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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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27 スレンダー


「巴ちゃん。逆探知出来たか?」

「今のいきなりで、そんなこと出来るはずないじゃないの。映画の見過ぎだわ」


 (たしな)められる。その通りだ。動転していたらしい。


「仮結衣鈴愛だっけ? 電話番号とSNSアカウント情報から位置情報を割り出してみるわ。三分待ちなさい。少々違法行為に手を染めることになるけれど」

「素直にすごいな。違法なのはいつものことじゃないか」

「えっ?」「え?」


 魔術的な指の動きでノートパソコンを操り始める巴ちゃん。中学二年生でこの域に達しているなら、十分、フィクション映画のゲキヤバハッカーレベルだと思うのだけど。

 リーに尋ねられた。


「体は軽いカ?」

「いや。普通だよ。エギンじゃないとすると、浜世家かな? 仮結衣さんを狙ってきたとなると、正体が俺だとバレていることになるけど。そうであれば、このアパートか学校で奇襲をかけた方が良くないか?」

「警戒されていると考えているのかもナ」

亜人(おれ)を誘い出すべく無差別テロを起こして、たまたま仮結衣さんが巻き込まれただけかも。ニュースは……」


 ゾンビパニックの話題。


「そうか。仮結衣さんもコンクールの会場にいたからな。あの薄紫の少女ゾンビ騒動に巻き込まれたのかも」


 尤も、まったく想定外の事態に遭っている可能性もある。兎にも角にも、事は一刻を争う。


「特定したわ」「おお。本当にインスタントラーメンが作れる時間で」

「この辺りにいるわ」


 画面を覗き込んだ。赤塗りで示される。

 俺の高校? 顎に手を当てる。コンサートが中止になってから、荷物を置きに、音楽室にでも向かったのか? いや、クラリネットはそこまで大きな楽器じゃないし……。人死にが発生したら、家に直帰させられるのが普通では?

 巴ちゃんの手を取り持った。


「じゃあ飛ぶよ」「待テ」「なんだよリー」

「浜世家に感知されるネ」「しかし、急がなければ」

「ここがまだバレてないかもしれない以上、迂闊に亜人の力を使うな。一旦、別の場所に徒歩移動ヨ」


 有無を言わさぬ口調だった。くそっ、出端をくじかれた。カウボーイがよく使う、先が輪っか状に鳴ったロープに引っ掛けられた気分だ。

 リーを引き連れ、巴ちゃんをおんぶしつつ、走ってアパートから離れる。

 五百歩か六百歩ほど進み、巴ちゃんを魔法少女に変身させてから、コンクリートの地面にすり抜け潜る。休日だが念の為、人目につかなさそうな茂みを選んで浮上した。


「虫がたくさんいそうで嫌いだわここ。燃やしていいかしら?」

「ダメに決まってるだろ。大体、君の技に燃焼系はないだろ。一応、なんでかもう全然分からないけど、ベースとしてはナースなんだし。とにかく、仮結衣さんを探そう」


 認識阻害を使ってもらう。それがあるならアパートから出発しても良かったじゃないかと思ったけど、浜世家の技術力がどれほどのものか不明な以上、探知される恐れもあるとのこと。融通が利かないリスだぜ。このタイムロスで仮結衣さんを救えなかったらどうするつもりだ。

 ん? そう言えば、さっきお姉さんも認識阻害を使い、浜世家や警察に見つかることなく、コンサート会場からアパートに戻ることが出来た。

 リーとまったく同じ技? あるいは、効果は同じだが原理は違う?

 今考えるべきことじゃないか。


「教室の中だとしたら、嫌だなあ。また閉じ込められるかも」

「ふふん! 前はクイズ部屋だったようだけれど、今度こそセック」


 指を突っ込んで黙らせた。えずく巴ちゃん。


「唇で塞ぎなさいよ!」

「却下だ。教室には入らないようにしよう。とはいえ状況的に、仮結衣さんは音楽室に向かった可能性が高い。まずはそこから確かめよう。東棟の一階だ」


 音楽室でも閉じ込められないとは限らないが。

 向かった。すぐに到着した。扉の前に立つ。

 小窓から覗く限りでは、特に異状は見受けられない。


「巴ちゃん。一人で中を見てきてくれないかな」

「ちょっと、閉じ込められたらどうするのよ!」

「放置する」「ひどいわ! ひどいわ!」

「はは、冗談だよ。ちゃんと追いかけるから」


 爽やかに言う。まあしばらく放置するけど。仮結衣さん優先。

 音楽室に入った巴ちゃんは、キョロキョロと内部を検分し始めた。机を探り、引き出しを開ける。手際よく二分ほどで終わらせて、普通に出てきた。結局、音楽室にクラリネットはなかったらしい。しかし戦利品を持っている。


「ほら、ほら、エロ本だわ」

「戻してきてくれ。学校集会裁判が起きると面倒なんだ」

「キャハハ、ポッチャリデブじゃない。ダイエットすればいいのに」


 チラ見した。言うほど太ってない。君がスレンダーすぎるだけだ。

 ポッチャリデブではなく、グラマラスと言う。そうだね、はっきり言わせてもらうと、そのくらいが好きな男はたくさんいるだよね。俺も大好きだ。巴ちゃんがいなければ、こっそりパクって持って帰っていたくらいである。

 さりげなく、雑誌と刊行年・号数をチェックした。


「昊刃、目が血走ってるわよ? まさか、こんなのに興奮したの!? 趣味が悪いわよ! 穢らわしい! 巨乳なんて、存在ごと規制されるべきだわ!」


 相手にするだけ無駄なことを言い始めた。こういう輩の相手はツ◯ッターにでも任せるとして、先を急ぐ。

 音楽室ではないとしたら、自然、第二の候補はいつもの教室となる。

 本棟に赴く。教室にもいなかった。

 伽藍としている。


「おいトモエ。学校敷地内に仮結衣のスマホがあったというのは、本当に間違いないんだナ?」

「私の腕を疑うと言うの? 失礼ね、リスの分際で」

「リー、こういうことに関して(だけ)は、巴ちゃんは信頼出来る。探知の後に連れ去られた可能性も」

「諦めるのはまだ早いわ。二ヶ所しか見てないじゃないの。職員室は?」

「十分にあり得るな。行こう。思いついた場所から手当たり次第だ」


 当番の先生がいるんじゃないかと不安になるが、心配は杞憂だった。鍵のかかった扉をすり抜けた先には、仮結衣さん含めて誰の姿もない。色付きゾンビ騒ぎの影響で、帰宅命令でも出されたのだろうか。


「他にはどこにいそうダ? 美術室とかカ?」

「うーん、屋上とか」「しらみ潰しに探した方が良くないかしら?」


 それもそうか。


「ん?」


 普段なら、色んな行事の広告でいっぱいになっているはずの職員室前掲示板に、ぽつんと寂しく、一枚の紙しか貼られていなかった。

 しかも手書き。


『一時間以内に、本棟から仮結衣鈴愛の居場所を見つけ出せ!』


 1:00:00の表示が、0:59:59に変わった。

 カウントダウンスタート。


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