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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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21 重要参考人


 日曜日、巴ちゃんがまだ眠っている早朝を見計らって、アパートの外に出る。

 クラスメイトの仮結衣さんから誘われた、コンサートに行くためだ。そして、巴ちゃんという、何を仕出かすか予測出来ない爆弾を抱えたくなかった。音楽くらいゆっくり聴きたい。


「開演まで暇だな」


 どうしよう。公園で優雅にヨガでもするか? あるいは、少し遠いけど、駅前の24時間漫画喫茶にお邪魔するとか。

 くしゃみをする。十月まであと少し。日中は暖かく、汗ばむ日もあるくらいだけど、朝は肌寒くなってきた。ヨガはやめておくか。

 駅の方角に足を運ぶ。日曜の早朝だから、人通りが(まば)らのは当たり前だけど、最近は、本来ラッシュの時間帯も人が少なくなったと、駅通学の同級生から聞く。俺は徒歩通学だから実態はよく知らないけども、夏祭りの人型エギン事件がまだ尾を引いているのだろうか。

 恐怖とリモート技術が上手くマッチしたのかもしれない。

 満喫のあるビルに入る。エレベータのボタンを押した。貧乏だから、エレベータを待つ間に、喫茶の受付で売ってる美味いシュークリームを我慢すると決める。

 満喫はビルの三階分、4F-6Fを占拠している。4Fのラウンジにて、一人の女性が椅子に座って、真剣そうな口調で電話をしていた。

 朝から仕事熱心だなあ。

 知ってる人だった。占い師のお姉さん。

 彼女の名を呼ぼうと、口を開く。


「…………?」


 喉元まで出掛かったが、舌が空振りする。

 唇を抑えた。あれ、おかしいな。そもそも俺は、彼女の名を聞いていない。知らないはずの名前を、どうして知った気になっていたのだろう。

 なんだか恥ずかしいぜ、意味もなく。


「あらあら。昊刃くんではありませんか」


 電話を切り上げて、お姉さんがこちらに話しかけてくる。会話の終わり方からして、話の途中だっただろうに、大丈夫なのか。

 彼女の本職は政府機関のエージェントで、連続色付き殺人事件の犯人を追いかけている。政治的にも治安的にも重要な任務のはずだ。それに関わる話をしていたらと考えると、ちょっとヒヤヒヤしてしまう。小心者なので。

 通るタイミングが悪かった。腹を括って巴ちゃんとコンサートデートするべきだったと言うのか、天は。残酷な。


「安心してください。大きな区切りはついていましたから。話の相手には、通常業務からぶっ続けで夜通し働いてもらっていて。そろそろ休ませたかったですし」

「通常業務からぶっ続けで夜通し。労基法とか大丈夫なんですか?」

「うふふ。余裕でアウトです。でも私たち、政府の狗ですから」


 政府の狗なら許されるのか? 昨今の風潮的に、ダメな気もするけど。まあでも、どこの国であっても、社会は誰かが損をしないと上手く回らない仕組みになっているらしいからなあ。不可視の犠牲には、犠牲者たちが声を上げていない以上、踏み込むべきじゃないのかも。


「君の方こそ、なぜこんな早朝に、こんな場所に?」

「読まないと死にそうになるくらい漫画が好きなんですよね」

「嘘が下手ですね。当ててみせましょう。あの青髪の子から逃げてきたのでは?」

「すごいですね、ほぼ正解ですよ」


 占い師の隣に座る。


「友達のコンサートがありまして。あの子には、演奏に少しでも納得のいかないところがあれば、遮ってステージに乗り込みかねない危険性があるんですよ」

「そこまで危険な子なのですか? めちゃくちゃ面白いですね」


 全然面白くないです。


「時間潰しならしばらく付き合いましょう」


 朝食を奢ると仰られたので、喜び勇んでついていく。開いてる食堂はあるのかと心配だったが、2Fの個人経営と思しき食堂に入れた。

 占い師の皮を被ったお姉さんがこのビルにいたのは、ここが目当てだったからかもしれない。


「連続色付き殺人事件について、どのくらい捜査が進んだか、聞きたくありませんか?」

「そりゃあ、カラフルヘアの知り合いが多い身としては聞きたいですけども。とんでもない重犯罪の捜査でしょ。機密情報じゃないんですか?」

「カラフルヘアの知り合いが多いあなたは知っておくべきだという、言わば現場の判断です。他言無用ですよ。言いふらさないと誓ってください」


 怖い笑顔だ。プレッシャーを放っている。口は軽い方じゃないと自負しているけど、冷や汗をかきそうだぜ。喉が渇き、水を飲む。飲んだ後も、コップから手を離さない。

 白西も(室もだが)、秘密の相談を持ちかけてくる際は、こういう表情で圧をかけてきたものだ。しかしそれも懐かしい。アイテールを奪われてから、白西は常に無表情。緩急付いた彼女の感情に、また振り回されたい。

 エギン撃滅欲がメラメラと湧いてくる。最近倒せてないから余計に。体は軽くなるんだけどな。出現しない理由は、リーにも分からないらしい。

 ちなみに、今は軽くない。安心してコンサート鑑賞に臨めそうだ。


「重要参考人を特定しました」「ほう」


 彼女はタブレット端末を取り出し、その人物の写真を表示させる。

 左手のコップを落とした。

 水を撒き散らしつつ、コロコロと床に転がる。


 こいつが、重要参考人? え? 嘘だろ?

 え?


「鳥矢赫義。ご存知ですか?」


 ご存知も何も。小学生からの親友だ。


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