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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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16 バッティングセンター


 放課後にバッティングセンターへ行くと、六華ちゃんと遭遇した。一緒に来ていたはずの椎奈ちゃんは、お腹の調子を崩したせいで、この場にはいない。


「まさかソラソラに会えるとは。隠れ野球少年だったでありますか?」

「隠さなきゃいけないような趣味だったっけ? 野球って」


 ソラソラ少年、まさか野球賭博とかしてるの? まあ確かに、最近は、恥ずかしさの境界線をいったいどこにどう引くのか、人によって全然違ってきているけども。

 バッティングセンターには初めて来たらしい六華ちゃんに、ここの仕組みを教えてやる。受付前の機械でプリペイドカードを買い、打席後ろの機械に読み込ませれば、一回につき十球出てくるのだ。


「うおっ!? かなり速いでありますな!」

「だろ? 俺も最初はビビッたぜ」

「ほっ! であります」


 二回目にして当たった。

 しかし、振りは素人そのものであったから(俺も人のことは言えない)、球は見当違いの方向に飛んでいく。判定は左フライかな?

 似たような景色が、その後も八度(はちたび)続く。


「ふう、これでワンセットでありますか。なかなか上手くいかぬでありますな」

「でも、当たり続けてるのはまぐれじゃないよね。見えてる? それとも、カン?」

「見えるであります。でも我輩、カンはあんまりよろしくないでありますなー」


 一人称、我輩なんだ。


「ソラソラのお手前も、ぜひ拝見させていただきたいでありますなー。この若輩者に、野球とは何たるかを教えて欲しいであります」

「若輩者に教えられるほど、俺は野球に詳しくないぞ。上手くもない。むしろ、若輩者として教えを請いたいぐらいなんだけども」

「しゃーなしでありますな。それでは我輩が一肌脱ぐであります。教えてやるでありますよ、バットの真髄ってヤツを。レクチャーワン、『正しいバットの使い方:頭蓋陥没編』」

「教習所ビデオのノリで、いきなり人の頭にバットを打ち込むな」


 出会い頭に。背後からかもしれないけど。正しさの欠片もない。


「『釘バットの作り方』セッションの事前視聴が本講座の受講資格であります」

「その講座、極道としてのパッションに溢れ過ぎだろ」

「セ・ッションとパ・ッションが大事であります」

「プロ野球リーグみたいに分けるな」


 話を暴力から野球に戻すな。なんだその、「・」の後の「ッ」は。

 六華ちゃんはケラケラ笑う。


「冗談でありますよー。ソラソラ、ツッコミの声音が真剣過ぎるであります」

「ごめん、つい、身近に感じちゃって。とある事情で面倒を見てる極道JC(アイドル)たちの暴力沙汰が、日常で絶えないものだから」

「その極道JC(アイドル)ども、速攻で縁を切った方が良いでありますよ」

「蝶よ花よと愛でて育てれば、いつか更生してくれるはず。きっと」

「象よ蝶よと増長するだけであります。更生という表現の時点でお察しでありますな」


 聞き飽きた忠告だ。俺はめげない。巴ちゃんの閉じ捻り腐り曲がった精神も、ウネウネブヨブヨした幼虫が綺麗な蝶と化すように、美しく変態を遂げてくれるはず。

 ちなみに最近、巴ちゃんによって俺の下着が盗まれたり、俺の風呂場シーンが盗撮されることが増えている。

 月並みなギャグだけど、彼女は着実に、変態へと変態を遂げていた。


「……蝶と言えばでありますが」


 六華ちゃんが、ふと、伏し目がちに切り出した。


「足が百八ある巨大な蝶を見かけたら、ソラソラはどう感じるでありますか?」

「……へ?」


 間抜けな声が出た。足が百八本ある巨大な蝶だって? なんだその化け物は。

 しかし、六華ちゃんに、冗談を言っている雰囲気はない。真面目な質問のようだった。どういう文脈なんだ? いや、花よ蝶よの下りからの繋がりだとはもちろん分かるけど、『図体がデカく足が百八本ある』蝶なんてのは、いきなりぶっ飛び過ぎだろ。

 昆虫の足は六本じゃん。

 百八は人の心にある煩悩の数であって、あの可愛らしいちょうちょたちとは無縁の数字だ。あ、もしかして、「足が百八ある巨大な蝶」というのは、巴ちゃんのメタファーか? でもあいつ、百八の煩悩と言うよりかは、百八の大罪ってタイプなんだよな。

 それに、巴ちゃんと六華ちゃんに、接点があるとはとても思えない。互いにまったく知らない関係だろう。

 質問の意図が、ますます分からなくなってくる。


「あー、そんな深く考えなくて良いであります。パッと答えてくれたら十分でありますよ」

「じゃあ率直に答えるけども、要は足が百八本あるモ◯ラをイメージすれば良いんだろ? 気持ち悪いし、寒気がするし、恐ろしい」


 続ける。


「正義の味方に倒されて欲しいな」


 もしエギンだとすれば、俺が倒さなきゃいけないが。


「正義の味方、でありますか」


 六華ちゃんは目を逸らす。少し誇らしげに、彼女はにまりと笑った。

 慌てて口元を隠す。恥ずかしそうにして。


「の、喉乾いたでありますな」

「中の自販機は故障中だ。俺の分のお茶も買ってきてくれ」


 三百円渡す。

 六華ちゃんが出て行ったところで、椎奈ちゃんが戻ってきた。ゲッソリしている。かわいそうに。こんな時にさりげなく、お腹の調子を整える錠剤でも渡してやれればかっこいいのだろうけど、常備出来るほど金がない。

 薬は高いのである。


「うう、うう、ごめんよ昊刃氏。せっかく遊びに来たのに……うっ!?」


 慰めの言葉を掛けようとしたところで、椎奈ちゃんは蜻蛉返りした。

 六華ちゃんが、飲み物を二本抱えて戻ってくる。


「はい、緑茶であります」「ありがとう。そっちは……?」

「ラーメン×ショートケーキ風味マグロ寿司サイダーであります! いやあ、美味しい尽くしのコラボレーション、こんなの絶対美味いに決まっているでありますなあ!」


 激毒じゃねえか。六華ちゃんは一口で体調を崩した。にもかかわらず全部飲みやがった。

 嫌な汗を噴き出しつつ「我輩のことは気にせず楽しんでくれであります」と言いながらトイレに消える六華ちゃんに従い、峠を越えて戻ってきた椎奈ちゃんともう一セットだけバットを振って、夕飯の支度をすべく帰った。


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