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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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17 スティール


「『我輩のことは気にせず』とは言ったでありますが、まさか放って帰られるとは思ってなかったでありますな。減点対象でありますよ」

「よう。また会ったな六華ちゃん」


 公園で小学生女子たちとバスケに興じていると(違法性なく仲良くなった)、六華ちゃんが現れた。この子、頻繁に登場するけど、この街に数日滞在するだけの観光客とかではなく、ひょっとして引っ越してきたのか?

 それとなく探りを入れてみたものの、俺の卒業した中学校にこんな子は転校してきてないらしいし、美國中は言わずもがな。そもそもあそこは厳格な私立だから、よほどの事情がない限り途中編入は認められないだろう。

 義務教育を無視出来る強メンタルっ子なのか、あるいは中卒無職なのか。


「よくもまあ、一歩間違えれば互いに密着しかねないバスケで、小学生女子たちとキャッキャウフフと遊べる勇気があるでありますな。強メンタル過ぎるであります。高校中退前科持ちになりたいでありますか?」

「いやいや。ただ単に、子供同士で遊んでるだけじゃあないか。ねえみんな」


 にっこり笑って、コクリコクリと頷いてくれた。優しくて良い子たちだ。養育するならこの子らがいい。真なる切望。

 連続色付き殺人鬼がこの街に潜伏していると言うから、最近ピンクブルーイエローと一緒にいることが多いのだけど、あいつらガチで仲が悪くて常にギスギスしているので、こっちのストレスも指数関数的に溜まっていくのだ。ショックアブソーバーに徹するのは楽ではない。

 俺にだって癒しが必要なんだよ、お巡りさん。


「まあいいやであります。ソラソラ、1 on 1するでありますよー」


 1 on 1することになった。

 ダムダムとボールを衝く。ストリートバスケって感じだぜ。よほど思考を乱されない限り、波動エネルギーは制御出来る。左手で持った時にするりとボールが抜けるみたいな、亜人認定前までの無様を晒したりはしない。

 問題は、体がちゃんと動くかどうかだ。ここの所エギンと戦ってないからか、節々がほんの少しダブつくのを感じる。

 ホント最近、エギンを見なくなった。夕焼け小焼けのアカトンボと同じく。

 体は軽くなっているのに、出現しないのである。

 小学生女子バスケに混ざるのは、鈍りつつある体に喝を入れるため仕方なく、という側面もある。

 まあいい、やってやるぜ、ドリブルっていう高等テクをよぉ。


「スティイイィルッ! であります!」


 豪快に腕を振るう六華ちゃん。


 その掌は、ボールにクリーンヒットした。

 体についてる方の。


 すり抜けられるはずもなく、声にならない叫び声を上げて、倒れ込む。

 小学生女子たちは爆笑した。優しさなんてもう信じられない。


「すまんであります。この公園、水道あるでありますか?」


 手を洗おうとするんじゃねーよ。謝罪にも誠意がない。少しは哀れんで。

 金的の痛みに対する当事者以外の理解のなさを、まざまざと見せつけられた形になってしまった。ダメだ、油断するとマジで気絶しそうだぞ。

 脂汗が地に染み込む。

 六華ちゃんが、パンパンと手を叩いた。


「さあてさて。不審者の情報も耳にするでありますからなあ。もう四時半でありますし、秋の日は鶴瓶落としと言うでありますし。オチもついたであります」


 金的がオチって、昭和の漫画か。


「お開きにすべきでありますよ。また明日!」


 素直に従う小学生たち。六華ちゃんは振り返り、舌をピロリと出しつつ、悪戯っぽく笑った。てめえ。まさかこれ、わざとなのかよ。

 バッティングセンターで勝手に帰ったことの意趣返しか。やられたらやり返すタイプだったのか、くそう。

 見抜けなかった俺が悪い。


「ちょ、ちょっと待って……、不審者って……」


 息も絶え絶え、追い縋るように声をかけるも、聞こえてなかったのだろう、六華ちゃんは去ってしまった。二回目のくそう。連続色付き殺人事件の犯人がこの街にいるかもしれないと知っている身としては、非常に気になる文言だった。

 ん? まさかその不審者、ここ三日くらいの間、公園で小学生女子と距離近めなバスケに興じる、高校生くらいの少年だったりする?

 まさか、ないない。しかしこのままずっと寝転がっていると、本当に怪しい奴と見られかねない。問題は、痛過ぎて起き上がれないことである。

 ギャグで金的、丈夫な亜人である俺になら構わないけど、いやもちろん普通はダメだけども、せめて加減はして欲しかった。


「大丈夫ですか、お兄さん。手、貸します?」


 言われるままに手を取った。桃架ちゃんだ。

 なんだ、近頃は喧嘩っ早いところがピックアップされてばかりだけど、この子も根は優しいんだった。


「夕ご飯の催促に来ました!」


 保護者はつれえよ。今夜もカレーだよ。

 三色娘の中で、燃費が一番悪いのは桃架ちゃんだ。いくら食べても太らないらしい。残酷な格差社会の一幕だけど、この事実を発端とした巴ちゃんとの喧嘩は、意外にも勃発していない。なぜかというと、端的に巴ちゃんも同じタイプだからで、どんな暴食をかましても常にスマート体型だ。

 残念ながら椎奈ちゃんは違って、そういう話になると殺意を撒き散らす。

 室はおっぱいに全栄養がいく。白西は太りやすい。エギンに自我を奪われる前から、食事管理は俺の役目だった。

 鳥矢? 知らん。

 あいつ最近学校に来てないんだよな。元のゲーマーに戻って、正気を失っていた分の遅れを取り返すために引きこもってるんじゃないかと推測している。

 ああ、ちなみに、仮結衣さんは太らない。体質ではなく、クラリネットのお稽古でカロリー消費量がハンパないからだそうだ。

 音楽は大変である。


「桃架ちゃん」「なんですか?」

「今週の日曜、友達の出る音楽コンクールを見に行くんだけど、君も来る?」

「あー、えーと、その日は用事が入ってくると思いますね」


 やんわりと断られた。まあ、この子は同じ場所でじっとするのが苦手だし、断られたのは想定内だ。巴ちゃんは問題を起こされると困るから秘密にするとして、椎奈ちゃんはどうだろう。誘ったら一緒に来るかな?


「カレー、おかわりありそうですか?」

「俺の分を減らしたらあるよ」「やったー!」


 喜んでもらえてとても嬉しいよ。

 前に影が長く伸びる。見上げた空は、赤く色付き始めていた。

 九月も終わりか。このまま順調に行けば、高校生活の折り返し地点。

 何もなければ。例えば、エギンに負けなければ。

 例えば、浜世本家に────、


「お前が亜人(・・)、なんだな?」


 声をかけられた。振り返る。

 メガネをかけた、小太りな男がいた。

 彼は名乗る。


「オレは浜世(・・)京之助。有能な男なんだな」


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