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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第2章 Violet

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2 ワサビドーナツ


 新学期が始まった。初日は授業がない。始業式後、昼食時間を待たずに解散となる。

 帰路の途中、記憶も新鮮な公園クレーム事件について、友人たちに語った。


「というのが昨日の話」「うわ〜、かわいそ〜」


 両掌を口に当てて、心底同情してくれる心優しき親友、室。友情の名の下に俺たちを海に連れて行ってくれた偉人であり、そして巴ちゃんを嫌っている。


「相変わらず魔法少女の風上にも置けない奴〜」

「どうすれば巴ちゃんは真人間になってくれるんだろうか」

「無理無理、出来たらノーベル平和賞ものだって。あはは」

「でも、鳥矢の禁ゲーが未だに続いているんだぜ? 不可能を可能にするメカニズムが、この世にはきっとあるはずなんだよ」

「それ、もはや学校の七不思議だよな〜。頭打ったんじゃねえの、鳥矢?」

「打ってないけど」


 鳥矢は否定した。頭を打った奴はみんなそう言うんだ。なんて、取調室の刑事みたいな表現が浮かんでしまうが、しかし頭でも打たない限りは、突然、こうも大きく嗜好が変わったりはしないんじゃないか。

 ホント何があったんだ? 絶対に覆されると信じていた真人間への転換宣言は、ちゃんと守られているし。

 夏休みの宿題も、俺のを丸写ししなかった。


「この世に未練のある幽霊に乗っ取られたとか〜?」

「意外とありそう。この世界に未練があるという時点で、その幽霊はある程度真面目なのだろうしな。人格が影響を受けたんだ。だとすると、俺たちと喋っている鳥矢赫義は、果たして本当に鳥矢赫義と言えるのか?」

「おいおい、アイデンティティが揺らぐようなことを言わないでくれよ。怖くなってきちゃうじゃないか。俺は俺、昊刃は昊刃、室は室」

「おっ五七五じゃ〜ん」

「お化けに取り憑かれてるんじゃなくて、ゲームに取り憑かれてたんだよ。おかしかったのは前。オーケー? ゲームから解放されたことで、品行方正さは重要であるという意識と、家族への親愛を取り戻せたんだよ」


 言ってから、鳥矢は寂しそうに俯く。


「おばあちゃんに結晶を使ってくれたの、マジのマジでありがとうな。それに、葬式の準備まで手伝ってもらって、どうお礼を返したらいいか」

「もう何回も聞いたよ。別に良いと言ってるだろ。自分で勝手に選んだだけだ」

「俺も勝手に感謝してんだよ。感謝し尽くしてもまだし足りない。お経も昊刃に上げて欲しかったくらい」


 眉を顰めた。言っちゃ悪いが、それは罰だろ。

 正座で集中して呪文を唱え続けるのはキツいし、少しでも気を抜けば遺族に恨まれかねないし。瑕疵なく死者を弔わなきゃならないってのは、なかなかハードな注文だ。あれも仏僧としての修行に数えられるのかな。生きること自体が苦しいものとして扱われているんだっけ、仏教では。

 腕を組む。「生きる苦しみ」ね。ここに引っ越してからは毎日が楽しいけども、両親や兄姉から、赤玉脈付くすり抜けの左手を気味悪がられていた時には、確かにあったかもしれないな。そういうの。

 こと最近に至っては、亜人の責務と巴ちゃんの素行に頭を悩ませてはいるものの、別に苦しくはない。例外は、白西の理性が化け物に奪われた時、死ぬほど不安になったことぐらいか。

 鳥矢たちと別れた。アパートに帰宅する。

 我が社の誇る気鋭の部下たちにメッセージを送った。桃架ちゃんと巴ちゃんはすでに俺の部屋に到着しているらしい。荒らされていないか心配だ。椎奈ちゃんはこれから向かうとのこと。彼女は、元々住んでいた家で寝泊まりしている。

 桃架ちゃんに電話した。


「学校での様子はどうだった? 椎奈ちゃんの」

『これまでの天皇狂信者っぷりが嘘のように大人しかったです』

「まあ、あの子が天皇崇拝に固執する理由はもうないからな」

『学年中で噂になっていました。お兄さんが更生させたと言っておきました!』

「え?」


 え?

 明白なる誇大広告。スケールは小さいけど、それが出来たらもう十分偉人じゃないか。俺が実態よりも大きな存在だと誤解されてしまう。

 巴ちゃん一人で四苦八苦してるのに、もう一人、天皇を担ぎ上げて民主主義政府を転覆させようとしていた危険思想の持ち主をカウンセリングする余裕なんてあるはずもない。それこそ、彼女が勝手に選んだのだ。

 亜人側に味方して、危険思想の土台と自分とを綺麗さっぱり切り離し、新しい自分になることを。

 断じて俺の手柄じゃない。

 善意のつもりだろうか。俺が将来、就活で語れるエピソードを増やそうとしてくれたとか。いや。桃架ちゃんにはあれでシビアなところがあるから、名目上は仕えているということになっている自分の「ご主人様」には、より強い実績を持っていて欲しいと考えている可能性も。

 自分の箔のために、上司の箔を上げる。ひえぇ。

 自宅の扉を開ける。一人暮らしの時には必要なかった「ただいま」を言う。

 巴ちゃんが走ってきた。


「ご飯にする? お風呂にする? それともわ、た、ぬ、き? 富良野の」

(わた)抜きって。猟奇殺人じゃん」

「お帰りなさいお兄さん。待っててくださいね。すぐ水晴をシメますので」

「ほどほどにね」

「即死させて鮮度を保つのがポイントです」

「そっちの『締める』!?」

「献立は、美少女(笑)のお刺身と美少女(笑)のグリルです。ここまでが鉄板」


 戦慄する。どこが鉄板のネタなんだ。凶悪なカニバリズムじゃん。ひょっとしなくとも、鉄板は巴ちゃんの肉をグリルにするのに使ったんだろう。

 睨み合う二人。焼き加減はマックスだ。

 俺の帰宅が、火に油を注いでしまった。


「喧嘩なら屋上で」


 まあ、もう慣れている。本物の管理人から管理を任されている屋上の鍵を提示すると、二人は黙って受け取って、部屋から出ていく。

 ピリピリしてるなあ。残り少ない胃薬を飲む。

 当初は桃架ちゃんの方が圧倒的に強かったが、数少ない美点である高い学習能力によって巴ちゃんも成長し、最近ではいい勝負になってきている。一回あたりのファイティング時間も長くなってきた。

 魔法少女としての戦闘訓練と見做せば、労働時間カウントしても良いのか。

 インターフォンが鳴る。椎奈ちゃんだ。


「富良野氏と青クズは?」「屋上で決闘してる」

「平和だなあ。あ、抹茶ドーナツを焼いてきたよ。食べよう」


 リーも加えて楽しくティーパーティ。途中で桃架ちゃんが戻ってきた。此度の勝者も彼女らしい。五分後、気絶から復活した巴ちゃんも帰ってくる。


「あっ、ドーナツじゃない! 私の分はあるんでしょうね?」

「水晴氏、もちろんともさ。はいどうぞ」

「ふっ、アホピンクと違って気が利くわね……ギャッ!? ニッ、カッ、ゲホッゴホッ! ナ、ヴェっ、なニよコれエエえエッ!?」

「練り込みワサビ」


 トラップが仕掛けてあったようだ。

 喧嘩の後で体がエネルギーを求めていたのか、勢い良く貪りついてしまったせいでもがき苦しむ巴ちゃんを尻目に、俺はシャンと背筋を伸ばした。

 スタイリッシュに決める。


「はい。ではこれより、定例集会を始めます」


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