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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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18 アジン


 浜世京之助。浜世家の刺客。

 俺が亜人であることもバレているようだ。内心構える。もう少しドラマチックに登場するものかと思いきや、なんというか、ギャグシーンからの帰宅シーンにヌルッと現れるとは。

 展開にノリにくい。

 入れない、ゾーンに。


「アジン、てなんすか? 複素環化合物の系統みたいなアレすか?」


 化学の知識を動員しつつ、全力で白を切る。と言っても当該の分野については、俺は毛ほども理解していない。高校生の中だったら勉強も出来る方だが、それでも真面目な大学生の知識量には到底及ばないだろう。

 巴ちゃんならちゃんと知ってるかもしれないけども。

 怪訝な表情を浮かべる桃架ちゃん。俺の前では猫を被っている彼女の、猫皮の下にいる虎に最近気づき始めたのだけど、付け加えて何を考えているのかも、読める時は読めるようになってきた。

 この子はこう言っている。

 なんでそんな分かりにくい例を持ち出して誤魔化そうとするんですか?

 むしろ正体バラしてるようなものじゃないですか。

 馬鹿じゃないですか?

 ドストレート過ぎる批判はやめてくれ。興奮しそうになるだろ。

 いやまあ、桃架ちゃんの心が読めるというのは俺の勘違いで、被害妄想である可能性も多分にある。

 妄想であっても、桃架ちゃんに蔑まれるなら本望だ。


「お兄さん、何か罪深いこと考えてませんか?」「え?」


 こちらの心も読まれていた。「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」という、哲学者ニーチェの格言が思い起こされる。

 彼はこうも言った。

 君が出会う最悪の敵は、いつだって君自身だと。

 この浜世京之助と名乗った男は、間違いなく浜世家で、間違いなく敵なのだろうが、しかし最悪ではない。話し合えば分かり合えるかも。

 現に、いきなり襲い掛かっては来てない。細い目で、俺たちの様子を注意深く観察しているようだった。いや、視線を向けているのは俺「たち」ではないのか? 桃架ちゃんにだけ?

 桃架ちゃんを、じっくりねっとりと見ている。

 俺よりも桃架ちゃんを危険だと判断したのだろうか。


「あの男、気持ち悪いです」「声を小さく。対話可能性が潰れるだろ」

「対話? 何を寝惚けたこと言ってるんですか。無理でしょ。お兄さんは、青クズからいったい何を学んだんですか?」


 呆れ果てた声音で、桃架ちゃんはそう問うてきた。

 うーん、パソコンの使い方とか?


「青クズから得られる教訓は、世の中には、話が通じない奴もいるってことです」

「僕は、話が通じない奴ではないんじゃないかな」


 浜世家の刺客が、ヒソヒソ話に割り込んできた。聞こえてたのか。腫れぼったく膨らんだ耳だけど、性能は良いらしい。


「亜人は大人しく半殺しになってくれるなら、色付きは僕に媚び(へつら)ったのち死んでくれるなら、君たちに必要以上の攻撃を加えたりしないんじゃないかな」

「ほらね、お兄さん」


 うわあ、これほど話が通じなさそうなパーソナリティを、初対面にもかかわらず開けっぴろげにアピールしてくる奴は初めて見たぜ。あの巴ちゃんですら、初登場時には比較的まともな少女のふりをしていたのに。

 まああいつ、自分の方が立場が上だと判断したら、天上天下唯我独尊の方針で人の話を聞かなくなるけども。

 桃架ちゃんを、魔法少女に変身させる。


「ふ。ふふ。やはり亜人とその眷属。つまり、酷い目に合う方を選んだと見て良いのかな?」

「一人か?」「一人なんじゃないかな」


「じゃないかな」というあやふやな語尾にしては、断言的ニュアンスを感じた。

 天皇の近衛一家というからには、大所帯のイメージがあったけど。嫌われているのだろうか。ぼっち。あり得そうだ。目付きも話し方も気持ち悪いし。

 いや。出会い頭に「有能な男」と自分を評していたが、自信通りの実力を備えている可能性も捨てきれないか。

 本家の奴らは別格だと、椎奈ちゃんは言っていた。

 こいつもエリートの一人? 見た目からは、親の七光りをバックに威張ってきたボンボンという印象しか受けないのだが。まあ、見た目で判断するのは良くない。それこそ巴ちゃんから学んだことだ。

 なろうの淡白なフォントだけではイマイチ伝わりにくいかもしれないけども、この作品がプ◯キュアだったら、見た目だけで言えば、タフな主人公のストッパー配役間違いなしの清楚常識人っぽいのである、あの子。

 ホント、見た目だけは。もちろん、中身はゲボカスクレーマーだ。

 浜世京之助は動こうとしない。吹っ掛けてきたのは向こうなのに。待ち型なのだろうか。進んで戦いたいわけじゃないけど、逃げても戦闘ステージがアパート周りになるだけな気がする。損だ。移動しているうちに、仲間と合流されても厄介だし。

 派遣された「近衛士」とやらが、こいつだけとは思わない。

 待てよ。この場で戦ってもこいつの仲間に気づかれる、よな?

 喧嘩って派手だもんな。江戸では火事と並んで華だったらしいし。

 何人でもかかってきな! 全員まとめてとっちめてやる!

 など、粋な江戸っ子みたいな大言壮語は出来ない。もし浜世京之助が椎奈ちゃんの父親以上の強さを持っていれば、一人相手ですら苦戦を強いられる。こいつの独断専行が、組織にバレてないうちに処理したい。

 リーはまだか。奴の認識阻害さえあれば、敵の応援が来る確率は格段に小さくなる。「一人」というのが嘘でない限り、あるいは、すでに浜世家から正体がバレているのでない限り。

 もしくは。妖精の魔法に頼らずとも、一瞬で。


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