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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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4 管理人


「このエギンは、いったい何を象ってるのかな?」

「さあ。カジキじゃないかしら」


 塵と化していく化け物の死体を背にして、解散する。椎奈ちゃんと別れてから、俺と巴ちゃんはアパートに足を向けた。桃架ちゃんは用事のため不在。

 アパートの階段を昇る。俺たちの部屋がある階で言った(もちろん別室だけど同じ階だ)。


「じゃ、巴ちゃん」「えー。私の部屋で少し喋りましょうよ」

「今日は管理人の生存確認しとこうかなって」


 最上階に赴く。一番奥の扉を開けた。ゲームの攻略本や漫画、CDやラジオカセットなどが乱雑に積まれていて、足の踏み場に困る。いつから整理してないのだろう。片付けようとすると、ヒステリーになって怒鳴り散らすし。

 いい年したおっさんの態度じゃない。障害物を避けながら進む。

 バランス感覚が鍛えられそう。


「腐臭はしないってことは……死んでないってことか」


 探偵みたく呟きつつ、彼のプライベートルームに入った。いや、この物件に、プライベートでない空間などないのだけど、とにかく区画上は「私室」である部屋だ。

 パソコン画面の光が、閉め切られた世界を照らす。部屋の主が背を向けたまま、こちらに声をかけてきた。

 ぶっきらぼうに。


「なんだ金欠。また金をせびりに来たのか? それならメールでいいだろう」

「せびりに来たとは、悪意があるな。あんたに代わってやってる業務の正当な駄賃をもらってるだけだ。業者に頼むともっとかかるところを、格安で引き受けているんだぜ? 感謝してくれてもいいと思うけど」

「ふん」「今日はあんたが物理的に生きてるか見に来た」

「それもメールでいいだろうがよ」

「自動返信か、あるいはあんたなら、鬱陶しい俗世の肉体を捨てて、電子空間に移住した可能性も考えられる」

「アホか。ライトノベルの読み過ぎだ」


 彼はそう吐き捨てたけども、俺は漫画やアニメ、ゲームは多少嗜んではいるものの、生憎とライトノベルには手を出していない。

 白西が興味を示さなかったから。


「風呂は入ってるらしいな。飯は?」

「食ってるよ。だから、餓死した俺を秘密裏に処理してアパートの管理人に成り代わるというお前のライフプランは実行されない」

「そんな趣味の悪い計画を立てた覚えはない」


 人の死をスケジュールに組み込むだなんて。

 巴ちゃんじゃああるまいし。いや、桃架ちゃんも、巴ちゃんの殺害計画なら喜んで企てそうな気がする。


「聞きたいことがある。お前、好きな女子と同棲してるんだよな。事情付きで」

「ああ。事情付きで」

「なのに、派手な髪色の女子を頻繁に連れ込んでいる。どういうことだ?」

「俺の同階に友達でも出来たかよ?」「監視カメラに写っている」

「なるほど。別に、疚しいことはないぞ。まったくない。ピンク髪の子は元々隣部屋の住民だし。あんたは知らないかもしれないが、青髪の子は、ご家族の逝去で元の家を引き払い、同階に引っ越してきたんだ。彼女たちには、兄貴分として世話を焼いてるだけ。山吹髪の子は彼女たちの友人」


 最後以外は本当だ。友人は偽。俺の職場は基本ギスギスしている。

 関係性について隠し事はしないが、しかし、亜人とその眷属として、街に現れる化け物を倒す活動をしていることまで言及するつもりはない。妖精リーから「なるべく秘密に」とのお達しが出ているし、この管理人様だって、余計なトラブルに巻き込まれるのは嫌う。


「お前がそう言うのであれば、そういうことにしておいてやる」

「含みを持たせるな。珍しいな。あんたが外界に興味を持つだなんて」

「……最近、派手な髪色の人間が惨殺される事件が数件あった。だからか」

「アイドルのヤナギ紫穂が亡くなったというニュースは見たが。他にも起きてるのか? なら気を付けよう。ところで、人と喋っている時くらい作業を中断しろ。さっきからカタカタカタカタ、何をやってるんだ?」

「マックス・フィット・ゲームスと組んで生み出したゲームソフトが好評だった。新しく(ツー)を作っている」


 淡々と言う管理人。マックスなんちゃらと言うのは、有名なゲーム会社だ。こいつ、パソコン大好き人間だとは思っていたけど、副業でゲーム制作をやっていたのか。

 違うか、マンション管理が副業なのか。人気ゲームの制作者ならば、それなりに金を持っていても不思議じゃない。

 多分。


「ソフトの名前は?」

「『デミ・シード』だ」「えっ?」


 驚いた。「人」としての理性を失う前の白西が、ハマっていたと思しきゲーム。

 興味を惹かれた。尋ねる。


「どんな内容?」

「簡単に言えば、覇権国家に憧れて他国に侵略する帝国政府と軍部を、特別な力を開発した研究者の主人公及びその助手たちが、内側から止めようとするというストーリーだ」

「特別な力って?」「買って確かめろ」


 引き下がる。先ほどこいつが言った通り、俺は金欠だ。巴ちゃんのストレスゲージがそろそろレッドゾーンに入るから、おしゃれなカフェでデートするための資金も要る。

 ゲームは室から借りるか。


「小遣い増やしてやるよ」

「神と呼ばせていただきます」

「やめろ。鳥肌が立つ」


 スキップしながらアパートの階段を降りて、自室に戻る。

 白西が、テレビの電源を点けたり消したりしていた。何をしてても君は可愛いな。電気代が嵩むからやめてくれ。リモコンをやんわりと取り上げたら、鳩尾をぶん殴られた。

 すり抜けは間に合わない。

 今の行動に彼女の深層心理が現れているのだとすれば、三日は枕を涙で濡らし続ける自信がある。腹を抑えて蹲っていると、スマホが震えた。

 委員長からメッセージが届いていた。夏休みが明けてから五日経つが、彼は学校に姿を見せていない。

 当然か。夏祭りの事件で、思い人がエギンの被害に遭ったのだから。被害者は全員、どこに搬送されたのか分からなかった。

 アイテールを奪われた者は、五日程度で死ぬ。

 恐らく、彼女はもう。


『僕は どうしたら』


 短い言葉に、委員長の悲嘆と絶望のすべてが篭っている気がした。

 とりあえず、電話をかけてみる。彼は出なかった。


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