プロローグ
第二章が始まります。
また失敗するだろう。
アパートの屋上で、しっとりとした宵月を眺めながら、妖精は諦観していた。
亜人としての自覚のち、すぐに波動エネルギーをコントロールしてのけたことは、素晴らしいと言っていい。物体透過も重力無視も、普通ならもっとかかる。
圧縮を成功させたことはもっと素晴らしい。今まで見てきた何百人もの亜人の中でも、たったの八人しか成功していない。
自覚から二ヶ月の段階で脅威度Sが現れたとして、上位四人以外は確実に負けていた。そもそも、二日目にCがやってきた時点で、大半の者は脱落したに違いない。鈴木昊刃は高い才能を持っている。天才だ。潜在力まで含めるのなら、二位の座を奪うのは彼に違いない。
しかし、リュカと比べると……額に紅の宝玉が輝いていたあの少女と比べると、やはり、どうしても劣る。
彼女ほど、魂を赤く燃やせる亜人はいなかった。
彼女でも、穴の向こうで負けてしまった。
希望はない。しかも今回は、エギンの強化ペースが早いのである。十分に成長していない状態で、穴の向こうに乗り込まなければならないシナリオも十分に考えられる。
瞳を閉じた。導き、潰してきた亜人たちが、山となって積み重なっている。
黒々とした穴から、また誰かが落ちてきた。
鈴木昊刃だ。絶望に満ちた死相の。
縁起でもない想像をしてしまった。しかしその想像は、ほぼ確実に近づいてきている未来だ。鬱屈とした気分にならざるを得なかった。
妖精はいつも見ているだけ。終わったらまた、次の世界に送り込まれて、別の亜人と一からやり直す。
そしてまた失敗する。
永遠なる螺旋階段。妖精の運命。彼はただただ昇り続ける。
「約束」のため。
待ち人のため。
アレ。妖精は首を傾げた。
「『約束』って、なんだッケ?」
待ち人って、誰だッケ?




