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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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3 スピリチュアル戦闘集団


 週に二回のミーティング。一回だったのが増えた。

 ただの小規模業者なら、話し合うテーマがすぐに枯渇してグダグダになりそうな頻度だろうけど、エギンの出現や能力、強さのパターンや覚醒までの時間が刻一刻と変わってきている今、いくら話し合っても話し足りるということはない。

 変化しているのは俺たち自身もだ。破竹の勢いで急速に成長している。戦略は都度都度見直す必要がある。

 高度IT人材たる巴ちゃんのノートパソコンによるシミュレーションに助けられつつ、色々と策を練る。一時間もしないうちに動作が遅くなった。キーボードの下が熱くなっている。酷使し過ぎたらしい。いつものことだ。


「もう。強いパソコンが欲しいわ」「でもお金がないんだよ」

「亜人のすり抜けと妖精の認識阻害で銀行に忍び込めばバッチグーよ」

「バッチグーじゃないだろ。人として終わりだ。ただでさえ亜人なのに」

「アパートの管理人、いるじゃない。あいつ金、持ってそうじゃない。それでもって弱そうじゃない。ちょっと捻ったら資金、ジャブっと出そうじゃない?」

「ヤクザ論法?」


 能力を悪用する前の方法よりは、罪悪感は少なくて済みそうだけど、普通に犯罪じゃないか。ダメなものはダメでしょう。

「人」の社会からちょっとズレる程度では済まなくなる。


「まったく。水晴は根っからの犯罪者だよね。それは最終手段だよ」

「最終でも手段に入れちゃうのは良くないよ桃架ちゃん」

「ここらで中断しないか、昊刃氏。みんな頭が疲れてきたようだし。そろそろ、夕食の準備に手をかけた方が良い頃合いだろうよ。私も手伝う」

「ありがとう椎奈ちゃん」


 真っ当に意見してから、立ち上がって支度を始める椎奈ちゃん。器用に野菜を剥き始める。

 危険思想とバイバイしたこの子は、すごく常識人だった。

 暴力は振るわないし、暴言は吐かないし、人を馬鹿にしない。必要以上に自分を大きく見せたりもしない。巨人騒ぎの時に追い剥ぎされた仕返しか、せいぜい巴ちゃんに嫌がらせするぐらいである。

 夏祭りが終わってすぐ、すなわち一週間前。彼女を眷属として迎え入れた直後は、天皇崇拝者だった頃とのギャップに拍子抜けさせられたものだった。

 沸騰した湯に、重要な植物性タンパク源であるブロッコリーを入れる。

 椎奈ちゃんに尋ねた。


「邪馬台国って、どんな場所なんだ?」


 その昔、卑弥呼が統治したと言われている国。

 冗談での質問ではない。真剣だ。鶏肉と調味料を炒める。香ばしい。

 答える椎奈ちゃん。


「忍者の隠れ里って言ったら、伝わるかな?」「なんとなく」

「皆が弛まず修行をしてる。近衛部隊として、天皇様を守るために」


 邪馬台国とは、浜世家の根城である。国と付くが国ではない。(すめらぎ)の君より「永劫護衛」の任を授かった唯一の家系が築き上げた、隠れて力を磨くための修練場。

 その里は、俺が良く行き来する「少しズレた世界」から、もっとズレた位相に存在するようだ。俺をナイフで刺した後、自宅に逃げ込んだ椎奈ちゃんが消えたのは、邪馬台国に転移したから。まあ、テレポートで逃げられたなら諦めるしかない。

 俺たちはポケ◯ンで、ケ◯シィからそう学んでいる。

 刺してすぐに転移しなかったのは、出入りのための道具──「式似唐具」と呼ばれる特殊な道具の一種らしい──を家に置いていたからとのこと。

 常に携帯していなかった理由は、適性が低いと「命が吸われる」から。

 文字通りに。最悪死ぬ。


「落ちこぼれは排斥される。容赦なく」

「二十一世紀に入って二十年の価値観と照らし合わせると、問題のありそうな所だな」

「問題はあったよ。私にとっては。髪の色で差別されたし」

「討伐対象『亜人』の眷属適性があるから」「うん」


 神妙に頷く椎奈ちゃん。


「本家はいつ来るかな」「分からないけど、そう遠くない未来に」

「椎奈ちゃんがこっちについたことは?」

「絶対に気づかれてないよ。私たち家族のことなんて、誰も警戒してないから。私は言わずもがなだし、お母さんは常にノイローゼだし、お父さんも強かったけど、『近衛士』としての才能は高くなかったからね。そもそも、『亜人』の出現自体がまだ噂程度だった」

「でも、噂にはなってるんだな。天皇直下の護衛集団が、俺を手篭めにしようと、そして魔法少女を殺そうとやってくる。怖いね。どう対処するか……。基本的には、漫画の呪術師、陰陽師をイメージしておけば良いんだよな?」

「人の妄想が具現化したような、スピリチュアル戦闘集団さ」


 突き放したような表現だった。自分を虐げてきた親戚に対する、埋めがたい心理的な距離感がある。

 椎奈ちゃんは手際良く、バターと薄力粉を炒めていた。

 美味しそうなネチャネチャだ。俺は眉を歪めた。


「それが転職理由だったとしたら、非常に残念だけど、俺たちも十分スピリチュアル戦闘集団だからな。そのうちパワーストーンを売るようになる」

「大丈夫だよ。可愛げがあるから。キューティクル戦闘集団だ。可愛い女の子たちが懐で温めた石を売ろう」

「発送から到着までの間に冷えるだろうよ。君たちの温もりも、注文者の頭も」


 温めただけの石で金を儲けようとする時点で、心の温かみが感じられない。

 夕食後、シャワーを浴びながら呟く。


「三人とも、深夜枠の魔法少女なんだよなあ。ニチアサ研修が必要かもしれん」


 浴槽のリーがこう返す。


「あくまで『亜人の眷属』だからナ。『魔法少女』は言葉の綾ヨ。女じゃなくても良いネ」


 驚愕の事実だった。シャワーヘッドを落とす。

 その情報、今更になって?


昊刃の評価は甘くて、巴ちゃんは深夜枠でもいないです。

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