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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第1章 Yellow
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7 落下


「考え得る限り最悪の場所だぞ!」


 走りながら悪態を吐く。

 俺とリーは現在、化け物が現れたという病院に向かっている。

 病院には人が大勢集まっている。患者がいる。街の宝である医者や看護師がいる。彼らの理性が化け物に奪われた時、どのような事態になるかを完璧に予測するには俺の能力は足りてなさ過ぎるけど、しかし死者がたくさん出るのは間違いない。


「慌てるナ。落ち着けヨ。まだ世界の(ウロ)はそれほど大きくないネ。入ってくる化け物は雑魚ヨ。異界に迷い込んですぐ活動を始められるほど強くはないネ」

「現在進行形で被害が出ているわけではないと? なら落ち着いた方が良さそうだ。化け物は、病院の外か内か、何号館にいるとか分かる?」

「近づけば判別可能ヨ。ただ病院内に入ってしまうと、人の気配と混ざって正確な居場所は特定出来ないと思うネ」

「かと言って、もし病院の中にいた場合にさ、探すためにあちこち彷徨(うろつ)いてたら、顰蹙買うし追い出されるぞ」

「泥臭く探し回る必要はないヨ。その理由は後で説明するネ。とはいえ、患者や医者に注目されると困るのは確かネ。妖精の力で認識阻害出来るヨ」

「そりゃあ助かる」

「ボクの意識が途切れたら、連動して認識阻害効果もなくなるのに注意するネ」


 リーが気絶する基準について気になったが、それを聞き出すことよりも、休日返上で練習する陸上部の高校生が心掛けているぐらいの安全走行を優先する。

 十分弱で病院前に到着した。リーは首肯する。二号館にいるようだ。

 ここは日曜でも平常進行だ。入口から堂々と入る。人はそれなりにいたが、誰も俺たちに注意を向けない。それ自体は別に不思議じゃない。

 受付の前に行ってパントマイムを踊ってみる。反応されなかった。


「本当に認識されてないな」「ソラハは随分と思い切りがいいネ」

「時と場合によるな。恋とババ抜きではいつまでも迷うタイプ」

「その二つで迷わない奴はただの馬鹿ヨ。断言するネ」

「ありがとう。馬鹿の方が賢いこともあるパターンだな。さっき言ってた、化け物を探さないでいい理由を教えてくれないか?」

「ソラハの左手がすり抜けるのは、紅の宝玉から放出される特殊な波動によって、肉体部分の位相が少しズレるからネ。ズレた先の位相がエギンたちの居場所と一致しているから、ソラハの左手は奴らに当たるのヨ」


 エレベータに乗る。三階で降りた。病室のあるフロアだ。

 廊下の途中で止まる。ちょうど二号館の真ん中辺り。


「波動を感じロ。そして捉えロ。波の範囲をゆっくり引き伸ばし、この世界にあってはならない不和を探し当てるンダ。波がエギンに当たれば、左手に違和感を覚えるはずネ」

「はあ。………………」

「いきなり言われて難しいのは分かるヨ。まず、左手に意識を集中さセテ」

「いた」「エ?」「二階、超音波検査室」


 超音波検査とは、体内に送った超音波の反射波から、臓器の測定を行う検査を表す。その機能は奇しくも、ちょうど俺がやったことと似ている。


「行こうか」「あ、アア……」


 階段で二階に降りる。途中、調剤室から出てきた室の母親とすれ違った。顔見知りだが、やはり反応されない。認識阻害ってすげー。

 犯罪し放題だ。


「防犯カメラには?」

「映らんネ。記録媒体への備えは万全ヨ。とはいえ、ソラハが引き起こす現象すべてを隠し切ることは出来ないネ。例えば、ソラハが部屋の扉を開けた場合、中の人からは扉が一人でに開いたように見えるヨ」

「なるほど。不自然だ。幽霊騒ぎが起きそう」


 幸い超音波検査室は無人だった。鍵がかかっているものの、すり抜ける左手を使えば簡単に開けられる。周囲を確認したのち、扉をゆっくりスライドさせた。


「活性化前の個体なら、ちょっと叩いてやれば死ぬヨ」「脆いな」


 部屋は暗いが、電気を点ければ不審に思われるだろう。スマホのライトをオンにした。中に足を踏み入れる。


 踏み入れた、はずだった。


「は?」


 床を踏み締めるはずだった足が、空を切る。


 風を感じる。空気をかき分けていく。

 真っ逆さまに落ちていく。

 やばい、

 やばいやばいやばいやばい!?

 背筋が凍る。全身固まりそうになる。

 白西の顔が浮かんだ。死にたくなかった。


 左手の赤玉から波動とやらを放出し、全身を覆い尽くす。位相をズラせる箇所が、左手だけである道理はない。

 咄嗟の機転だった。目算が外れ、大怪我を負う可能性はあった。

 しかし俺は賭けに勝った。ダメージなく地面をすり抜け、ズブズブと沈んでいく。浮かべ、そう願えば浮かんだ。波動の放出をやめ、立ち上がる。

 ドッと疲れが来た。心臓がバクバクと鳴る。

 生きた心地がしなかった。


「くそう。何がどうなってんだ、この野郎」


 辺りを見回した。どこだここ。建物のカゲになっていて薄暗い。車がまばらに停まっている。

 二号館裏のスタッフ用駐車場か。


「ソラハ!」


 スタッフ用の出入り口から妖精リーが現れた。心配そうな表情だ。三日間付き合って、リスの気持ちが少しだけ分かるようになってきた。


「なあリー。気づけば屋上からフリーフォールしていた。死ぬかと思った。これは化け物の力で空間転移させられたのか? 異能力バトル系の創作でよくあるパターン」

「ンネ。明らかにおかしいヨ。現段階で出現するエギンにこういうトリッキーな特殊能力が備わっているナンテ」

「現段階、ね。(ウロ)が大きくなると?」

「特殊能力持ちがデフォルトになるヨ」


 シンプルに怖いな。今みたいな感覚はもう味わいたくない。死角を減らすためにも眷属は必要そうだ。

 二号館の超音波検査室前に戻る。再度入室を試みたが、また屋上に投げ出されて終わった。リーは入れるらしかった。やってきた医師や技師も、普通に出入り出来ていた。拒絶されているのは俺だけらしい。

 眷属たる桃架ちゃんが変身出来ない以上、化け物を倒せるのも俺だけだ。


急に屋上に呼び出されて突き落とされない程度には良い人間関係を築こうと思い生きています。

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