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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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9 リコーダー


「そこにある笛の子」でなく、「そこにある笛」までで一まとまりだったらしい。

 椎奈ちゃんと二人で反省する。溜息しか出ない。真っ先に気づいてもおかしくなかったのに。

 最初に「笛の子」という文字列へと変な注目を浴びせかけてしまった結果、こうも発見に時間がかかってしまった。


「私が迂闊に方針を決めてしまったからだ……ああ」

「仕方ないだろ、ミステリ初心者なんだから。ローファンタジーアクション小説の亜人と魔法少女なんだから、灰色の脳細胞なんて持ち合わせていないんだ」

「そうなると、新しい謎が生まれるぞ。ローファンタジーアクション小説なのに、なぜ謎解きなどやらされているのだろうか、私たち」


 知らん。


「新しい謎よりも、まさに今解いてる謎の方が優先だろ。『そこにある笛』がこのリコーダーなのだとして、リコーダーの『子』とは、いったい誰を暗示しているのだろうか? いや、誰とも限らないか。何を示す文言なんだ?」

「とりあえず、『誰』の方から候補を考えてみようじゃないか。このクラスには、リコーダーの名手とかいないのかい?」

「リコーダーの名手ねえ。イマイチピンと来ないなあ。音楽選択じゃないからね。白西が美術を選択したから、俺もそうした」

「昊刃氏の行動は、白西氏の趣味嗜好に引っ張られ過ぎじゃないか?」


 主体性のなさを突っ込まれた。しかし俺は、白西が大好きという自我だけで、もう十分幸せなのだ。それに、個人的には、主体性はあれば良いという話でもないと思う。周りを見ている限りにおいて、人間なるもの、尖り過ぎるとしんどいっぽいし。

 ああ、椎奈ちゃんのことを言っているのではない。この子が尖っていた理由は、自我が有り余っていたからではなく。むしろ、浜世家の落ちこぼれとして肩身の狭い思いをずっとしてきた結果、主体性というかアイデンティティが削られ、先細りしたからだった。


「でも、そうだ。小中学校で同じクラスになったことのある奴らなら分かるよ。リコーダーが特に上手だったのは、秋山日菜さんと木村誠太くんかな。あくまでもクラス内で上手い方なだけであって、こう言っちゃ悪いけど、仮結衣さんのクラリネットには及びもつかないぞ」

「じゃあ、リコーダーの『子』というのは、昊刃氏のクラスメイトのうち誰か、というわけじゃあないのかな」


 表している対象は、クラスメイトの誰かじゃない。どころか、人間じゃないかもしれない。

 リコーダーの子。その言葉から連想するのは、リコーダーから生まれるもの。


「音……、あるいは、旋律?」


 椎奈ちゃんも、同様の結論に至ったようだ。おずおずと言う。「ガンガンいこうぜ」の精神で推理に失敗した反動からか、かなり慎重になっているご様子。


「吹いてみようか」「でも、挑戦一回分として数えられてしまうかも」

「数えられたら、運営に文句を言ってやる」

「どうやってコンタクトを取るんだよ」


 それでは一曲お聴きください。ドレミの歌。


「……音割れひどくないかい?」

「うるせえ。ほぼ五年ぶりだし、そうでなくても綺麗な音を出すのは難しいんですう。楽器はね、音楽の才能がデフォルトで備わってないと扱えないんだ」

「リコーダーは、そこまで人を選ばないだろう? クラリネットならともかく」

「俺はカスタネットすら上手く叩けなかった」

「嘘だろ? 迷子の迷子のリズム感。すり抜ける左手はともかく、あれは右手だけでも余裕じゃないか。学芸会での選択肢がマラカスかトライアングルかだけしかない音楽性だ」

「あー。今の的確な喩え、すっごく傷つきましたー。心にグサッと来ちゃいましたー。それだけ言うなら椎奈ちゃん、君はリコーダーをちゃんと綺麗に吹けるんだろうな? え?」

「どうしてそんなに喧嘩腰なんだい? 大人気ないぞ昊刃氏。そ、それに、吹くって、そのリコーダーを、私が、かい……?」


 顔を赤らめ、おずおずと尋ねてくる。「ガンガンいこうぜ」の精神で推理に失敗した反動からか、かなり慎重になっているご様子。


「この慎重さは、そのせいじゃないっ。足踏みくらい、誰だってするだろう。だって、それは、か、間接キスじゃないか!」

「か、間接キス!? ん〜……ま、いいんじゃね?」

「なんだその態度は。ムカついたぞ。貸せ。一曲弾かせていただく」


 恥ずかしがってたのか。ん? と違和感を覚える。俺をナイフで刺した時、冥土の土産とか言って、椎奈ちゃんがキスを迫ってきた記憶があるのだけど、気のせいかな?

 気のせいだったのかもしれない。

 引ったくったリコーダーで、椎奈ちゃんは「君が代」を奏でる。


「どうだ昊刃氏」「さすがの貫禄。苔が生している」

「花も恥じらう中学二年生への賛美かい、それが。可憐な花が咲く植物を使って褒めたまえ。あれ? ギャグシーンを演じている場合だったかい? 私たちは、いったい何をしていたんだったっけ?」

「何か、とても大事なことをしていた気がする。でも、もういい。もう疲れた」

「役目を忘れるくらいに長い時間、ひたすら主の命令に殉じ続けてきた人型ゴーレムが機能停止直前に言いそうなセリフを吐くな。謎解きを始めてから、まだ二時間も経ってないぞ昊刃氏」


 しっかりとツッコミをしてくれる椎奈氏。

 俺は嬉しい。安心してボケられるというものだ。

 巴ちゃんはボケをエスカレートさせるタイプだし、桃架ちゃんは赤ちゃんのフリしたら普通に膝枕させてくれる子だしで、共にツッコミ気質は薄い。


「赤ちゃんプレイでバブバブ膝枕だって? 見損なったぞ。君って奴は」

「『第一章 23 ニュース (https://ncode.syosetu.com/n2676ho/24/)』を参照」

「どうして己の黒歴史を参照出来るんだい? URLまで載せるな」

「要る? 回想シーン」

「どう考えても要らないだろう!?」


 謎解きシーンでボケ倒してしまった。いい加減に軌道修正しないと、椎奈ちゃんに愛想を尽かされてしまう。しかも、こうしている間にも、外でエギンが暴れている可能性がある。

 尤も、実のところ、部屋に閉じ込め謎解きをさせるという搦め手を使っている時点で、本体はそこまで強くないと予測している。亜人(おれ)不在で変身は出来ずとも、波動エネルギーを溜め込める桃架ちゃんなら対処出来るはず。

 それどころか、まだ覚醒すらしていないのでは。

 にもかかわらず、プンスカ怒る椎奈ちゃん。根が真面目なのだろう。もう少し楽に生きればいいのに。キュートなタヌキ顔が台無しだ。

 ……ん?


タヌキ(・・・)?」


 ちょっと待って。もしかして。


昊刃氏、何かに気づいた模様です。

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