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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第3章 White

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7 死体のエギン化


 三川さんが倒れた。頭からは血が噴き出していた。ついさっきまで生きていた彼は、ちょうど今死んだ。

 狙撃されたのだ。


「陰に伏せなさい!」


 佐渡さんが叫んだ。仲間が死んだというに、一切の感情的反応を示すことなく、彼らは即座に行動する。角木さんの手によって、俺と、恐らくすぐ側にいたからという理由で跡掛さんが、尾根の反対側に引きずり倒された。硬い雪が痛いけど、文句を言える状況ではない。

 少し遅れて、三色娘が身を屈める。亜人の眷属としての高い反射神経、積み重ねてきた戦闘経験に加えて、彼女らは位置が良かった。全員、伏せれば狙撃手の死角になる場所にいた。

 しかし不運にも、富良野一派の少女たちとガイドさんは、もろに狙撃手の餌場にいた。加えて彼女たちには、佐渡さんの鋭い警告にすぐ反応するための下地もなかった。複数の発砲音と、耳を劈く悲鳴が轟く。

 事態に理解が及ぶのに、ほんの少しだが時間がかかった。雪の冷たさも忘れて呆然と、向こう側を眺めていた。亜人の視力が功を奏して、血飛沫が舞うのが見えた。

 見たくなかった。


「どうして」

「浜世家です、昊刃様」


 佐渡さんが答える。


「間違いなく」


 音が止んだ。向こう側にいた人たちは、全員始末されたのだろう。山は静寂を取り戻す。しかしそれは、嵐の前の静けさとしか思えなかった。足掛さんは恐怖で震え、ガチガチと歯を鳴らしている。

 手を握るだけでもパニックに陥りそうだ。恐慌状態を解く術はない。

 匍匐前進してこちらに来た佐渡さんに、小声で尋ねた。


「俺が亜人だとバレたのですか? いったいどこから……。京之助経由なら、もっと早く襲撃をかけてもよかったはず。……亜人のことはともかく、左手の赤玉なら、知り合いは皆知ってます。そこからなら」

「断言します。ありません。昊刃様のお姉様が手を回しています。そして、あなたが亜人とバレたとも限りません……」


 いくら優秀で素晴らしい姉でも、少しくらいの「漏れ」はあるんじゃないか。そう思ったが、佐渡さんは、姉の仕事を完全に信頼しているようだった。

「バレたとは限りませんが」と前置きしてから、彼女は続ける。


「候補は絞っていたとしか。昊刃様に監視をつけ、登山での活躍ぶりから、可能性が高いと目されたのかもしれません」

「絞られていたのなら、色付きを三人……二人(・・)つれている俺で確定じゃないですか?」


 椎奈ちゃんは現在、黒に染めている。


「それは、あり得ません。あの方はあり得ないと仰られました。だから、あり得ないのです」


 深い闇を湛えるような、低い声音だった。ゾクリとする。理屈は知らないが、狂ったように盲信しているという感じの喋り方だった。

 佐渡さんへの疑心を封じ込める。今は、目の前の脅威に集中しないと。


「相手が浜世家だとすると、銃弾を『ズラせ』ますよね?」

「はい。そして、ズラす割合半分、ズラさない割合半分としているはずです。威力は落ちますが、亜人とその眷属(あなたがた)に絶対当たる点で効果的です」

「ですよね。どうしましょう? この膠着が、このままずっと続くなんてあり得ないですし、早く動かないと」


 三川さん、彼が撃たれる直前、「光った」と言った方角は覚えている。すでに移動したか、あるいはデコイだった可能性もあるけど、周辺を探す価値はあるはずだ。山をすり抜け、最速飛行で狙撃手を探し、反撃しようと提案しかけたところで、佐渡さんが口を開いた。


「そこが奇妙です。どうして追撃をかけてこないのかが不明なのです」

「え? 死角に隠れられたからでは――」

「常識は捨ててください。地を削って私たちを炙り出すぐらい、彼らなら可能なはずなのですが……っ!?」


 不意に言葉が途切れた。釣られて見上げる。

 驚愕で息が詰まりかけた。

 空と雪の境界に、こちらを見下ろす影がある。

 道中、彼女とは何度か話した。山に関する蘊蓄を教えてもらった。会ってたったの二日目だけど、間違えるはずがない。富良野一派が依頼した、本来のガイドさんだ。

 額から血を流す。弾が脳を貫いた跡。文句なしの致命傷だ。断言しよう、彼女は即死した。なのに動いている。俺たち生者を、空虚な眼で捉えている。

 前にも似たようなことがあった。

 問鹿勿花。薄紫色の髪の少女は、頭を殴られ、死んだ。死んでから、心臓を抉り取られた。しかし彼女の死体が、俺と姉を追いかけてきたのだ。

 ゾンビ化……いや、エギン化。より正確には、死体を乗っ取るタイプのエギンに取り憑かれた。体が軽くなった感覚はない。浜世家の養殖エギンが使われたのだ。

 ガイドさんだけでなく、富良野一派の少女だった者たちが、次々と姿を表す。

 生への冒涜。脳が、抑えきれない憤怒を覚え、熱を宿す。問鹿さんの時は、ひたすら困惑するだけだったけど、二度目となれば、その罪深さを理解する。熱に狂い、是非もなく、狙撃手を殺したくなる。しかし跡掛さんがいるから、ここを離れることは出来ない。

 爆発させるな、落ち着け。


「ああなれば、もうダメですよね?」


 佐渡さんに問いかける。


「……ダメかと思われます」

「跡掛さん。ちょっと怖いのが続くけど、我慢してね」


 返事はない。聞こえてないか。

 左手に意識を集中させる。赤玉は、快く力を貸してくれた。手足胴体に淡い赤が灯った。頭もだろう。波動エネルギーの密度が高くなった証拠だ。亜人として成長しているらしい。

 脇を締める。


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