7 推理(間違いパート)
日曜の学校に忍び込んだら、たぶんだけどエギンのせいで、新米魔法少女の椎奈ちゃんと一緒に、教室に閉じ込められちゃった!
部屋から出るための条件を探していると、出席簿に挟まれた暗号文を発見したよ!
読んだらチンプンカンプンで、頭が沸騰しちゃいそう〜!
そして、天井のシミを数えるだけの現在に至る。
「電話は、繋がらないか」
呟いてから、椎奈ちゃんに話しかけた。
「巴ちゃんなら一瞬で、鮮やかに解いてみせたかな?」
「どうだろう。あの青クズ、賢くても頭は固そうだしね。桃架氏の方が得意なのではないかな。あくまでイメージに過ぎないけど」
そうだろうか。暗号文を読んで宇宙猫になってる桃架ちゃんなら容易く想像出来るけど、「謎を解く鍵は、最初からここにあったんです」、などと言って華麗に答えを説明する姿は、残念ながら想像出来ない。一方で、鮮やかに解答を導いてみせたのち、ドヤ顔で手柄を主張しまくる巴ちゃんなら、瞼を閉じればその裏側にいた。
かなりムカつく。
椎奈ちゃんも結局同じイメージに行き着いたのか、二人でげんなりしつつ、逃げるように現実へと立ち向かう。再び暗号文を読んだ。
やっぱり、さっぱりだ。
俺たちは、亜人探偵でもなければ、魔法少女探偵でもない。
「ふう。ミステリーとは、縁遠い人生を送ってきたからなあ。『太平洋戦争の真実』系統の本なら、小さい頃からずっと読み込んできたんだけど」
「陰謀論じゃん。謎を解き間違ってるじゃん。ミスってリーじゃん」
「みすって、りー? ……ああなるほど、ミステリーと、間違いのミスをかけた言葉遊びかい? えっと……は、ハハ!」
「君という眷属の、主としての命令だ。俺を殺せ。塵の一欠片も残すな」
両手で顔を覆い隠す。内側から爆発しそうになるくらい恥ずかしかった。危うく、必殺の「赤の亜人」状態になりかけたぜ。
ふと考える。「赤の亜人」というカードを切れば、教室から脱出出来るだろうか? 首を横に振る。被害が大きくなるし、脱出後にエギンとの戦闘になる可能性もあるし。強力な技にありがちな代償として、あれの効果が終わった後、俺はしばらく使い物にならなくなる。
状況は極めてシンプルだ。閉じ込められました。部屋から出るためには、用意された謎を解かなければなりません。シンプルだから、ゲームのデバッガーみたく、出題者の意図に反する邪道を探る行為は、あまり得策ではないのだろう。正規のルート、つまり謎を解くために努力するのが一番だ。
が、俺だって、この手のミステリーに慣れているとは言い難い。理由はもちろん、白西が興味を示さなかったからだ。ゲームにミステリーの要素があった時には、彼女はいつも攻略サイトを参照して乗り越えていた。
鳥矢は一人で解いてたよな。だとすると、この場に一番必要な人材は、あの元廃人ゲーマーなのかもしれない。
出席簿を持ち上げる。
再掲すると、暗号文は、
『
席順の紙を見ながら、次の問題を解け(チャンスは2回)。
そこにある笛の子を殺し、次に女を燃やし、横に侍らせて、
左にいる彼を消せ。
残った者は左方第一脚から十二歩、標に従い道を切り開け。
』
だ。
「横に侍らせる予定の女を、なぜ燃やすんだ。褐色どころか、物理的に焼けた肌にしか興奮しないのかな? ちょっと賛同しづらい性癖だな」
「最初に気になる点が、そこなのかい? あくまで素人の意見だけど、初めの一歩は、この『笛の子』が誰なのかを特定することだと思うんだ」
椎奈ちゃんによる推測に、なるほどと頷く。暗号文の前文に『席順の紙を見ながら……』とあることから、「笛の子」「女」「左にいる彼」「残った者」の文言は、それぞれクラスメイトの誰かを表していると考えて間違いないだろう。
さすが椎奈ちゃん、内容はともかく、幼い頃から読書をしているだけはある。
席順の紙を使いつつ、彼女に説明する。
「『笛の子』ね。クラスメイトに吹奏楽部が二人いる。林健太と仮結衣鈴愛。しかも仮結衣さんは、昨年度の全国高校音楽コンクール・クラリネット部門で優勝しているはず」
「凄まじいな。あ、昊刃氏の右隣だ」「だから最近よく会話するんだよ」
仮結衣さんが「笛の子」なのか? 殺すとは、穏やかじゃないな。もちろん、将来は日本の音楽界を背負って立つかもしれない才女に危害を加えるつもりなどあるはずもないが、俺たちが教室から出られない以上、現在、彼女に接触することすら不可能だ。
じゃあ、「殺す」の意味は? 席順から仮結衣さんを、除外しろということか?
「でも、そうなると、残った林健太氏は、名前からして男性じゃないか。先に仮結衣氏を殺してしまえば、燃やされる女の候補がいなくなる。『笛の子』は林健太氏の方なんじゃないか?」
「林くんをそう呼ぶのは、悪いけど違和感があるかな。どこにでもいる普通の人間だよ。俺と同じく」
「昊刃氏は、普通の人間じゃないだろう。なんたって『亜人』なのだし」
仰る通り、「人」からズレた存在だ。
これで一般人を名乗るのも、一般人にとって失礼か。
「じゃあ、仮結衣氏が『笛の子』だとして、だ。燃やされる『女』は誰なんだい? ……あ」
「どうしたの?」
「白西氏の下の名前は、『里火』と言うのか。昊刃氏の大好きな彼女だけ、名前に火が入っている。『女』は白西氏なのではないか?」
「白西を燃やさせるわけにはいかない。たとえ概念上の話であってもだ。だったら俺が代わりに燃える」
「熱い情愛だねえ。はあ……」
椎奈ちゃんは、憂鬱そうに溜息を吐く。呆れさせてしまったか、俺の巨大なラブの心に。
閉じ込められたと気づく前、俺の気持ちを応援すると言ってくれたのにもかかわらず、本当は興味がなかったのか、彼女は淡々と続ける。
「『笛の子』仮結衣氏を除外して、代わりに燃えた白西氏を侍らせると、左横にいるのは昊刃氏だぞ」
席順:
秋山日菜 斎藤宏 江坂尚彦 暹朋希 南里帆
口木直哉 鳥矢赫義 及川蔀美 策剛絵梨 林健太
貝原和人 篠真希:故 志垣洋子 室千亜希 佐伯奈恵
長澤桐世 木村誠太 田中一郎 白西里火 真壁こより
[空席] 坂城十四郎 鈴木昊刃 仮結衣鈴愛 那智香
「あれ。ホントだ」
「で、昊刃氏を消すと。白西氏が焼け死ねば、この行で残るのは、坂城氏と那智氏だ。で、左方第一脚というのは、机の左前足を表しているのと同時に、この二人のうち左にいる側を表しているのだと思う。つまり坂城氏だ」
「説明がすごく怖いけど、おお!」
「しかもだよ。ふふ。先ほど、黒歴史によって鬱になって床をカリカリしている時に、この教室のタイルのハマりが不安定であることに気づいた。抜けかけの乳歯が如くグラグラだ。坂城氏の机が左前足に踏まれたタイルを裏返せば、標とやらが示されるのではなかろうか!」
「す、すごいぞ椎奈ちゃん! 名推理だ! 本物の魔法少女探偵だぜ! 本当にミステリーと縁遠い人生を送ってきたの!?」
褒め称える。彼女は誇るでもなく、恥ずかしそうにモジモジしていた。
推理通り、坂城くんの机の、左前足の下にあるタイルを裏返す。
表示されたのは、赤いバッテン印。
(チャンスは2回)という注意が、(あと1回)に変わった。




