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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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6 謎解き


 この高校の各教室には、扉が前後に二つついている。

 一方の扉に右手を突っ込んだ。もう一方の扉から、ニュッと手が飛び出す。

 右手をヒラヒラさせてみた。向こうの手も、ヒラヒラした。


「閉じ込められたみたいだね」「だな」


 こういう現象には覚えがある。

 病院に現れたクラゲエギン。未覚醒の間に呆気なくやられないよう、潜伏先の部屋に亜人を入れない特殊スキルを使っていた。

 今回は逆だ。入れないのではなく、出られない。


「すり抜けは?」「……ダメみたいだ」

「ふうむ。丸投げで悪いけど、どうすればいいだろう?」

「リーによると、エギンによる、亜人とその一派を無制限に拘束したり命を取ったりする能力の保持はあり得ないらしい。ここから出るための条件が必ずあるはずだ」


 そう言って腕を組む。俺たちを閉じ込め、その隙に、無辜の住民からアイテールを奪う算段かもしれない。化け物たちにとって、亜人を隔離する一番のメリットは、亜人に食事を邪魔されないことなのだから。

 急がなければ。特別な力を与えられた亜人としての義務感が、俺の焦燥を掻き立てる。しかし、年下の女の子に「条件があるはず」と賢しげに言ったところで、具体的な内容については、何一つ見当がつかない。

 不敵な笑みを浮かべつつ、椎奈ちゃんが人差し指を立てる。

 まさか、分かったのか。


「昊刃氏。とりあえず、科学的常識に沿って直観的に考えてみよう。こういう時の頻度論だ。条件付きでしか出られない部屋のうち、最も頻繁に取り沙汰されるものは何か。答えは簡単、『セッ◯スしないと出られない部屋』だ!」

「その答えのどこに常識があるの?」


 絶句するわ。SNS上のテキストデータのみを集め、最尤推定法の考え方を応用したプログラムを作れば、コンピュータはそういう答えを予測するのかもしれないけど、これは、強制的に生ゴミを食わせてただただゲロを吐かせるような行為に等しい。

 アホ分析だ。

 そもそも、「行為に及ぶ」という二人いないと成立しない条件には、入り込んだ亜人を無制限に拘束する可能性が少なからずある。俺は一人で来る予定だった。椎奈ちゃんがついてきたのは偶然の結果なのだ。

 リーの知識に従えば、このような条件は課せないはず。まあ、彼の知識が間違ってる場合もあるのだろうけど。

 自分の発言が恥ずかしくなったのか、真っ赤になって俯く椎奈ちゃん。


「すまない昊刃氏。どういうわけか、テンションが上がってしまって」

「まあ、滅多にない経験だしね。監禁でもされない限り」


 急がなければいけないが、答えを急いでも徒労に終わる。

 リーを信じて、条件探しに着手する。辺りを見回した。どこをどう切り取っても普通の教室だ。いつもの教室なのだから、当たり前である。黒板があって、教卓があって、机と椅子が規則正しく並んでいて、後ろにロッカーがある。天井には古い空調設備。


「美國中は電子黒板だし、エアコンは剥き出しじゃない。あと、各教室に一人お世話係が付いていて、頼めば紅茶を作ってくれるんだ。教室には、常にバラの香りが漂っているよ」

「先進的かつ優雅だなあ。え? つまり何? その素晴らしい学校で、君は反民主的なプロバガンダ活動を行い、巴ちゃんは暴力事件を起こしたってわけ?」

「…………」


 椎奈ちゃんはシュンと項垂れ、黙り込んでしまった。黒歴史を反省しているようだ。巴ちゃんは一切反省しなさそうなので、まだマシである。

 教室の隅で(うずくま)り、床をカリカリし始めた椎奈ちゃんはそっとしておいてやることにして、行動に移る。俺一人だったとしても、脱出出来る条件のはずなのだから、大丈夫、きっと。

 教卓の前で足を止めた。これ見よがしに置かれているのは、このクラスの出席簿だ。開く。事務用綴じ込みファイルの一枚目には、ラミネートされた席順が挟まれていた。

 二枚目と三枚目は、フォーマルな名簿表。


「ん? 四枚目?」


 記憶が正しければ、ないはずのページだった。

 いきなり当たりだったらしい。書かれた文章を読む。


 席順の紙を見ながら、次の問題を解け(チャンスは2回)。


 そこにある笛の子を殺し、次に女を燃やし、横に侍らせて、

 左にいる彼を消せ。

 残った者は左方第一脚から十二歩、(しるべ)に従い道を切り開け。


席順:

秋山日菜  斎藤宏   江坂尚彦  暹朋希   南里帆

口木直哉  鳥矢赫義  及川蔀美  策剛絵梨  林健太

貝原和人  篠真希:故 志垣洋子  室千亜希  佐伯奈恵

長澤桐世  木村誠太  田中一郎  白西里火  真壁こより

[空席]  坂城十四郎 鈴木昊刃  仮結衣鈴愛 那智香



 解放の条件は、謎解きらしい。

 ここにきてミステリかよ。

 目を細めてじっと眺める。裏から透かす。腕を組む。


「うん…………うん?」


 一部席順が間違っていること以外、全然分からない。この紙っキレは何を言っておられるんだ? 作問者は頭がおかしくなったんじゃないのか? 問題としてちゃんと成立してる?

 などと、数学ワークの応用問題で躓いた室や鳥矢みたいな、非生産的なことを考えていると、鬱からどうにか立ち直ったらしい椎奈ちゃんが、よろよろと近づいてきた。生まれたばかりの子犬みたいだ。初対面の時に纏っていた謎の覇気は、今やすべて失われてしまっている。

 出席簿のクイズを覗き込む椎奈ちゃん。

 十秒ほど固まったのち、アヒル口をしながら首を傾げた。

 円な瞳がかわいいね。しかしこの世には、可愛さでは解決しない問題も数多に亘って存在する。


ここにきてミステリだよ。

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