20 ファンキー
勝負は一瞬でついた。
拍子抜けするほど、呆気なく終わった。彼は何も出来ずに散った。秒で収めるつもりではあったけど、もう少し粘られるかと予想していた。
ただし、決めたのは俺ではなく、桃架ちゃんである。手刀で首をバッサリ、残酷だけど見事な手際だった。桃架ちゃんの戦闘の才能はずば抜けている。
彼女が先に動いた。示し合わせたわけではないけど、俺は、京之助と名乗った浜野家の男が体勢を崩したところに一撃入れようとした。二段構えというヤツである。しかし、俺が動くまでもなく、京之助は首を切られた。
再生したりはせず、そのまま絶命した。
「どうします? この死体」
あっけらかんと尋ねてくる。怖い。
「持ち帰って解剖しますか? お兄さん。あの浜野家の手の者ですし、隈なく調べる価値はあると思いますよ」
「ねえ。そういうこと言う時、語尾に『てへ♡』と付けてくれない?」
「持ち帰って解剖しますか? てへ♡」
少しでも雰囲気が和らげばとの提案だったが、余計にサイコになっただけだった。現代ファンタジーホラーのイロモノ系ヒロインみたい。
ちょっと迷ったが、すぐに決断する。桃架ちゃんの鋭い視線に屈して。
「こいつの仲間に嗅ぎつかれるリスクが増えるかもしれない。そのデメリットの方が大きい。燃やす。塵も残さず」
波動エネルギーを高密度化して生み出す、必殺の「炎」。夏祭り、エギン化した椎奈ちゃんの父親を倒すのに使ったアレは、これまで大雑把な使い方しか出来ず、無駄に高出力で、準備に時間がかかった。が、コンピュータのシミュレーションにより導出された効率的な修行法を試した結果、炎をよりスマートに扱えるようになったのだ。
ちょうど良い量の炎を、わずかな溜めで生成可能になった。まあ、普通に波動エネルギーを使う時と比べて消耗が激しいのは変わらないけども、それでも、無秩序に撒き散らす時よりかはずっとマシである。
スマート&コンパクト。スーパーエンジニア巴ちゃんの成果である。
一家に一台は要らないけども、クビにしなくて良かった。
京之助に火を点ける。消し炭になった。
「ズラがるぜい桃架ちゃん!」
「合点承知でやんす兄貴!」
ノリがいい眷属ちゃんだ。人を殺したことについて、特に何も感じていないらしい。フラットな対応だ。これも、戦う者としての適性なのだろうか。
シュワッチ! とばかりに飛んで帰る。アパートの壁をすり抜け、自室に入った。リビングの机では、巴ちゃんが難しそうな本で勉強している。
「あら、お帰り昊刃。夕食はまだかしら?」
「君ら、心配になるくらい俺に餌付けされてるよね。椎奈ちゃんはどこ?」
「知らないわ。髪の毛の本数くらいどうでもいいから」
「生えてない人にとっては死活問題だろう。差別的発言だぜ。鉄板ネタは置いといて、リーは知ってる?」
「フラノ家の方でイジけてるネ。まだ癒えてない、生傷の黒歴史が度々フラッシュバックするようで、よく発作を起こしてるヨ」
ああ、そう言えばそうだった。浜世家での落ちこぼれ生活で心にバグを抱えた椎奈ちゃんは、家の掲げていた方針へと過剰に同調し、民主主義撤廃・絶対君主制復活を標榜するようになって、そのプロバガンダを行っていた。よりにもよって、お嬢様御用達のお洒落な私立女子中学校でだ。正気に戻れば、そりゃあ全力で消去したい過去の汚点になる。
教室に閉じ込められた時にも、ウジウジと悩んでいた。尤もそのおかげで、床のタイルが捲れることに気づけたのだけども。
「後にした方がいいかな? 刺激するのはまずそうだ」
「この期に及んで、悠長ですよお兄さん。もう会敵しちゃったんですよ? 黄頭も呼ぶべきです、一応浜世家の端くれだったようですし」
「え? どういうことよ。説明なさいピンク頭」
「嫌だ」「なんですって!?」
「桃架ちゃん。嫌いな相手でも報連相だぞ」
「はあ。さっき、浜世京之助と名乗る不快な男が接触してきたの。視線がキモかった。デブでロリコンだったの、最悪。クズとかカス以前に、人間として見ることが出来なかったな。でもあいつ、お兄さんが亜人だと見抜いてた」
「へえ。それは、始末しなくてはいけないわね」
「首を切ってやったよ。驚いたまま死んじゃって、笑いそうになった」
「はは。ふん。私の方が、浜世とかいう逆賊をたくさん殺すんだからね! キル数で勝負よピンク頭」
「望む所だよ青クズ」
勝負の申し出に、にこやかに応える桃架ちゃん。
少女たちのチャーミングな意思疎通に耳を傾けつつ、考え込む。妙だな。ファンシーな魔法少女たちを率いていたつもりだったけど、ファンキーな違法少女たちにしか見えなくなってきたぜ。
胃薬のみならず、目薬も買った方が良いのか。少ない予算を削って。
「浜世家ぶっ殺し作戦タイムよ。なるべく早く事情聴取した方が良いわね。イエローファンキーから」
「お兄さん、私が連れてきましょうか? イエローファンキーを」
「椎奈ちゃんまでファンキーに巻き込むな」
というか、ナチュラルに俺の心を読むなよ。
妖怪サトリか君たち。悟るべきこと他にあるだろ。人の心とか。
「連れてきたヨ」
ファンシーピンクならぬファンキーピンクが動くまでもなく、妖精が呼びに行ってくれていたらしい。椎奈ちゃんが入ってくる。
「浜世家の人間がついに接触してきたと聞いたぞ」
「京之助という名の人物だった。知ってるか?」
「いや。有名人ではないな。要注意なのは別にいる」
「でも、デブでロリコンなんだよ。犯罪者予備軍の目つきだったもん」
完全に桃架ちゃんの主観的イメージで語られているが、浜世京之助が本当に犯罪者予備軍であったかは定かではない。
「そのくらい珍しくもなかった。私も、お父さんが守ってくれなければどうなっていたことか。おもちゃとしてなら、色付きの忌み子でも良いってさ。邪馬台国は古い場所だからな。古い考えが残っている」
苦労が偲ばれる。
椎奈ちゃんはさらにこう付け加えた。
「デブについても言及しておくと、里にはマ◯ドナルドが進出している。アメリカンサイズのだ。あれの揚げ物を食い過ぎた結果、不健康になってしまった奴も多いぞ昊刃氏」
異界の呪術師集団に対するイメージの、大事な何かが崩壊した。




