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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第1章 Yellow
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8 作戦会議


 困り果てる。いくら相手が弱くとも、触れられないのでは倒しようがない。作戦会議のため、三階空き病室の丸椅子に座って妖精と向かい合う。

 リーは言う。


「侵入お断りの結界が張られているネ」「壊せないの?」

「特定の存在、この世界の亜人にしか効力を発揮しない代わりにとても頑丈ヨ」

「どうすればいいだろうか」「難しいネ」

「リーが化け物の寝床を探り、そこに向かって、赤玉の波動エネルギーを纏わせたボール的なサムシングを投げる。どうだろう?」

「エネルギーを纏わせるのは可能ネ。けれど、離れた物体のそれを安定させるのは極めて困難ヨ。仮に出来たとしても、エギンの居場所によってはプロ野球選手並みのコントロール技術を要求されると思うガ」

「病院に投げやすい野球ボールがあるという想定は都合が良過ぎるな。野球少年が入院しているというならともかく。自分で言っといてあれだが乗り気はしない。化け物が起きて出てくるのを待つのは?」

「オススメしないヨ。立て篭もられたら厄介ネ。本体をあの部屋に置きつつ、枝葉を伸ばして他部屋の人間からアイテールを奪うかもしれないヨ」

「マジかよ。そんな芸当も可能なのか。まさにエイリアンだ」

「いや、出来るかもしれない(・・・・・・)程度ネ。伸びるタイプの体じゃない可能性はあるし、そもそも立て籠るという選択肢を取るほど知性は備わっていない可能性すらあるヨ。油断は禁物というだけネ。敵が雑魚である可能性に賭けてみるか? まあ、そこまで分の悪い賭けじゃないヨ」

「いや。そういうのは良くない。考える時間はまだありそうなんだろ? 最悪のケースに備える姿勢はちゃんと持つべきだと思う」


 (ウロ)がまだ大きくない今の時期では、出現してから活性化するまで六時間はかかると見ていいらしい。まだ一時間も経っていないから、タイムリミットまでかなりの余裕がある。


「転移するメカニズムはなんだ? ワープホールを(くぐ)ってる感じか? それなら部屋に足を踏み入れた瞬間、体を無理矢理引き戻せば、ホールが閉じた刹那に生じる結界の隙間を狙えたり」

「いや、それでは上手く行かないネ。ソラハの爪先が境界線を跨いですぐ、体のすべてが転移しているヨ。結界が綻ぶという事実もないネ」


 腕を組む。少し経ってから両手を上げた。


「パッと出る案はこれで打ち止め。ごめん、頼りないガキが今回のペア相手で」

「ソラハの適応力は素晴らしくズバ抜けてるヨ。話していて全然ストレスがないネ。ボクの中でキミの株はどんどん上がってるヨ」

「どうも」「待テ。『今回』って言ったナ」

「見てたら分かるよ。亜人と組むの初めてじゃないだろ?」

「………………」


 リーは黙り込んでしまった。あまりいい思い出ではない? (ウロ)からやってくる理性喰らいの化け物たちから世界を救済するのに、失敗の方が成功よりも多い。あるいは、尽く失敗しているのだろうか。

 椅子から降りてしゃがみ込んだ。左手の手袋を取る。波動エネルギーを椅子に纏わせるべく、掌の赤玉を押し当てた。

 床に椅子が沈み込む。慌てて手を離した。半分埋まった状態で止まる。


「アバンギャルドなオブジェになっちまったよ。写真撮っとこ」

「眷属がいれば簡単に倒せるんダガ。主人ほどの出力ではないけれど、変身した眷属も位相ずらしの波動を出せるネ」

「へえ。だったら黄髪の革命志士、浜世椎奈をここに呼んで説得し、魔法少女になってもらう? 五時間で出来る気がしないな。俺が洗脳される目算の方が大きい」

「はあ、色付きの奴らは癖が強いのばっかネ。毎回苦渋を舐めさせられるヨ」

「毎回あんなのを相手してるのか? そりゃあストレスも溜まるわけだ」


 再び波動エネルギーを流し込み、床に埋まった椅子を引き上げた。


「まったく、抜け毛が増えて大変ヨ……っ!?」

「ねえ。あなたたち、何者なの?」


 突然声をかけられた。肩を跳ね上げる。

 振り向くと、出入り口に女の子がいた。俺たち以外、この部屋には誰もいない。

 認識阻害を使っているはずなのに、なぜ?


「色付きダ。感覚の鋭い色付きには効かない場合があるネ」


 リーは呆然と呟いた。

 その少女の髪は、輝かんばかりの青色だった。少し銀色も掛かっている。大きくパッチリとした瞳には、知性と勝ち気な光が宿る。顔立ちは、あどけなさは残るが美しい。中学二、三年生ってところ。

 桃架ちゃんが言ってた青い髪の子だろう。


「床で椅子を沈ませたり浮かせたり。そっちの生物だかぬいぐるみだか分からないリスは、羽ばたきもせず飛んでいる。オカルト的だわ。会話の内容も」


 尤もな指摘だった。側から見ればどう見ても、見ていて恥ずかしいほどのオカルト的存在だ、俺たちは。

 少女は続ける。


「我が物顔で病院を彷徨(うろつ)いてるあなたたちに、お医者さんも看護師さんも、誰も気づいていないの。なのに私だけ気づいた。気味が悪いからついてきてみれば、男の方はエコー室で突然消えたりして。何がなんだかさっぱり分からないわ」


 まさか、尾行されていたのか。リーに視線を送ると、彼は首を横に振った。リーも感知していなかったらしい。この子、出来る。


「もう一度聞くわ。あなたたち、何者なの?」


 何者かと尋ねられ、すぐに答えられるような言葉なんて、俺は持ち合わせていなかった。まだ高校生のガキである。俺が何者で何を為すため生まれてきたのか、こっちが聞きたいくらいだ。

 とはいえ、相手はさらに年下の中学生だし、しかも、そういうことを問われているのではない。


「先に言っておくと泥棒じゃない。この病院に現れた化け物を駆除しに来た、スズメバチのやっつけ屋的なあれだ。化け物はまだ活性化していないけど、超音波検査室で結界を張って閉じこもっていて、俺だけ近づけない。攻めあぐねて作戦会議中」

「あなただけにしか倒せないの?」

「そう。今はまだね。こっちのリス妖精はサポーター兼アドバイザー。彼の力で姿を消している。君には効かなかったようだが」

「そうネ。ボク妖精、戦いでは無力ヨ」

「ふうん……ここは危ないのかしら?」


 語尾が少し弱々しかった。オカルティックな俺が吐き出す一言一言、すべて眉唾で疑わしいものだと思うのだけれど、信じてくれたのだろうか。この子は賢そうだ。

 妖精と床に沈む椅子という二つの超自然を見たが故、100%嘘であるとは限らないと判断したのだろう。


「危なくなるかもしれない。でも、君が協力してくれたら解決する」

「私? 私に何が出来るというの?」


 そう言って、青髪の少女は訝しげに首を傾げる。

 リーと目配せした。革命志士よりは圧倒的にまともそうだ。まさに求めていた人材。揉み手になって彼女に近づく。


「この私めと契約し、是非とも魔法少女になっていただけないでしょうか?」


 彼女は驚き、一瞬だけ喜ばしげな表情をしたのち、取り繕うように咳払いした。照れ隠しに条件を付けてくる。


「いいわよ。その代わり、頼みたいことがあるのだけれど……」


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