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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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エピローグ


 邪馬台国の人々は、外で跳梁跋扈する化け物の脅威に晒されぬよう、境界から離れた里の中央で、固まるように暮らしている。人口は十万を超えるが、そのすべてが浜世家の血族というわけではない。「従民」と呼ばれる彼らは皆、大昔、浜世家の異能に魅入られ、里に移住した者たちの子孫であり、主人たる浜世家の面々が化け物退治の修行に専念出来るよう、環境を整える役目が与えられている。

 出たい者は出られるが、日本語と簡単な算数に関するもの以外の、知識を含めた記憶すべてを消されるため、従民の外出希望者はほぼゼロである。また、現在は外からの移住者を受け入れていない。

 生活区域の中心部は高層和式(・・)建造物の密集地帯であり、平安屋敷の寝殿が幾重にも積み重なった建物が、あちらこちらに乱立している。その様は、ニューヨークのマンハッタン地区を彷彿とさせた。本来は高層化出来ないはずの造りだが、独自の建築技術と彫り込み型の術式(コード)がそれを可能にしている。ビルの合間を縫うように移動する無数の人々のうち、浜世の血を引く者はほんの一握りだ。

 ここだけ切り取れば、新宿などと遜色ない光景。浜世椎奈は邪馬台国を「忍者の隠れ里」と評したが、これは適切ではない。より正確には、適切ではない地区もある。ただし、隠れ里のような雰囲気の地区もあり、浜世家の多くはそこで暮らしているから、間違いとも言い切れない。

 さらに、椎奈は里そのものを極端な実力主義社会であるかの如く表現したが、序列を重んじるのは浜世家内だけであり、従民には当てはまらない。むしろ彼らは、術師(スター)たちのランキングをただの娯楽として捉え、それが許されていた。術師たちと比べて、従民たちの権利が極端に抑えられているということもない。

 もちろん、浜世家だけの優遇措置もある。例えば、和式ビル群の中には、浜世の血を引く術師であれば無料で自由に利用可能な施設が複数存在する。食事のみのレストランから賭博場やプールなどを備えた高級ホテルまであり、ヴァラエティに富んだ内訳だ。

 その一つの、地上三十メートル付近にある一室に、格子窓の縁に肘をかけ、品の良いキセルを(ふか)せながら、行き交う多数の従民たちを見下ろす、浜世家の男がいた。アラフォーの中年男性である。

 彼は呟く。


「呑気なもんだな」「まったくです」


 そう答えてから、キュー(ビリヤードの棒)でボールを突く別の男。こちらは若い。事実、二十歳になったばかりだ。

 九つの球が穴に吸い込まれた。


「六華くんは災難でしたね」

「いい友達が出来たと喜んでいたのに、殺し合う羽目になるとはな。父親として悲しいし、残念だし、それに心配だ」

「まだ寝込んでいるのですか?」

「ああ。ショックだったのだろうよ。ありゃあ惚れてたな。無自覚だったかもしれねえが。怪我も酷いし、仕方ねえよ。……右腕は治るか?」

「日ノは優秀です。時間は少しかかるでしょうが、治りますとも。問題は六華くんが、肝心の『いい友達』が誰かを忘れてしまったことです。さっぱりと」


 亜人の名前を問われた時、六華はそれを口にしようとして、しかし答えられなかった。眷属もだ。会話した記憶はあるにもかかわらず、彼らの姿と名前だけ、ぽっかりと穴が空いたように失われているのだと彼女は主張する。

 亜人が男性であるのは間違いない。が、容姿はおろか、年齢まで曖昧で、小学生ぐらいであったようにも思えるし、逆に父親と同じぐらいであったようにも感じられると言う。だが、六華の父親たる中年男性、無頼は、娘が惚れそうな男として、彼女と同年代あるいは少し年上程度の、爽やかな見た目で、かつ話しかけやすそうな少年なのではないかと目星をつけていた。

 無頼は、青年――序列二位の術師・枢機に向き直る。


「『亜人』の妖術かね?」

「『リュカ』について記した文献には、『亜人』が記憶操作系の技を扱うという旨の記述はありませんでしたが。まあ別に、使えても驚きはしません。ただ……」


 何かを言いかけて、枢機は口を噤む。


「どうした?」「いえ、忘れてください。先生」

「先生はよしてくれ。お前はもう俺より強いじゃねえか」

「強弱の関係ではないでしょう、先生と生徒というものは」

「そうかぁ?」


 首を捻りながら、無頼はキセルをひっくり返し、灰皿に打つ。

 本当に忘れたようだと安堵し、枢機は「ところで」と話題を変えた。


「先生は気づいてらっしゃいますよね? 透圧の平均値が毎日少しずつ下がり続けています。放置すると世界が終わる」

「ああ。だから儀式を行う必要があるんだろ? バランスを保つためにな」

「…………」


 枢機は微笑む。ボールを置く手を止めた。


「先生は、ご自分が食べた『種』の数を覚えていますか?」

「そりゃあ、寿司を食った回数を聞いてるのと同じよ。常食してるわけじゃねえが、片手で数えきれないぐらいには噛み砕いたよ」

「ですよね。僕もそうです。片手で数えきれないくらい食べました。食べてしまいました」


 枢機は(かぶり)を振る。過去は過去で、もうやり直せない。そう言いたげな顔だった。無頼は訝しむ。種がどうしたというのか。浜世家の術師は何百年にも亘って、何ら疑問を抱くことなく、種を力のブースト剤として使ってきたというに。


「俺をここに呼び出したのはお前だ。俺にどうして欲しい?」

「会っておきたかった、ただそれだけです」


 嘘だと無頼は直感した。彼の勘は鋭い。何かを伝えたい。何かを仄めかしたい。しかし、今はまだ言えないのだと理解する。

 枢機はボールを突く。先ほどとは異なって、球が一つ、ステージの上に残ってしまった。「あらら」と頭を掻いてから、枢機はこう締めくくる。


「亜人はここに攻め入るでしょう。宿命の糸をなぞって、必ず邪馬台国を潰しにくる」

「宿命?」「期待してますよ。先生には」


 無頼の問いには応じず、残った球をそのままに、枢機は部屋を出て行った。


第二章はこれで終わりです。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。まだ続きます。第一章の終了時、四章構成にするなどと言っていましたが、多分プラス一章します。

 頑張って書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。次回更新は一週間後です。


 ポイント評価や感想等、何かしら反応があるととても嬉しいです。特に、ミスはたくさんあるはずなので、見つけたらぜひ報告していただけると幸甚です。五年くらいweb小説を書いてきて、一人で書き続けるのは自分にとって難しくないという結論に至った一方で、一人で「一つの」小説を矛盾やエタリなく書き続けるのは非常に難しいと思いました。

 飼ってるメダカに餌を与えるぐらいの気持ちで助けてくださるとありがたいです。

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