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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第3章 White

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10 桃架さん


「いったいどこから」「分かりませんっ!」


 緊張が走る。言葉を続けようとして、しかし、白い息が乱れかけたから、口を固く閉じた。左手が強張る。

 桃架ちゃんも口を開かない。静寂に身を包まれる。体は熱い。額から汗が流れた。山麓上空のひどく冷たい空気との差が、気持ち悪い。

 浜世家の刺客はまだいる。逃げ出してなどいない。虎視眈々と、俺たちの命を狙っている。今まで俺は、目の前に現れた敵を倒すということしかしてこなかった。

 見えない敵が、こんなにも恐ろしいとは。

 ふと、疑問が脳裏を掠める。桃架ちゃんは弾丸を跳ね飛ばした。これは、ある程度は弾道を読んでいないと無理な芸当だ。ならば、どこから狙撃されたのかを、少なくとも常識の範囲内で予測出来るのではなかろうか。

 方角すら分からないってことはないだろう。それとも、方角を誤魔化すような未知の異能まで織り込んでそう言ったのか?


「……弾は突然、現れたんです」


 引っかかりに対する答えは、桃架ちゃん自身の口から発された。


「突然現れた?」

「はい。フッと、急に」

「なるほど。……体のどこに撃ってきたか、は?」

「急所ではなかったと思います」


 つまり亜人(おれ)は生け捕りか。浜世家にとって亜人は儀式に必要な素材で、死なれては困るのだろう。とはいえ、死なない程度の怪我を与えるのは容認されているらしい。手足の一本や二本ぐらいもいでも構わないぐらい思ってそうだ。

 考える。「突然現れる弾丸」とは、どういうトリックを使った? まあ、トリックと表現するとタネや仕掛けがありそうだけど、浜世家は術師集団なので、まあ順当に考えて、その異能を用いたのだろう。

 幻術で弾を透明にしたなら、当たる前にそれを解除する意味はないし。発動時間に制限がある?

 あるいは、自身を透明化して至近距離で撃ってきた? 気配も、音もなかったけど。

 そういえば、三川さんを殺した最初の長距離狙撃は、音を隠そうともしていなかった。地形上響きにくいのだから、ちょっと音を抑えさえすればこちらには聴こえなかったはず。すると俺たちの警戒は、一秒程度は遅れただろう。

 俺たちからすると命取りで、敵からすると恵みの一秒。

 どうしてそれを欲しなかった? 謎だ。現代の技術なら、射撃音をかなり小さく収めることは難しくないようなのに。ともすれば、浜世家ならば、音を完全に消す技術も持っているかもしれない。

 とにかく、自身を透明化させ、至近距離で撃ってきたとすると、音はどうにかなっても、如何せん気配は誤魔化せないんじゃないか。

 弾丸を転移させた可能性もある。ああ、これが一番納得がいく説明だ。そもそも俺たちは空にいる。もし透明化案が正しいならば、敵も空を飛んできたはず。言うまでもなく、人が飛ぶのは異常事態だ。不自然なのだ。だからこそ、桃架ちゃんの鋭敏な第六感を潜り抜けられるとは思えない。

 ちなみに俺は、鋭敏な第六感こそ持ってないけど、眷属の居場所に限れば、離れていても分かる。あと、波動エネルギーをソナー代わりに飛ばすと、色付きの位置も掴める。

 ダメ元でソナーを飛ばしたが、引っかかったのは三色娘だけだった。


「桃架ちゃん」「はい」

「また来ても防げるかな?」

「もちろんです。出来ます」


 自信たっぷりに答える。こういう時は頼りになるぜ。

 ガイドさんと六人の富良野一派が一瞬にしてやられたことから、銃撃は連射可能で、続きはすぐ来るだろうと予測していたけど、来ない。桃架ちゃんに防がれて警戒しているのか?

 単純に考えて、銃弾の数に限りがあるのか、あるいは、バカスカ撃ってるうちに居場所がバレることを恐れているのか。


「……………………」


 ジリジリする。チラリと桃架ちゃんに視線を向けた。ゾクリと背筋が冷たくなるくらい集中している。比喩表現だけど、「作画が変わった」。

 表情筋が引き締まり、鬼気迫るものを感じる。実はちゃんと、富良野一派の子分たちが殺されたことに対して、怒っていたりするのかな。


「お兄さんもなるべく気を逸らさないで」「はいっ」


 注意され、おっかなびっくり返事をするのと同時に、桃架ちゃんがぬるりと手を動かす。まるで、消しゴムでも取るかのような仕草で。

 すると、なんということでしょう。人差し指と中指に、銃弾が挟まっているではありませんか。

 高速回転するライフル弾を指で受け止めるとか、フィクションの達人かよ。絶技。俺には無理だ。

 やべー。これからは桃架「さん」って敬称付きで呼んだ方がいいかもしれない。


「お兄さん。四の五の言わずにしがみついてください」


 承知。遠慮なく背中に抱きつく。桃架さんがそう仰ったならそうした方がいいのだ。この方に下心などあるはずがない。巴ちゃんと違って。

 密着するが否や、桃架さん……うーん、アイゼンで床を破壊した後のテヘペロフェイスが脳裏にチラついて、やっぱり「さん」呼びには抵抗がある。桃架ちゃんは落下を始めた。蓋をして封印していた高所恐怖症が顔を出し、情けない絶叫を上げる。

 禿げた木の上スレスレで止まり、そのまま高速低空飛行に移る。気づいた時には、背後から追尾(ホーミング)弾が迫っていた。落下で大きく引き離した形だ。

 加速する。ソニックブームで雪が削れた。

 追尾弾の一部は白い波に呑まれ、爆炎を撒き散らした。残念ながら全てではない。雪の試練をくぐり抜けたモノが、変わらず俺たちを追ってくる。

 弾丸とは違う。デカいし高威力だ。さすがの桃架ちゃんも指では止められないだろう。いざとなれば「火」を使うが、勿体無いのは確かだ。波動エネルギーによる赤い鎧の密度を上げれば防げるか。少なくとも衝撃は浴びる。


「しつこいな」


 桃架ちゃんが、冷たい声で呟いた。

 くるりと振り向く。


「『モンペ撃退』」


 彼女の持つ広範囲殲滅技。保育士モチーフ魔法少女の技名として、思うところがないではないけど、ナース風魔法少女な巴ちゃんの「オーバードーズ」とかよりは、まだ保育士業務の一環と言える。

 轟音が鳴り響き、追尾弾は全部破壊された。


「かったるい。空爆作戦で行きましょう」


 めんどくさそうに言った後、彼女は俺にこう尋ねてくる。


「お兄さん。『火』の暴発って出来ません?」


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