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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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32 椎奈のささやかな復讐


 血を吐くほど努力しても、序列最下位の現実は変わらなかった。

 誰も私に期待しなかった。出来の悪い者には軽蔑されることが多かった。嘲笑われる度に天皇の護衛者としての責務(せきむ)と心得を説き、よりいっそう馬鹿にされた。普通以上の近衛士には徹底的に無視された。いない人扱いされた。浜世家では色付きは忌み子とされる。関わりたくないのは当然だろう。あるいは同情してくれる者もいた。「人一倍努力してるのになあ」、攻士の先生が言ってくれたこの言葉が、はっきり言って一番堪えた。父は私の味方で、あらゆる悪意から守ってくれたが、期待はしてくれなかった。

 私は肯定されたかった。すごい自分になりたかった。


「ほら、君たち。私を見てくれ」


 煌びやかに変身した私を。衣装のベースは白の修道女服。十字架はなく、代わりに、翼羽ばたく(つるぎ)のペンダントが胸に光る。あちこちにあしらわれた美しい幾何学模様は、すべて山吹色に輝いている。

 私の髪と同じく。変身すると、黒染めが取れる。

 救難信号を受け取って来たのだろう二人のうち、少年の方が言う。


「お前、黄髪のっ! ……裏切り者があぁっ!」


 少年は、昊刃氏に意識を奪われた男の弟である。私の同級生で、いじめグループの主犯格だった奴だ。顔も見たくなかった。名前は、なんだったっけ?

 女の方は、怒り具合と老け具合からして母親か。疎外されていたから、里の人間関係はあまり把握していない。

 憎しみと蔑みで、奴らの表情は歪みきっていた。黄色い髪の落ちこぼれ如き、楽に制圧出来ると思っているのか。

 笑わせる。私はもう、あの頃とは違うのだ。

 力を得た。

 家族二人揃って、服の下に手を入れた。そして、巻き付けてあった糸の塊を取り出す。

 即座に武器の形を成した。憎き同級生の糸は刀に、母親らしき女の糸は槍に。浜世家の血が流れている者のみ扱える特殊な道具、式似唐具の一つ。触れるだけで望む武器に形を変える。持ち運びがしやすく、遺物(レリーフ)の使えない近衛士には好んで用いられる。

 その糸束は、私にはほぼ反応しなかったが。

 突きと斬りつけの交差を跳んで躱す。天井を蹴り飛ばし、同級生の頭に肘を落とした。翻れば、私の頭があった場所を、槍の穂先が通過する。よくもまあ、この狭い部屋で、そんな長物を選べたものだな。

 変身し、飛躍的に向上した身体能力は、利き手でない指先のみで体を支え、バネのようにしならせて、自分よりも背の高い人間の顎に爪先をぶち当てることを可能にさせる。女の方はこれでおしまいだ。

 ふらつきながらも倒れなかった同級生が、目を見開いて激昂した。


「てめえぇっ!」


 同級生が叫び、振りかぶる。やっぱり女は母親か。

 剣のネックレスに手を伸ばす。刃渡りおよそ八十センチの刀として、掌に収まった。糸の刀を受け止める。弾き返した。

 そのまま室内を走り回り、五、六合と斬り結ぶ。

 火花が飛び散る。


「なんで……っ、押し負け……っ!?」


 敵わないと悟ったらしい。泣きそうな声で言う。最初に刀を合わせた時から分かっていた。私の方がこの雑魚より圧倒的に強い。実の所、押し返してから切り返しを行う余裕はいくらでもあった。

 でも。


「ずるい……」「ん?」

「ずぅるいよぉおっ!」


 そうだよ。ずるいだろうよ。つい一ヶ月ほど前までは、お前の方が強かっただろうな。血に刻める術式の量も、術式を動かす力も少なかった私を、お前たちは散々馬鹿にして、貶めた。コケにした。

 彼はやけになったのか、大きく振りかぶった。隙だらけだ。胴体を真っ二つにすら出来るに違いない。でも。

 でも。嗤いが止まらない。

 お前のその無様な姿を、もっともっと見せてくれ。

 倒れた女の体を引き上げ、向けられた剣への盾とする。その肩口に刃が当たり、しばらく滑って、脇腹でのめり込み、服と肉を切り裂く。

 痛みで意識を取り戻し、女は悶絶する。取り乱す息子。

 血を流す母と、母を傷つけた間抜けな息子と、気絶したまま何度も踏みつけられた兄と、耳障りな声と、無茶苦茶に荒れた狭い部屋と、割れ窓より(きた)る心地よい風。おかしい。ギャグ、あるいはAIの描いた絵画みたいで面白かった。腹の底から、明るく元気が湧いてくる。


「ギャ! ハァ! ハ! ハ! ハ! は! ハッ!」


 おっと、はしたない。口を閉じる。青クズが感染(うつ)ったか。

 まあいいか。復讐って、楽しいなあ! すごくいい! すごく!


浜世家(お前ら)を奴隷にして! 骨までしゃぶり尽くしたいっ!」


 ペンダント刀の腹に頬擦りする。昊刃氏、やっぱり好きだよ。

 多幸感と万能感に、脳が満たされる。乙女心に花が咲く。

 うるさい同級生の顔を峰で打ち据えた。母に拙い介抱を施していた彼は、吹き飛び、壁と激突する。

 崩れ落ちた。老朽化して脆くなっていたのか。中の鉄筋は錆び付いて、グロテスクな赤茶色になっていた。

 隣に人はいなかった。家具の配置からして、暮らす人はいるはず。留守にしてたのか、逃げただけか。どうでもいいか。

 憎き同級生は、瓦礫散らばる床に転がり呻く。意味もなく三回殴る。血だらけ、紫斑まみれ。歯は五本くらいしか残っていない。もう力が入らないみたいだ。

 こんな奴を恐れていた過去に、違和感を禁じ得ない。どうして私は、こいつを憎く思っていたのだろうと、自問してしまう。

 ああ、そう言えば、昊刃氏に課せられたミッションがあったのだった。問う。


「白西里火という女を知ってるかい?」

「……知ら……ない…………」

「ああそう」


 首の後ろを引っ掴み、頚椎を折る。初めてやったけども、鈍い音が意外と心地良い。どうして青クズやピンクズが暴力好きなのか、少し分かったような気がした。もっと綺麗に折る方法があるに違いない。死にかけの母親に近づく。


「何をやってるでありますか?」


 横から呼び止められる。昊刃氏ではない。しかし、どこかで聞いたことのある声音だった。振り向き睨みつける。

 浜世六華。同い年では唯一、天才と持て囃されていた女。癇に障る口調の。

 少しだけ驚いたような表情をしてみせたのち、彼女は、蔑むように言う。


「これはこれは。健気で可愛い、モンキチョウの椎奈ちゃんではありませぬか」


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