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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第1章 Yellow

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41 桃架の猛攻


「来てくれて、ありがとう」


 お礼を言い終わる前に、桃架ちゃんと人型エギンが激突した。

 はっやっ。インパクトの余波がビリビリと伝わってくる。人型エギンの貫手は外され、逆に桃架ちゃんのハイキックが、奴の側頭部を見事に捉えていた。彼女に痛がる様子はなく、そのまま振り抜く。

「位相が少しズレた世界」の物理法則は、「この世界」とは勝手が違う。ヒットによる反動はなく、与えたダメージはすべて相手に行く。逆に、与えられたダメージはすべて自分持ちになる。

 桃架ちゃんにとって、これが初めての戦闘というわけじゃない。変身は出来なかったけど、亜人の眷属として波動エネルギーの付与は出来た。本人が希望したというのもあり、すでに戦線へと投入されている。そして、どうも彼女は、意識の切り替えってヤツが非常に上手いようだった。

 物が体にぶち当たったら痛いはず、という思い込みに囚われない。

 天性の才能だ。俺と巴ちゃんは、このルールに慣れるのに時間がかかった。

 ところで、地上に縛られし普通の人間は、武芸を嗜む上で、技を放った後に残心をとり、相手の反撃を警戒するよう指導される。カッコよく決めたからって驕ってはいけないよ。という武芸の教えの他に、人体はシームレスに攻撃を放てる作りになってないから、相手を倒し切ったと油断すると命取りになるということで、用心の日常化を促す意味合いもある。

 一方、反動のない「ズレた世界」では、格闘ゲームみたいな連続コンボが可能だ。足場という概念もなく、加えて重力をすり抜けられる分、自由度はさらに高くなる。

 ハイキックのち、桃架ちゃんは間髪入れず、全身をバネのようにしならせ、ショルダー・タックルをかます。鉄山靠と言った方が伝わるかもしれない。高速道路を違反スピードで走るトラック以上の威力はありそうだった。

 しかし受けられる。首に手をかけられ、骨をへし折られそうになる桃架ちゃん。すり抜けた。位相を首だけ戻したらしい。

 即座に腰を捻り、肘打ち。横にスライドする人型エギン。ダーツの矢を大量に展開し、桃架ちゃんに放った。ピンク色の魔法少女は「ハッ」と口から爆音波を出し、矢の推進を止める。

 氣の達人?

 彼女は拳を振り上げた。殴りかかるのかと思いきや、爪先辺りを中心に体を上下反転させ、人型エギンの足に組み付く。フェイクを交えてくるとは。狙いは関節外しか。

 もう少しというところで、桃架ちゃんは慌てて離れた。化け物のふくらはぎから、長く鋭利なトゲが突出したのだ。頬を掠めただけで済んだものの、桃架ちゃんの体勢は崩れてしまう。脇腹に回し蹴りを叩き込まれた。

 ぶっ飛ばされる。


 桃架ちゃんっ。叫びそうになった。耐える。彼女を信じよう。

 大丈夫だ。


「私、痛覚をシャットアウト出来るんです!」


 彼女は前にそう言った。期末テストの辺り、確か蟹のエギンと戦った後の話だ。

 発見が遅れたせいで、相手は覚醒しきっていた。見つけたのは桃架ちゃんで、倒したのも桃架ちゃん。駆除の途中でハサミに引っ掛かれ、太ももに怪我を負ってしまった。

 ドクドクと血が流れ、ズボンは赤く滲んでいた。絶対痛いヤツだった。なのに桃架ちゃんはケロリとしていた。シャットアウト出来るとカミングアウトされたのは、その時だ。

 思えばあの子は、俺が「自分は亜人だ」と認識したあの日、理性を失ったお母さんによって暴力を振るわれた際も、辛そうだったけど痛そうではなかった。

 体が削られたとしても、無頓着でいられる。メリットばかりではない。怪我の重大さを認識し辛いというのは、深刻な事態も招き得る。しかし、痛みで判断が鈍る心配がないのは、戦闘において大きなアドバンテージだ。ちなみに巴ちゃんは、少しの怪我でギャーギャー騒ぐ。

 脇腹を一発蹴られたぐらいで、魔法少女は壊れない。

 壁となるのは痛みだけ。そして桃架ちゃんに、その壁は存在しない。

 空中で急停止し、何事もなかったかのように構えた。

 彼女には芯がある。


 美しく、恐ろしい。神秘。超自然性。

 魔法少女。魔の法に則る少女。


 人型エギンの体躯が盛り上がり、桃架ちゃんの瞳はピンクに輝いた。さっきまでは小手調べ。

 本当の戦いはこれから。

 ピンキーラインが、夜空に無茶苦茶な軌跡を描く。

 亜人の視覚で、辛うじて捉えられるスピード。

 桃架ちゃん、速過ぎる。出せと言われたらあのくらいの速さも出せるが、あれだけ精緻な戦闘が出来るかと言われると、まったく自信がない。fpsが足りないぜ。

 桃架ちゃんも桃架ちゃんだけど、あの人型エギンはもっとヤバい。

 もっと速い。

 なんだあいつは。ワンクールの終わりどころか、三話目でいきなりジャ◯クキングが現れるようなものじゃないか。前回までの傾向からして、その登場は、あまりにも非連続的である。人型、頭以外、がいるなんて、リーからは聞いてない。

 あれが脅威度Sってヤツか? だとすると、化け物どもから世界を守るという亜人の責務に対して、難易度の認識をだいぶ上げなくてはならない。軽く見ていました、どこかお遊び気分でしたと、反省しなければいけない。


 ガチらなきゃ。

 拳を握って、立ち上がる。


 ちょうど、桃架ちゃんが戻ってきた。ぶっ飛ばされてきたという表現の方が正しいかもしれない。髪で煙が燻っている。

 桃架ちゃんは、あっけらかんと言った。


「疲れました」


 じゃあ交代だ。桃架ちゃんの猛攻は、あくまで時間稼ぎだ。

 亜人の、本領発揮のための。

 (おれ)の体が、真紅の炎に包まれた。


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