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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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37 東京に逃亡


 というわけで、やってきました東京。光あり闇もありの大都会。

 もちろん遊びに来たわけじゃない。白西の行方を探ろうと、ロクに準備もせずに浜世家に仕掛けた結果、どうもその一員だったらしい六華ちゃんに俺の正体がバレた。だから逃げてきたのだ。鈴木昊刃=亜人という事実は、すでに浜世家全体で共有されているだろう。事態は深刻だ。

 逃げ先に東京を選んだのは、人がたくさんいるから隠れやすいだろうと、そういう浅はかな考えによる。

 小学校の体育館倉庫で一夜を明かし、翌日、代々木公園に足を運んだ。

 モミジとイチョウの鮮やかな葉が、木々の間を舞う。足元に広がるは、赤と黄で彩られた、自然由来の絨毯だ。秋の代々木公園を、一度見てみたかった。

 人の手で管理されている以上、完全に自然とは言いにくいけど、それはそれで、整備された美しさを感じる。なんと素晴らしい。走り回りたい。

 振り返る。我が眷属たちよ。分かち合おう、この感動を。


銀杏(ぎんなん)が臭いわね」


 髪に引っかかった落ち葉をバチンと払い落としながら、巴ちゃんは言った。

 桃架ちゃんが応える。


「でも食べられるよ。青クズ」

「食べることと戦うことしか考えてないんじゃないの? あんた蛮族? そして、ナチュラルに青クズって呼ぶのやめてほしいわね。傷つくから」

「うーん、お店で出された料理に入っていたとかならともかく、自分で拾った銀杏を食べる気にはならないなあ。お腹壊しそうだしさ。というか、拾い集めたくもないよ」

「え? でもイチョウって黄色いし、椎奈さんに似合ってると思うよ。銀杏(ぎんなん)

「そうね。椎奈のパーソナルフルーツに設定してもいいと思うわ」

「うーん、君たち、こかすぞ? ここで転んだら悲惨だぞ?」


 三人が三人、互いの足元を狙い始める。ジリジリと。すごい緊迫感。

 銀杏は果実じゃなくて種子だろ、イチョウは被子植物なんだし、というツッコミは、めんどくさいという理由で、喉から出る前に消える。

 とはいえ、こいつらに服を汚されては困る。クリーニング代が勿体無い。巴ちゃんの頭にチョップを決めて、争いを止める。


「えっ、なんで私だけ!?」「一番罪悪感が少ない」「ひどいわっ」

「とりあえず、最優先事項は金策だな。桃架ちゃんのお母さんは保護者としての責任を取れる状態じゃないし。皆さんの面白い意見を大募集」


 パッと自分で思いつかなかったので、丸投げしてみた。

 すると、頼りの綱から真っ先に釘を刺される。


「先に言っておくと、身分証の偽造は出来ないわよ」

「そんなぁトモえもん。なんとかしてくれよぉトモえも〜ん」

「いやぁ、こういう時のIT担当じゃないの? ヒソヒソ」

「まったく、使えないねぇ。そろそろ退場かな? ヒソヒソ」

「なんなのよ、そのエンジニアキャラに対しての肥大化した期待はっ! フィクションに毒されすぎよ! フィクションは規制すべきだわ! そもそもねぇ、機材もお金もないのにいったいどうしろっていうのよっ!」


 フィクションは規制すべきには賛同しないけど、それはそう。


「わざわざ特別に策なんて練らなくても、リーの認識阻害と昊刃のすり抜けの力を駆使して、そこらのATMから奪えば良いじゃないのよ」

「ンネ?」


 桃架ちゃんのリュックから、ぬいぐるみと生き物のキメラ、もっと言うとCGアニメ感のある風貌のリスが顔を覗かせる。


「ダメでしょ巴ちゃん。犯罪じゃないか。ホント、しょうがない子だなもう。そんなんだから嫌われるんだぞ」

「私は最近、もしかして自分は嫌われてないんじゃないかと思っているわ。この美しく高潔な私が嫌われるわけがない……嫌われてなんかないわよ!」

「それは大きな勘違いだよ青クズ。でもお兄さん、青クズの提案にも一理あるよ。お金がなきゃ、物を盗むしかないんだよ? 私、お腹空いた」


 シュンと項垂れる桃架ちゃん。ここだけ切り取るとしおらしくかわいそうに見えるけど、実はこの女、朝、一人だけ我慢出来ずに、泊まった体育館から備蓄食糧を盗んでむしゃむしゃとかっ喰らっている。気づいた時には三食分も平らげていた。止めなければもっと食べていただろう。

 普段から俺の食事を奪いがちな桃架ちゃんだけど、あれでも自制していたのかもしれない。しかし、白西にも言いたいが、他人の飯は取らない方が良い。


「君たち。元々犯罪者みたいな水晴氏や、すでに盗みに手を染めた富良野氏と違って、私と昊刃氏は潔白の身なんだ。悪の道に引き摺り込もうとしないでくれ」

「昊刃を刺したあんたが何を言ってるの?」

「ううむ、そんな昔の話を持ち出されても」


 困惑する椎奈氏。いやその事件、そんなに昔の話じゃないぞ。

 桃架ちゃんが主張する。


「とりあえず、さっきのはみんな共犯ですよ。私たち、仲間じゃないですか!」


 都合の良すぎる仲間論。さりげなく一歩離れたら、二歩近づかれた。

 神よ、この子たちの性根は、いったいどこで捻じ曲がったのでしょう。それとも女子中学生というのは、みんなこんなもんなのですか?

 呆れたように「大事よね、自己責任」と言ってから(お前が言うな)、巴ちゃんはさらに続ける。


「ところで昊刃。昨日、私とファーストキスを交わした、その責任を昊刃にどう取ってもらうかについてを話したいのだけれど」

「ただでさえカオスな場に、さらにカオスな爆弾を投げ込まないでくれ。話は逸らさない。とにかく、他人に迷惑をかける系はナシという方向で、お金の問題を解決するんだ」

「難しいんじゃないか、未成年の私たちじゃ」

「理想と現実は違うのよ。結婚の前祝いをもらったと見做せばウィンウィン!」

「ご飯を食べるためのお金に、汚いも綺麗もないと思います!」


 そうだね桃架ちゃん。でも人の心には、汚いも綺麗もあるんだよ。

 あと、巴ちゃんの支離滅裂な発言にはもうツッコみきれないが、結婚の前祝いと称して泥棒を働く奴は死ねばいいと思うぞ。

 最終的に泥まみれになるとしても、せめて、清らかに生きる努力はしよう。

 人差し指を立てた。


「一つだけだが、アテがある」


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