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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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30 Where is Shironishi?


 リーの制止も構わず、アパートまで高速飛翔する。

 出迎えてくれたのは、髪を黒く染めた椎奈ちゃんだった。今、この街には浜世家の連中が彷徨(うろつ)いている。広くはない邪馬台国で黄色い髪は目立っていたらしく、ありのままだと好奇心で近づかれてバレるリスクが高い、ということで変装しているらしい。

 黒染めを始めてから四日経ったが、未だ違和感がある。


「おかえり、コンサートは楽し……どうしたんだい、そんなに慌てて」

「白西はっ、白西はどこだ!?」

「うん、いないようだが? 昊刃氏が連れて行ったのではないのかな? 意思なき人形のような女性を日曜日に連れ回してデート気分に浸るだなんて、まったく、とんでもない変態亜人だなと考えていたところだ」

「なんて言われようだ。冗談を言ってる場合じゃないんだよ椎奈ちゃん! 誰かに攫われたかもしれないっ……、君はいつからここに?」

「ご、五分くらい前だけども。映画が終わって真っ直ぐ帰ってきたぞ」


 じゃあ、椎奈ちゃんが誘拐犯の姿を見ていたり、あるいは誘拐犯と鉢合わせたりしている望みは薄いか。


「白西さんが攫われたって、どういうことだい?」

「えっと。教室じゃなくて、校舎に閉じ込められたんだけど」

「ああ、前のあれか。セ」「発想が巴ちゃんと同レベルだぞ」

「なんだと! こんな頭のおかしい奴と一緒にするな!」

「こっちのセリフよ! 尊く賢く美しい私と馬鹿なイエローファンキーを同列に扱うだなんて、あまりにもひどすぎるわ! ひどすぎよ!」

「うるせえっ! 脱出のお題は仮結衣さんの発見。どうにか彼女を見つけることは出来たが、その場にあった紙にこう書かれていた」


 Where is Shironishi?


「なるほど、それですっ飛んで帰ってきたわけかい」


 頷いた。自室と富良野家の部屋を探すが、いない。まあそれだけでは、誘拐でなく、自分で出て行った可能性もある。尤も白西は、あと富良野母も、俺の家をウロチョロすることはあれど、勝手に外出したことは一度もないが。いや、白西は一度だけあったか。巴巨人と海で戦っていた時、コテージから一人飛び出した。

 誘拐にしろ家出にしろ、アパートの防犯カメラに何か写っているのではないかと期待したものの、いつも通りの平和な共用廊下だ。

 この階の端部屋に住む水道橋さんが、ハンバーガーを食べ歩きながら帰宅。あの野郎、食べカスを掃除するのが誰か分かってんのか。

 録画を見つめていた巴ちゃんが、口を開く。


「これ、加工されているわよ」「え?」

「自然に見えるよう工夫があるけれど、私の目は誤魔化せないわ。こことここの間の十分(じゅっぷん)。この部屋に、白西と桃架の母親しかいなかった時間帯よ」


 巴ちゃん、観察眼鋭すぎでしょ。欲を言えば、その能力を、ぜひ自分の客観視に発揮していただきたい。叶わぬ願いと分かってるけど。


「さすがにオリジナルデータの復元は出来ないけれど……。でも、自発的な家出ではなく、連れ去られたと見て間違いないと思うわ」

「いったい誰が」


 拳を握り込む。怒りで心が沸騰しそうだ。しかし抑える。

 犯人は、少なくとも俺の白西に対する気持ちを知っている人間だ。俺とそれなりに話をしたことのある人間は皆知っているから、小中高の同級生、合わせてザッと五十人はいる。

 けど。


「最初の謎解きゲームは、今回のためのテストだったんだ。犯人は、クラスの内部事情も、俺が亜人だということも知っている。そんな奴は限られている」

「室か鳥矢くらいしかいないんじゃないの?」

「あいつらを疑いたくはないけど。まず室は絶対違うし」


 でも鳥矢は。目下行方不明のあいつは。

 俺が亜人として目覚めた頃を境に、あいつは変わった。狂い死ぬほどゲームが好きだったあいつはいなくなった。変わってしまった鳥矢がどういう奴だったのか、掴み切れていなかった。

 容疑者の候補には入る。お前が白西を連れ去ったのだとしたら、動機はなんだ。連続色付き殺人事件と、何か関係があるのか?


「複数犯の可能性もあるわよ。鳥矢が犯人だとすれば、協力者は確実にいるわ。あいつが昊刃についての情報提供者だったとして、録画データの書き換えと白西の誘拐を両方こなせる才覚があるとは思えないもの」

「それはそうだな。組織的な犯行の匂いがするぜ。たとえ鳥矢から俺のプライバシーが漏れていたとしても、無自覚だったかもしれない」

「捕まって拷問を受けたのかもね」


 ボソリと怖いことを言う椎奈ちゃん。だがあり得る。行方不明になったことの説明はつくからだ。


「決まりではないけども、浜世家……ウチの親戚どもはやりかねないよ」

「間違いなく、最も疑わしいのは奴らだな」


 ソファに深く腰掛けた。軽く頭痛がする。早起き、ゾンビ騒動、仮結衣さん探しと続いての白西誘拐に、精神疲労は限界まで達しているようだ。

 しかし、へばって寝てしまうわけにはいかない。

 疲れていて、しかも動転していて、すっかり忘れていたけど、重大事項を思い出した。事態は深刻だ。白西がいなくなった、それだけでも必死になるに十分だが、それだけの話じゃないのだ。

 立ち上がる。足に力を込めすぎた。床からミシリと音が鳴る。


「ちょっと……とっても怖いわよ、昊刃」

「ンネ。落ち着け。ソラハは一旦休んだ方がいいネ。昼も食べてナイ……」

「肉体と魂の接続を亜人(おれ)が調律してやらなければ、白西は死ぬ。リー、お前が言ったことだぞ。事実、夏祭りでアイテールを取られた篠さんは、とっくに死亡しているじゃあないか」


 そこに理解が至って、落ち着けるはずがなかった。ソファの背もたれに、指の爪を突き刺す。戯ける余裕はなくなった。


「安否が確認出来るまで探す。見つけるまでに死んでしまったら、犯人には復讐する。椎奈ちゃん」

「な、なんだい?」

「街に蔓延る浜世家(ゴキブリ)を、獲れるだけ獲る。奴らがやったにしろやってないにしろ、真実を吐かせてやる。だから、椎奈ちゃんの協力が必要だ。疎外されていたとはいえ、連中の顔をまったく知らないわけじゃないだろ?」

「まあ」「黒染めはまだ落とすな」


 変装用の帽子、マスクと丸サングラスを渡す。

 命令した。


「巴ちゃんはここで待ってて。椎奈ちゃん、行くぞ」


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