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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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23 何かを知っている


「好きな2Dヒロイン像とかあんの?」


 中学三年生、七月中頃、雨上がりの昼休み。室が鳥矢に尋ねた。

 他愛のない、他意もない質問だった。しかし、意外にも新規性のある話題だったから、俺も耳を傾ける。白西だけが興味を示さず、バクバクと弁当を食らっている。

 いやそれ、俺のじゃねえか。


「そだなあ……」


 校則違反のゲーム機を操作しつつ、彼はおざなりに答える。


「パーツが整ってたら基本萌えられるかなあ」

「あはは、サカり方を間違えた猿かよ〜。もっと解像度を広く持とうぜ〜。ほら、顔のパーツは同じでも、髪色だけで全然違うじゃん」


 同意しかねたのは覚えている。髪色が違うだけではそう変わらなくないか。その点プ◯キュアは色々と工夫しているぞ。

 知らない名前の色を連呼する鳥矢。白って二百色あんねんて。へー。

 赤は何種類あるのだろうか。


「どれも捨てがたい」「もうちょっと絞れるだろ。さすがに」

「鳥矢って、馬鹿で浅はか」


 キュートな弁当泥棒が、口元にご飯粒をつけたまま、辛辣に言い放った。


「好きなキャラ、食えそうかどうかじゃね?」


 続ける。


「食って一体化してもいいと思える奴が、本当に好きってことなんじゃね?」


 中学生にしたって、ヤバい意見だった。頭がおかしい。室はたじろぐ。鳥矢は慄く。

 でも俺は。だとしたら。

 君になら、食われたい。


◇◇◇


 クラリネットコンクール中学の部の出演者にして薄紫の色付き、問鹿勿花さんが死んだ。彼女の死体からは、心臓が抉り取られていた。

 連続色付き殺人事件とやり口が同じだ。

 現場は女子トイレ。監視カメラなどあるはずもない。トイレの前の監視カメラは、問鹿勿花さん入室の前後に複数名が出入りするところを写していたが、いずれの女性も凶器は所持していなかったらしい。

 項垂れた。お姉さんに言う。


「実はさっき、彼女と話したばかりなんです。初対面でしたけど。実感が湧きません」

「ですが事実です。一般人かつ部外者のあなたに、遺体や現場を見せることは出来ませんが。もし確認されたいなら、写真で」


 俺も、自分が見るべきだとは思わない。写真ですら。明確に敵だった浜世京之助の死体すら、精神に悪かった。殺害を後悔しているわけではないけど。

 実際に手を下した桃架ちゃんは、あの後、普通に夕食を平らげ、平常運転のままお代わりしていた。胆力が凄まじい。

 その胆力が羨ましい。

 怖いわけではない。悲しいわけではない。辛いわけではない。会ったばかりの人間に、そこまで大きく感情移入するタチじゃないから。しかしどういうわけか、頭が重い。

 思考がまとまらない。断片的かつ部分的な不安が、喉の先を衝く。


「……疑ってるんですか?」

「え? あなたをですか? いえいえ、とんでもございません」

「あ、違くて。その。鳥矢を疑っているのかと、そう聞いてます」


 慌てて首を振り、訂正する。俺が疑われているなんて、まるっきり考えちゃいなかった。それはそれで、用心がなってない気もするけど。


「重要参考人って、仰ってたじゃないですか」

「はい。そうですね」


 お姉さんは言葉を切った。ほんの数秒にも満たない間。俺にはとても長く感じられた。拳を握ると、汗の感触がする。


「鳥矢赫義くんが犯人である可能性はあります」

「どうしてですか?」

「今年に入り、複数の現場近くで、事件発生前後に彼の姿が目撃されてます。実際彼は、今年起こった事件についてはほぼすべて、公共交通機関を使って現場に向かっていることも確認されているのです」

「っ……。あり得ないですよ。あいつが? お姉さん言ってましたよね。被害者たちの死因たる頭部の打撲は、どこを打てば人は死ぬのかを熟知したような一撃によるものだったと。あいつの運動能力じゃ、そんな芸当は無理です」

「そうかもしれませんね」


 ムキになって言った反論を、お姉さんは否定しない。


「可能性があると言っただけです。可能性が高いとは言ってません。尤も、私の仲間には、鳥矢くんを半ば被疑者扱いする者もいますがねぇ」


 残念そうに溜息を吐く。その仲間とやらに、軽く失望しているらしい。


「ごく一部の、芸術を理解していない人です。絵を『絵』としか見れない、殺人を『殺人』としてしか見れない。だから、鳥矢くんがあの芸術の作者として、不適格だと分からないのです」


 悔しげに唸るお姉さん。芸術的な一撃ではなく、「芸術」。アート。

 ゾワリとする。


「しかし、彼が何かを知っているのは明白です」


 この言葉には、同意せざるを得なかった。アパート管理人ほどじゃあなかったけど、あいつもやっぱり引きこもりだった。行動範囲は隣街まで、それも俺たちに連れられてついていくだけの受け身体質だ。

 だから、全国レベルの事件において、複数の現場で目撃されるだなんて、まったくあいつらしくない。おかしい。


「目撃された時、鳥矢は一人だったんですか?」

「誰かと一緒にいたという情報は入ってきておりません」


 間違いない。事件について、あいつは何かを掴んだんだ。何を掴んだんだ? そして、いったい何しに現場に向かったんだ?

 突然の精神的変容と関係がある? どうして行方を晦ました?

 すべてが霧に包まれている。俺にも、一言くらい相談してくれたっていいじゃないか。亜人とエギンのことも話したんだしよ。

 スマホを取り出した。鳥矢に電話をかける。繋がらない。

 何に巻き込まれてんだ、お前は。冗談はよせよ。鳥矢。なあ──、


 バキッ、ドンガラガッシャン!

 ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!


 大きな物音がした。振り向く。

 薄紫色の少女がいた。

 死んだはずの問鹿勿花さん。頭部から血を垂らし、左胸を赤く染め、しかし立っていた。


 生き返った? 否。死んでいる。


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