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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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39 計画が狂ってきています


「うわあ、美少女にも程があるー。かわいすぎー。どんな服でも似合うー」

「お義姉さんも綺麗じゃない。昊刃の血縁だけはあるわ」


 巴ちゃんと俺の姉が、バーチャルコーディネートアプリで遊んでいる。人物の写真を読み込ませたのち、適当な言葉を入力すると、そのイメージに沿ったデザインの衣装をAIが作成し、被写体に着せてくれる。

 一人でもズレが生じるが、二人以上写っていると必ずバグるらしい。


「明日は平日だろ。もう寝なくていいのかよ」

「そうね。でももうちょっとだけ」


 おざなりな返事だった。入力するワードを必死になって考えている。巴ちゃんを可愛いお人形扱いしていた。巴ちゃんの方も嫌がっていない。

 姉の容姿は「もし鈴木昊刃が女性だったら」をそのまま体現している。だから親近感が湧くのだろう。むしろ嬉しそうだ。よく懐いている。ピンクのとか黄色いのとかが会話に混ざらない限り、やらかしそうな気配はない。

 帰る時、巴ちゃんをここに置いていったらダメかな?


「昊刃。巴ちゃんを貸して。巴ちゃんと一緒に寝たい」

「どうぞご勝手に。そもそも俺は、巴ちゃんと一緒に寝たことはない」

「えー。こんなに可愛いのに。勿体無い」

「そうよ昊刃! こんなに可愛いのに! 勿体無いわよ!」


 便乗するなよ、うるさいな、耳奥がキンキンする。君のエクスクラメーションマーク付きセリフは、寝る前に聞くには刺激が強すぎるんだよ。

 三色娘は物置用のスペース、しかし姉は物を買わないため伽藍堂、で寝る予定だった。恐らく巴ちゃんは毎晩姉にレンタルされるだろうから、物置は残りの二人専用になる。桃架ちゃんは飯食って風呂に入った後で即眠ってしまったし、椎奈ちゃんもついさっき布団に入ったところだ。

 俺もそろそろ寝たい。

 来客用の敷布団は二つだけ。中学生女子三人を並べるにはちょうど良い広さだったが、中学生女子二人と高校生男子一人だと少しキツい。そもそも俺は、異性の許可なく同じ布団に入れるほど神経の太い人間ではなかった。

 当初の予定通り、廊下で寝ることにする。ヨガマットを敷き、姉のコート二枚を掛け布団に、桃架ちゃんのリュックを枕に。先ほど、姉は通販サービスで布団一式を新たに発注してくれたが、さすがにまだ届いていない。今夜はこれで我慢しよう。

 リュックの妖精リスに、小声で「おやすみ」と言った。コソコソと這い出てきて、コートの袖に収まるリー。

 目を瞑る。


「計画が、狂ってきています」


 目を瞑って、すぐに声をかけられた気がした。

 深い眠りについていた。夢を見ていなかった。

 くっつく瞼をこじ開ける。微睡みながら、ゆっくりと思考する。

 見下ろされている。誰だ? 姉でも、桃架ちゃんでも、巴ちゃんでも、椎奈ちゃんでもない。でも知ってる声だった。

 名前を呼ぼうとする。しかし、モヤがかかったように思い出せない。とにかく、ここにいるはずのない人物だった。

 得体の知れない恐怖によって、脳が瞬く間に覚醒する。


「占い師の、お姉さん?」

「こんばんわ。帝国に連なるお方」


 軽い調子で挨拶してきた。十月の深夜、シンとした廊下に、余韻が鈍く響いた気がした。声の裏にある感情が読めない。

 続く言葉を待つが、どうして彼女がここにいるのか、その説明はない。

 尋ねる。


「あの、鍵、かかってましたよね?」

「そんなもの、私の前では無意味ですから」


 は?

 私宅、況して鍵のかかっている物件に、勝手に入ってはいけないでしょう、との意図を込めての質問だったが、お姉さんは言葉通りに解釈したらしい。

 この人は昨日の昼時、致命傷だったはずの首の傷を、サッと撫でるだけで簡単に治してみせた。あれはまさしく超能力だ。鍵開けくらい出来ても不思議じゃない。

 しかし、鍵が無意味だという理由で、人は不法侵入などしない。

 それこそ無意味だ。

 あり合わせの簡易布団から起き上がる。

 亜人は夜目が利く。お姉さんを睨んだ。


「あなたの目的は?」

「単刀直入に聞きます。戻ってきてもらえませんか?」

「戻るって、どこに?」

「あなたの住んでいる……本来いるべき街にです」


 頼まれる。訳が分からない。どうしてお姉さんが、俺に元の住処へ戻るよう言うんだ? この人は、亜人についても、浜世家についても知っていた。事情通なのだろうけど、しかしお姉さんと俺の関係は、連続色付き殺人事件の捜査官と事件の情報提供者に留まっている。

 俺がどこに住もうが、文句を付けられる筋合いはない。


「戻れば浜世家がちょっかいをかけてくるんですよ」


「昊刃くん。あなたが九日と十三時間あの街にいないだけで、世界のバランスが崩壊するのです」


「…………はい?」

「九日と十三時間以上、あの街から離れる予定でしたね? ダメです。海で一週間程度遊ぶくらい構いませんが、此度の遠出は許容出来ません」

「お姉さん、待ってくれ。あんた何言って――」

「浜世家の件ですが」


 間髪入れずに彼女は続けた。異論を挟む余地がない。


「雑魚と一回、小娘と一回小競り合いする程度で終わらせないでください。あの街で、もっと命懸けで戦ってください。王道少年漫画のように」


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