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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第1章 Yellow

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43 三角関数より三種の神器


『おはようございます。七時になりました。朝のニュースをお伝えします。昨夜の八時十五分頃……』


 テレビの画面をボーッと眺める。全身怠い。人型エギン、もとい浜世の父親を倒すため、本気になった後遺症である。

 夏休みで良かったぜ。あと一週間で学校。予定通りのスケジュールなら。


『……で行われた花火の最中に“謎の生物”が現れ、重大な被害をもたらしました。こちらは昨晩、一般の方が撮られた映像です。夏祭りの会場に、上空から降りてきた様子がご覧いただけるかと思います。警視庁によると、この映像に加工等が為されている事実は、今のところ確認されていないということです。“謎の生物”による襲撃により重傷者含む被害者が三十八名出たほか、会場の一部が破壊されました。その場に居合わせた人々に取材したところ、「化け物の放った攻撃が当たった人が、突然、獣のように暴れ出した」「空飛ぶ何かが化け物と戦っていた」「化け物がいなくなる前、空が真っ赤に染まった」などの証言が出てきています。警察によると、詳しい経緯(いきさつ)については、現在調査中とのことです』


 まだ半日弱しか経っていないのに、世間は大騒ぎだ。各種公開型SNSサービスは、いいね集めの同情投稿と、的外れな憶測で溢れかえっている。

 巨人との関連を疑う言説があった。それは当たってる。

 バターをたっぷり塗った上に、スライスチーズを二枚乗せた贅沢な食パンを頬張りつつ、桃架ちゃんはこう呟く。


「怖い世の中になりましたね」

「驚かないで聞いて欲しいんだけど、桃架ちゃんも当事者の一人なんだよ」

「分かってますよ。やっと変身出来ましたし、頑張ります! エギンの被害で苦しむ人を増やしたくはないですから」


 決意を新たにするピンクヘアの少女。まともな子だ。ちょっとは毒もあるけど、大抵の人はそうだろう。痛覚を遮断出来るという戦闘民族的な特技を持っているとしても、常識があるだけでとてもありがたいぜ。

 昨晩もまた、変な黄色いのが加わったし、いよいよ桃架ちゃんも中間管理職。

 まともな少女が、真面目な調子で注意してくる。


「はあ。青クズといい、懐が深過ぎですよ。節操ないんですか」

「友達が少ないから、人恋しくてさ」

「このアパートはペット禁止です」

「え? 今、『人』恋しいって言わなかった?」


 桃架ちゃん、ひょっとして椎奈ちゃんを人としてカウントしてないの? 言わずもがな、巴ちゃんも人未満の劣等生物なんだろうな。

 椎奈ちゃんは、富良野家の部屋でぐっすり寝ている。

 疲れ切っているようだった。まだ目覚めないだろう。聞きたいことは山ほどあるが、ウチは新入社員を叩き起こすほどブラック体質ではないつもりだ。


「あれ? 青クズはどこですか? 昨日は何の役にも立ってなかったことについて、心ゆくまで馬鹿にしてやろうと思ってたんですが」

「それを見越したのか、ナントカ定理の応用例を探るとか言って、自室で数学研究会のオンラインミーティングしてるよ。休日の朝早くに、同学年のメンバーを叩き起こして」

「害悪ですね」


 そのうちみんな辞めてしまいそうだ。

 食べ終えた食器を洗う。すぐに終わる。体は軽くないし、宿題はとっくの昔に終わっているし、アパートの掃除は一昨日したし、住民からの相談もないしで、何もやることがない。暇だ。端末の電源を点けて、電子書籍を読む。

 リーが近づいてきた。肩に乗る。意外と重い。


「ソラハ。思ってたより、キミはずっと強いネ」

「急になんだよ。相変わらず『キミ』のイントネーションが胡散臭いなあ。強いって、歴代の亜人で言うと何位くらい?」

「八位をくれてやってもいいヨ」

「ギリギリ入賞か。悪くない」


 嘘だ。本当は悔しい。こう見えて負けず嫌いなので。

 スマホが鳴った。鳥矢からだ。画面を眺める。


 おばあちゃんが、亡くなったらしい。


 ただでさえ余命幾許もなかったのに、理性を失ったまま暴れ回れば、そりゃそうなるか。どう返すか迷っていると、再びメッセージが来た。


『最後にちゃんと話せた』、と。

 そして、

『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』────。

 何度も連ねられる、感謝の言葉。


 (おもて)を上げると、白西が真向かいに立っていた。

 ぼんやりとした様子で、しかしこちらをじっと見つめてくる。

 俺を責めている、わけないか。

 この人に限って、それはない。


「次に大物がやってくるのはいつかな」


 玄関から音がした。リビングの扉が開く。遠慮がちに入ってきたのは、黄色い髪の毛、キュートなたぬき顔の新入り眷属、浜世椎奈ちゃんである。

 備考として、重度の天皇崇拝者で、三度に亘って亜人(おれ)の命を狙った。

 期待の新星も、初めての出社で緊張しているようだ。桃架ちゃん(せんぱい)からの圧もすごいし。もう少しリラックスして欲しいのだけど。仕事場の緊張状態を解くのも上司の役目だ。

 さてどうしよう。何も言わなかったら何も始まらないし、かと言って、初動をミスったら人の気持ちって離れるし。困ったな。

 寄せていくか、相手の嗜好に。とりあえず尋ねた。


「昨今、学習範囲の見直しが議論されてるみたいだけど。やっぱ椎奈ちゃんは、三角関数よりも三種の神器派?」

「……は?」


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