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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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29 楽譜


 隔離結界に弾かれることなく、足を踏み出すままに、屋上から落ちる。

 普通の人間だったら、風化しかかったコンクリートの土台に血潮をぶちまけ、あっけなく死ぬところだけど、生憎と俺は、すり抜け能力を持った亜人である。

 潜った先は、土のプールじゃなかった。

 学校の地下には、謎の空間があったらしい。

 狭くはないが広くもない部屋だ。机がひとつあるほかは何もなく、殺風景であるからか、大きさよりも広く感じる。壁、天井、床のすべてが同じ色で塗装されているが、所々禿げていて、コンクリートが露出している。さらに、床以外の凹凸には目を(みは)るものがあり、正規の建築業者が生み出した空間とは、とてもじゃないが思えない。

 呼吸は出来るから、どこかに空気の通り道があるのだろう。

 しかし埃っぽい。喉を掻いた。


「ここ、もっとごちゃごちゃしてなかったっけ?」


 え? ふと口を突いた言葉に、自身が驚愕した。

 何を言ってるんだ? 意識じゃ統制し得ない脳の領域が、俺に何かを訴えかけてきている。しかし、どうにも判然としない。


「俺はここに、来たことがある?」


 あるわけがない。


「そもそも俺は、突き落とされたのか?」


 そんなわけがない。突き落とされたとすると、亜人に覚醒するはるか昔のはずで、高校本棟の屋上から落ちて、無事でいられるわけがないのだ。

 例えば夢での、非現実な経験を、現実での記憶と勘違いした? だとすると恥ずかしい。ただでさえ左手が厨二病的なのに。

 もう一度部屋を見回す。何のための空間だ、ここ。素人丸出しの作りからして、先生の誰かが掘ったのだろうか。違法行為を隠すためとかで。

 まさか、子供を健やかに育てるべき神聖な学び舎で、と思うけど、だからこその盲点とも言える。

 机を撫でた。うっすらとベールを被っている。

 反対側に回った。


「……わっ!?」


 机の下に、仮結衣さんがいた。急いで引っ張り出す。眠っているだけらしい。

 とりあえず良かった。

 でも、どうしてこんな場所にと考えかけて、ああ、そうか、ここも隔離結界の内側となれば、調べるべき校舎本棟の一部ということになるのかと思い直す。

 狡いとは感じるけども。よほど陰謀論が好きじゃなければ、校舎地下に、こんな隠し部屋みたいなのがあるとは予測出来ない。

 記憶の混乱がなければ、絶対に来れなかった。


「引き出しの多い机だなあ。調べるか」


 一番下に、短い楽譜が記された紙片が入っていた。一段しかなく、すべて全音符。ト音記号やへ音記号はなく、最後にはてながついている。

 戻そうとする手を止めた。何かの暗号かもしれない。

 眠る仮結衣さんを抱き上げ、浮いた。天井をすり抜ける。


「おっソラハ。戻ってきたネ。心配したヨ」

「使途不明の地下室があって、そこに仮結衣さんがいたんだ。亜人の力を使っちまったけど、大丈夫かな」

「隔離結界が張ってあったのだから大丈夫ダロ」

「いや、仮結衣さんを見つけた後にも使ってしまった。お題と照らし合わせれば、とっくに解除されてたはずだ。多分もう出れる」

「それは、早めに離れた方がいいかもしれないネ」

「巴ちゃんはどこかな?」


 言ったらちょうど、階段から降りてくる。不機嫌そうだ。


「キッショいエギンの死体が落ちてきたの! 踏み潰してやったわ!」

「そうか。良かったな」

「そしたら床に穴が開いたわ。どうすれば桃架に罪をなすりつけられるかしら」


 眷属化して向上した力を器物損壊に使わないで欲しい。百パーセント巴ちゃんのせいなのに、俺が責任を感じてしまう。加減という文字を辞書に書き込んでくれ。無邪気な悪意と破壊に常にフルスロットルなのやめろ。

 あと桃架ちゃんは、コンサートの誘いを断るべく律儀に用事を作ったようだから、恐らくアリバイがあるぞ。


「仮結衣さんは見つけた。さっさと離れるぞ。浜世家が来るかもしれない」

「えっ? お風呂の報酬は?」「ん? 当然不成立だが」

「そんな! ひどいわ! 水着ならどう? 小学生の頃のがあるわ!」

「アウトだろ。アウトなんだよ、巴ちゃん」


 用心して、体育館裏のフェンスから敷地外に出る。

 立候補してきたから、仮結衣さんを巴ちゃんに背負わせた。


「私の目が黒いうちには、下女の胸が背中に当たる破廉恥な感触を昊刃に味わわせたりしないわ!」

「君の瞳は青いじゃないか。髪と同じく」

「綺麗でしょ。サファイアよりも」

「うん。あ、仮結衣さんを見つけた地下室でこんな紙を見つけたんだけど、巴ちゃんには意味、分かる?」


 両手が塞がっている巴ちゃんに、楽譜の紙を提示する。

 手をベロで舐められそうになった。慌てて回避する。


「五線譜、わずか三小節ね。一小節めは音符五つ、二小節めは二つ。三小節めは十個と。最後尾にクエスチョンマーク。英語の短文ね。疑問文だわ」

「解読の前に、いきなり親指の付け根を舐めようとした理由を説明してくれ」

「一小節めはwhereかしら。二小節めはis。音階とアルファベットが対応しているとすると、Where is 、s 、h 、i 、r 、不明、不明、i、s 、h 、i 。ファとソに対応する文字が分からないけれど、音階とアルファベットは順序が対応しているようだし、すぐに絞り込めるわ。えっと」

「ファはoで、ソはnだ」


 Where is Shironishi?

 白西はどこ?


 ハメられた。

 仮結衣さんの誘拐は、俺をアパートから確実に遠ざけるための囮。

 真の狙いは、俺の思い人。


暗号を考えるのは非常にめんどくさいと分かったので、シンプルな感じにしました。

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