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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第3章 White

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4 登山


 どうにかこうにか、兎にも角にも、富良野一派による巴ちゃん殺害計画を実行しないよう説得することが出来た。と思われたが、奴らは登山準備を隠れて進め、巴ちゃんから同行の承諾ももらっていたことが、その出発三日前になって発覚。リーからの告げ口がなければ見逃すところだった。

 全然諦めてなかった。桃架ちゃんの改心したフリはプロ級だ。すっかり騙されてしまったぜ。そして巴ちゃんはもっと危機感を持った方が良い。何ホイホイついて行こうとしてんだよ。まともな友達なんて今まで一人もいなかっただろうし、初めて同級生から外出に誘われてめちゃくちゃ嬉しかったのは分かるんだけど、君が下心なしに外出に誘ってもらえるわけないだろ。先が思いやられる。

 隣人としてはともかく、亜人の眷属としての巴ちゃんはとても優秀だ。失うのはもったいない。登山の準備期間として三日というのは少なすぎるけど、殺人事件防止のため、俺もついていくことにする。姉に相談すると、支度の問題は立ち所に解決した。

 それどころか、誰よりも気合いの入った山ボーイに変身してしまった。

 山が俺を呼んでいる。

 なんか護衛もつけてもらえるそうだ。高校生一人と中学生数人にするには、あまりに手厚い待遇である。どうも、俺に登山のスケジュールを厳守させるための見張りも兼ねているようだ。申請した以上に学校を休ませるのが気に食わないのだろうか。出席日数は余裕で足りているのだけどなあ。

 椎奈ちゃんも一緒に来るらしい。


「おはようございます、昊刃様。(わたくし)佐渡(さわたり)と申します」


 出発日の早朝、指定された駐車場にて、めちゃくちゃ仕事の出来そうな女性に出迎えられた。背後には三人の男が控えている。角木、三川、吉井が彼らの苗字だそうだ。


「では行きましょう」


 眠そうな巴ちゃん・椎奈ちゃんとともに、銀色のキャラバンに乗り込む。桃架ちゃんたち富良野一派は、本来の登山ガイドさんに運んでもらうようだ。

 道中、好奇心から尋ねる。


「佐渡さんたちの登山経験って、どのぐらいなのですか? 恥ずかしながら、俺は中学の遠足で軽めのハイキングをした程度でして……」

「ヒマラヤ北嶺での雪中行軍のお話でも致しましょうか?」


 真顔になった。

 超えている、プロを。


「我々がいれば基本的に安全と思ってくださって大丈夫です。とはいえ、やはり油断は禁物ですよ、昊刃様。山はとても美しいですが、その美麗さは自然の過酷さより滲み出るものであることをお忘れなきよう」


 恐ろしいが真理だ。ぜひ富良野一派にも教えてあげて欲しい。

 二時間半ほどで目的地に到着した。富良野一派はまだのようだ。車中にて待つ。山麓にあるその駐車場の高度は三百メートルもないはずだが、十一月初旬にもかかわらず、すでに真冬並みの寒さだ。機に乗じて巴ちゃんが抱きついてきたが、温かいのでヨシとする。椎奈ちゃんもさりげなく寄りかかってきた。

 さらに三十分ほど待って、富良野一派が乗るワゴン車が来た。

 あらかじめ、中高生だけでの登山を心配した俺の姉が、安全のため人員をつけてくれたという体で、佐渡さんたちの話はすでに伝えていた。実物を目の当たりにして、桃架ちゃんたちは悔しげに歯噛みした。この有能そうな人らを出し抜いて、巴ちゃんをクレバスに突き落とすのは不可能だと判断したからだろう。

 荷物を持って山道に入る。カチコチになった雪があちこちにあった。まだ序盤だ、高く登るにつれて、雪はどんどん増えてくるに違いない。家のフローリングなら穴だらけにするアイゼンも、雪積もる山では必須アイテムだ。

 木々はほとんど葉を落としているが、霜を下ろしているということはなかった。枝の向こうに広がる青空が綺麗だ。天気が崩れそうな様子は皆無だが、大人たちは注意深く、頻繁に空を睨みつけている。あれが油断しないってことか。

 荷物に引っ張られたのか。前の子がコケそうになったのを支えてやる。


「大丈夫?」「は、はい……」


 息が白い。ガイドさんに提案する。


「ペース落としませんか?」

「そうね、ゆっくりにした方が良いかも。佐渡さんはどう思われます?」

「元気なうちに、あと天気が平和なうちに稼ごうと、少し急ぎ目でしたから。ここから遅めにしても、予定時刻より前に、最初の休憩地に着けます。大丈夫です」

「ですね。ペース下げましょう。鈴木くん、後ろにそう伝えてください」


 およそ三十分後、休憩が始まった。

 気温は低いが、体はそこそこ熱を持っていた。リュックから伸びたチューブを吸う。山小屋での補給はあるが、飲む量はほどほどにすべきだ。

 巴ちゃんが近づいてきた。


「昊刃、そのチューブ貸して」

「は? まさか、もう飲み切ったのか?」

「まさか。舐めたいだけよ」


 あれ? 普通舐めるわよね? みたいなテンションで言われた。正直さは美徳だが、正直だからと言って許されるわけではない。正直に生きると犯罪者になる人種を変態という。君みたいな変態は、子供として大目に見てもらえる間に自重を覚えることが大事だぞ。

 という説教を普段ならかますところだが、登山の休憩途中でまでするものじゃない。軽くチョップするだけに留めておく。そして、脈絡なく巴ちゃんと桃架ちゃんの喧嘩が勃発した。横から椎奈ちゃんが煽る。いつもの展開だ。少し違うのは、桃架ちゃんの方に応援団がついており、巴ちゃんにとって実質アウェーである点くらいか。

 佐渡さんに見られる。止めないのかと問うているのだ。さりげなく視線を逸らすと、先ほど助けた少女が、所在なさげに佇んでいた。富良野一派と思われるが、他のメンバーと会話などしている様子は、今のところ見ていない。

 中核メンバーでもなければ、桃架ちゃん(ボス)の太鼓持ちでもない、数合わせのためにいるだけの、ザ・下っ端って感じの子だ。「どうしてこんなことに……」的な内心が、表情にありありと浮かんでいる。

 栄えある美國中学校にも、まあ色々あるのだろう。平穏な学生生活のために、仕方なく桃架ちゃん(強い奴)の傘下に入ったと予測される。それが、雪山登りを強制された挙句、殺人の片棒を背負わされそうになっていたというのだから、俺でなくとも同情しちゃうね。

 いつもの喧嘩は無視すると決めて、下っ端少女に歩み寄る。


「さっき、怪我とか大丈夫だった?」


 話しかけられると思っていなかったのか、あるいは、元からワンテンポ遅れた子なのか。五秒ほど経ってから、慌てて答える。


「あっ……あっありがとうございました!」「え?」

「あのいえこれは……さっきのお礼で。言えてなかったので……。怪我は、どこも痛くないので、大丈夫です」

「それなら良かった。君も災難だね。巴ちゃんが嫌な子なのは当然として、桃架ちゃんも怪物でしょ? 要は、あの二人の争いに巻き込まれてこの山に来たんだろう? 断れなかった?」

「はい……」

「乗り気じゃないだろうけど、まあ、来ちまったからには仕方がない。ガイドさんも佐渡さんもしっかり見てくれるだろうし、俺も年長者としてなるべくサポートするから、出来るとこまで頑張ろうぜ」


 喧嘩が終わる。順当に桃架ちゃんが勝った。姉に買ってもらったクールな本格登山用腕時計を眺める。あと十分で出発か。

 下っ端女子が呟く。


「かっこいいな……」「ん? 時計が?」

「いえっ、昊刃さんが……あっ! 今の、全然告白とかじゃなくって!」

「分かってるよ」

「その……」


 言いにくそうに、可哀想なものを見る目で、彼女は問いかけてきた。


「鈴木さん、彼女いますもんね……水晴さんが」

「違うよ?」


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