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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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35 回復ポーションは厄介


 油断大敵という言葉の意味を、こんなに強く思い知らされたことはない。

 痛みを堪える。二撃めをかけられそうになったから、椎奈ちゃんが倒れている場所まで後退した。腹に刺さった見えない刃は、亜人の力ですり抜けた。

 真っ赤な火を小さく出し、傷口に押し当てる。亜人と無関係なモノはすべて燃やし尽くすが、亜人とその眷属ならば、逆に回復させられる。椎奈ちゃんにも火を分けて、どうにか流血は止める。

 ふらつく。疲労で死にそうだ。火、つまり圧縮された波動エネルギーは、使うのに著しく体力を消耗する。校舎に閉じ込められた時、火で脱出出来ないかと試したのが仇になった。

 椎奈ちゃんは起き上がろうと懸命に頑張るが、動きが実に弱々しい。もう戦えないだろう。庇うように前に立つ。


「ソラソラが亜人だったでありますか。全然気づかなかったであります」


 六華ちゃんは、親しげにそう言った。嘘を吐いているようには見えなかった。

 俺も正直に答える。


「こっちも、六華ちゃんが浜世家だったなんて、思いもしなかった」

「ソラソラとは、ずっと友達でいたかったでありますよ」

「俺もだよ。こういうすれ違いは、生まれて初めての経験だ。悲しい。悲しいよ」

「まったく、ままならぬものでありますな。人生は」


 互いに構えた。

 ここに至って、命の奪い合いは不可避だ。しかし先ほどの椎奈ちゃんとの攻防から、六華ちゃんが簡単に殺せる相手じゃないことは分かっている。椎奈ちゃんを連れて逃げる選択肢も考慮に入れる必要がある。

 本当は、戦いたくない。素直に逃げたいよ。しかし、本能が理解してしまっているのだ。どう終わるにしろ、ここでぶつかるのは宿命だと。

 彼女は再び口を開いた。


「一つだけ。ソラソラは、蝶は綺麗だと思うでありますか?」

「羽だけなら。所詮、虫だ」「そうでありますな」

「こちらからも一ついいか? 君は、白西里火という可愛らしい女性を知ってるかい?」

「可愛らしい女性?」


 ムッとした表情で答える。


「我輩より可愛いでありますか?」


 腹を刺されて火を使って、だから弱って無意識に言ってしまっただけだが、そこに食いつくか。まあでも、肝心の名前の方には無反応だったし、白西の誘拐については、この子は無関係と考えてもいいのか。


「人の前で可愛さ比較はしない主義だ」

「意気地なしでありますなあ」


 鼻で笑われる。昔、白西にも同じことを言われたっけ。室は好ましいと言ってくれたが、女子からのなあなあ紳士への評価は、必ずしも高いわけではないらしい。

 邪魔な左手袋を外す。赤玉の力を少しでも使いやすくするために。


「グロテスクでありますな。体と同化し、脈づいているであります」

「取り外し式じゃないんだよ。だから苦労した」

「玉だけポンというわけにはいかないでありましょうなあ。しかし、ソラソラをボコボコのケチョンケチョンにして、本体丸ごと持っていくというのも、良心が咎めるでありますし。あ、そうだ」


 六華ちゃんが、良い案だとばかりに提案してくる。


「左二の腕だけくれであります」


 物騒なお願いだった。

 密度を上げた波動エネルギーで、咄嗟に左腕を守る。燃えるほどまで高密度にはしなかったが、半透明の赤い鎧となった。

 甲高い音が鳴る。攻撃を防いだ証。響きからして、刃物で斬られそうになったと思われる。見えない刀剣か。

 厄介だな。赤い鎧で全身を固められたらいいが、しかし不可能で、この防御法には回数制限がある。火よりはまだマシだけど、非常に疲れるのだ。エネルギー切れを起こせば、亜人になって向上した身体能力が落ちるわけではないものの、およそ五分間、ほぼ普通の人間と化してしまう。

 妖精に呼びかけた。


「リーッ!」


 意図を汲んでくれたらしい。椎奈ちゃんに認識阻害を使う。パッと彼女の姿が消えた。六華ちゃんが驚いた隙を狙う。殴打のフェイントを入れると、慌てて腕で守ろうとした。不可視の刃を纏っているはずだ。太刀振りの構えではないが、触れれば傷つく。

 ガラ空きの脇に蹴りを入れる。肋骨(あばら)を数本やったはずだ。六華ちゃんはまだ驚いている。俺の動きが予想外に俊敏だったのだろう。正直に告白すると、想定よりもずっと速く動けた。最近エギンと戦えていなくて、鈍っているとばかり思っていたのに。

 亜人としての成長期にあるのか。

 ポケットから小瓶を取り出し、中の液体を浴びる六華ちゃん。細かな傷が治っていく。もしかしてあれは、回復ポーションってヤツか? 鳥矢のやってるファンタジーゲームで頻繁に登場していた。

 心中で舌打ちする。何本持ってる? 数があるなら、一撃で意識を奪わなければ勝てない。彼女に近づこうとして、寒気がしたから横に飛んだ。

 轟音と共に地面が抉れる。余波で瓦礫の山も吹き飛ぶ。

 残心を取る六華ちゃん。

 警戒を一層強める。この子は本物だ。本物の異能者だ、浜世京之助などとは格が違う。術師集団浜世ファミリーには、こんなすごいのが何人もいるのか? だとすると気が滅入る。

 命を懸ける覚悟が要るな。

 殺すかどうかで悩む余裕などないらしい。

 彼女の攻撃は当たり判定の範囲が広く、火力も高い。不可視の武器は刃だけとは限らず、実際、椎奈ちゃんに対して打撃系の技を放っていた。武器を纏えるのも腕だけじゃないかも。あと、亜人(おれ)と同じく、「この世界」と「少しズレた世界」を隔てる薄皮一枚を、この子も越えることが出来る。回復アイテムも持っている。ああ、占い師のお姉さんからの情報を信じるならば、水なしで鈍色バブルを開花させてくる可能性もある。

 鈍色バブルは抜きにしても、すでに判明している能力だけで強い。ゲームだったらバランス調整が入るだろう。MP消費が激しいとか、懐に入られると弱いとか。予想外の事態に驚くと固まるという精神的な脆さはあるみたいだけど、さっきのような失態はもう晒すまい。

 見えない斬撃を推測と勘で躱す。コンクリートと死体の破片が散らばった。

 睨み合う。視線のみで探り合う。

 どうやら、向こう()策があるようだ。


諸事情により来週は休みます。

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