に当たるのは僕しか居ない。安心の要素なのか何なのかはさておき……。

 裕福でなかったうちには相続する物は何も無いと思っていたが、お父さん名義の物であったここ自宅とその土地は完済済みで死後、お母さんが相続したので、これは順当に行けば僕にどうするのかの決定権があるらしい。

 およそ普通に生活している中では聞かないような単語の羅列ばかりが、まるで流れるように縦横に目を滑っていく。

 手続き関係の説明はどうしてこんなに小難しい言葉ばかり使われるのだろう……もっと簡潔に解り易くしてもらえないだろうか。いや、まあ単純に読解力が足らない僕が悪いのかもしれないが。

 日本では、人が一生をスタートさせそれを終えるまでにはやらなければならない事がとても多いのだと知った。

 今の齢は、もう半分以上【守られるべき立場】から一人で立つ大人へと成長していかなければならない時でもある。誕生日以降は選挙も参加する権利がある事だし。

 正直、選挙期間なんて家の周りも駅の周りもうるさくなるばっかりでテレビの番組も面白くなくなるから興味なんてこれっぽっちも持てなかったが……そうも言っていられなくなった訳だ。

 住む町を住人の一人として、とか、この国に住む一人として責任を持って……こう、より良く、より良く…………?


「うん、駄目だ。一回外出よう」


 一度、外の空気を吸う事にした。頭がこんがらがってしまいそうである。いや、既にこんがらがって湯気が出ていたかもしれない。未だかつてこんなに頭を回した事があったろうか。いや、テスト勉強ですらこんなにならなかったと記憶している。


「はぁ」


 あれだけ良子ばあちゃんに言ったのに、早速初めの一歩でもう躓いている気がする。大人はこういった事を、仕事もこなしながらきっともっとスムーズに当たり前にこなしていけるのだろう。そう思うと、これから一人でやっていかなければならないのに情けない、もっとしっかりしないとな。肩を竦めながらそう思う。


 少しそこら辺を歩く。座りっぱなしの姿勢から体を動かすとこれだけでも結構スッキリするものだ。外の空気が何とも気持ちいい。

 暫くのんびりと歩いていると、ポケットにしまっていた携帯が振動した。

 取り出してみると、電話は知らない番号からだった。

誰だろうか、と頭を捻りつつ出てみた後に目玉と心臓が飛び出すかと思ったのはこれで二度目の事であった。

 電話の主は、驚くべき事にこう名乗ったのである。



『お忙しい所申し訳ありません、ブルーミングプロダクションの平瀬と申します』

 



冒頭から大分距離が出来てしまいました。思わぬ方向へ進んでいますが何とか軌道修正を出来たらば……

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