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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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14 良い子


 エギンが亜人に謎解きを課してきた例は、過去に一度もないらしい。

 やっぱり、と感じた。

 アパートの玄関前を箒で掃除しつつ、沈思黙考する。

 数日前、椎奈ちゃんと一緒に、学校の教室に閉じ込められた。脱出するためには、用意された謎を解く必要があった。あの事件を、本能に従ってアイテールを喰らっているだけのように見えるノーマルなエギンが単独で引き起こしたとするのは、どうも不自然だ。

 となると、バックに知性ある誰かがいて、エギンを操っていた可能性が高いだろうか。筆頭容疑者は、もちろん浜世家。何せ椎奈ちゃんの父親は、エギンそのものになっていたし……尤も、エギン化に体が耐えられず、俺が手を下さずとも、後で必ず死ぬ運命だったらしいけど。落ちこぼれだった椎奈ちゃんは詳しく知らないみたいだが、彼らがエギンを操作する能力を持っていたとしても不思議じゃあない。

 ただし、浜世家が俺たちを閉じ込めたとして、気になる点がいくつかある。回りくどいという他にも、クイズの出題内容が、俺の所属するクラスの事情にある程度踏み込んでいたこととか。

 亜人とその一派を狙っているだけの出題者が、「亜人」としての俺とはほぼ無関係のクラスについての問題を作るだろうか。

 トタン製のチリトリに落ち葉を押し込む。


「おや。この前、公園でボールを拾ってくれたお方ではありませぬか」


 ん? 声をかけられ、顔を上げた。

 巴ちゃんたちと同年代の、中学生ぐらいの少女だ。

 つい先日、公園で見かけた顔。時代錯誤な話し方の。


「ああ。小学生相手に接待バスケしてた子」

「少し引っかかる物言いでありますな。私の名前は六華(りっか)であります」

「鈴木昊刃。よろしく、六華ちゃん」

「うお! ほぼ初対面なのにちゃん付けされたであります! これがいわゆる、外界のナンパでありますか!」


 どういうわけか、六華ちゃんは大はしゃぎを始める。

 首を傾げた。初対面の女子をちゃん付けで呼んだからと言って、それがどうしてナンパになるのだろうか。文化圏の違いだとすると、この少女が生まれ育ったのは、この街ではないということになる。

 数日滞在するだけの観光客なのだとしたら、女と見たら見境なしにナンパしようとするクズ野郎の住まう街だと、この子に印象付けたくはないな。さて、どうすれば良いだろう。


「ちゃん付けに違和感があるんだったら、そうだな。『六華たん』か『六華ちゃま』か、どっちにする?」

「どっちも気持ち悪いでありますー」


 気持ち悪がられてしまった。気持ち悪いなら去れば良いのに、ケタケタと笑いながら、掃除したばかりの段差に座る。


「面白いでありますなあ、ソラソラは」


 眉を顰める。軟派なあだ名を付けられてしまった。

 ソラソラって。架空のアイドルにたくさんいそう。もしくはパンダ。


「ふむう。ソラソラは嫌でありますか? なら昨今のさいせいえねるぎぃブームとやらに即して、ソーラーパネル、略してソラパの方が良いであります?」

「本名に近いし、『パ』の響きが絶妙にダサいな。どうせ横文字なら、『昊刃』を英訳した『スカイソード』(イケボ)を希望するぜ」

「間を取って『海藻(カイソー)』にするであります」


 ス「カイソー」ドの間を取るな。ワカメも昆布もひじきももずくも海ぶどうも好きだけど、海藻と呼ばれるのはさすがに勘弁だ。いじめられてるみたいだし。

 やっぱり『ソラソラ』がいいな。年下(?)の女の子から愛らしいあだ名で呼ばれたら日々の疲れが癒されそうだぜ、なんだかんだで。三色娘にもそう呼んでもらおうかな。

 白西からだと興奮し過ぎて、昇天する危険が生じるけども。

 玄関前の掃き掃除から、庭の雑草むしりに移行する。六華ちゃんもついてきたが、暇なのだろうか。まあ、慣れない街をブラブラ散歩してただけっぽいし。

 なんと手伝ってくれた。驚きだ。三色娘は桃架ちゃん含めて地味で汚い作業が嫌いで、何かと理由を付けて回避してくるのに。

 今時の若者は、ああいう子たちばかりなのだと思い込んでいた。


「ははは、ソラソラも定義上は今時の若者でありますよー」

「一応お金をもらっているからな。世間相場的には少額だけど。養うべき中学生の少女が三人と、同級生と熟女がそれぞれ一人ずついるんだ」

「それ、本当に養ってるんでありますか? 疑念をより具体的に表現すると、男性の抱く劣情を良いように利用され、タカられているのではありませぬか?」


 まあ、そういう風に取られても仕方がない。実際のところ、中学生三色娘は眷属魔法少女として給金なし三食昼寝付きで雇っているようなものだし、同級生と熟女はアイテールを奪われた被害者として、亜人のお触り治療が毎日必要だから、側にいてもらっている。

 事情については、妖精から口止めされている。曖昧に笑ってお茶を濁した。

 かわいそうなモノを見る目で見られた。やめてくれ、少女からのその視線、やみつきになっちゃうだろうがよ。

 ことあるごとにかわいそうムーブをかますウザキャラに転身するぞ。


「普段から手入れされているのでありますな。偉いであります。始めたばかりなのに、すぐにでも終わりそうでありますよ」

「六華ちゃんが手伝ってくれたおかげだよ。何かお礼をしなきゃ」

「そんな、悪いであります。勝手に手伝っただけでありますゆえ」


 謙遜する六華ちゃん。これも信じられない。例の三色娘どもは、何か手伝ってくれたかと思いきや、必ずご褒美を求めてくるのに。仕事との向き合い方としては、別に間違ってないけどさ。

 ピリリリリ。

 六華ちゃんの時計が鳴った。やけに高機能そうな代物だ。スマートウォッチってヤツだろうか。

 画面を眺めて、彼女のおちゃらけた表情が一変する。言うなれば仕事モード。

 何事だ?


「ごめんなさいっ、用事が出来てしまったであります!」

「ん?」

「ではでは、さようならであります! あっ、お礼と言うなれば、またお話相手になってくれると嬉しいでありますーっ」


 元気にそう言って、アパートの庭から駆け去った。

 バイバイと手を振る。すごい良い子かよ。心が洗われるようだった。あの子の人格をコピーして巴ちゃんにペースト出来ないだろうか。

 ふと、いつもの違和感を覚えた。体が軽い。エギンが現れたのか。

 しかし五分後には、感覚が元に戻った。エギンを倒してないのに。


 結局その日、街に化け物は現れなかった。


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