表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アカの亜人  作者: オッコー勝森
第1章 Yellow

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/252

39 人型エギン


 これまでにない軽さだった。

 すなわち、リーの言う「透圧」がものすごく下がった。ふわふわする。足をサッと踏み込むだけで、それだけでどこまでも行けそうだ。自然と浮かないのが不思議なくらい。強制的にハイになる。

 でも。つまりこれって。こんなに軽くなるってことは。


「ねえ昊刃。自分の世界に入らないでよ。いい? クライマックスになったら、私とあなたでキスするんだから。スタンバッときなさい」

「巴ちゃん」「え? もうするの?」

「ヤバい。リーを呼ばなきゃ。いるんだろ? 返事してくれ」

「はいヨ」


 妖精が、巴ちゃんのポーチからニュッと現れた。ずっとそこにいたのか。二人きりのデートじゃなかった事実に憤慨したのだろう、巴ちゃんは真顔でリーの首を絞めにかかる。

 大事に至る前に止めた。


「は、花火の真っ只中ダロ。お邪魔妖精の出る幕じゃないと思うガ」

化け物(エギン)出現の兆候あり」「ナニ?」

「それもとびっきりのが出てきそうだ。脅威度AとかSとか」

「おいオイ。冗談はヨセ。この時期にそんなのが現れるなんて、ワンクールの終わりでもうジャ◯クキングと戦うようなものネ。一年保たんヨ」

「いきなり初代の話を振るなよ。俺はギリギリ生まれてなかったんだから」

「まだ現れていないネ。まだ……ッ!?」


 そこまで言って、リーの表情が強張った。俺の背筋も凍りつく。

 上から圧搾されたかのような錯覚。

 両の肺に(おもり)が吊るされたような心地。合わせて辺りが、闇に呑まれた。すでに驚愕し尽くしていたから、一周回って冷静になる。亜人認定を受けてより、暗視能力は格段に向上していた。人々の様子を眺める。「不発」だった初弾以来、再び困惑し始めていた。

 パニックに陥る者もいる。たちまち恐怖が伝染していく。

 夜空を仰ぐ。目を見開く。

 花火が、上がっていない。

 美しく魅せるための演出として、普段は夜のグラウンドを照らすライトも、今夜は消されている。花火という光源がなくなったら、そりゃ暗くなるはずだ。時計を確認する。終了時刻二十分前。これから中盤に差し掛かるところ。どうして。

 いや、違う。花火は上がっていないのではない。音は鳴り続けている。

 闇と言っても完全ではない。花火の光が、ぼんやりとだけど届いてる。ああ、なるほど。理解した。ここと花火の間に、円形の何かが浮いていて、それが視界を阻害しているのだ。

 気球、か? 首を横に振った。あんな大きかったら浮かない。

 いったいあれは、なんだ?


(ウロ)、ダ」


 隣でリーが、呆然と呟いた。

 真っ黒で、大きな──(ウロ)

 花火師たちも異変に気づいたのだろう。音が止んだ。一層暗くなる。

 息を呑む。俺は、どうすればいい。調べに飛ぶべきか。実体があるのなら、壊すべきなのか、どかすべきなのか。意思疎通が出来るなら、イベントの妨害を叱って、帰ってもらったらいいのかな?

 ハハ。

 迷っている間にも事態は進む。(ウロ)が萎んだ。急速に。

 高度を落とし、グラウンドの真上で止まる。

 溶けた。黒い液体が渦を巻き、ふと収束する。ここからじゃ見え辛いが、ソレは片膝を突いているように思われた。

 ゆっくりと立ち上がる。

 二足歩行。人型の範疇にはあるが、平均的な成人男性の倍以上は大きいし、しかも歪な形をしていた。もう少し近づかないとはっきりとしたことは言えないけども、頭部の形は人とは違って、なんだろう、まるでドリルのようだった。もっと近いのは、伝わらないかもしれないが、ネコザメの卵。硬い殻がグルグルと捻れ、岩に引っかかりやすい形をしている。

 蘊蓄(うんちく)はどうでも良い。

 巴ちゃんは、スマホの望遠鏡機能を使って化け物の観察をしていた。真似をする。

 視界に捉えた。ヤツは両腕を優雅に開く。

 その周囲に、禍々しい形の矢が、無数に展開された。


 ようやく、自分の対応が遅きに失していたことに気づく。

 あいつってやっぱり、エギンだよな? つまりあの矢は、アイテールを奪うための……。


 俺。呑気に野次馬の真似事して、史上最も愚鈍な馬鹿か。のろま。え? ホントに、どうして真っ先に動かなかったんだ? 人に見られるかもしれないなんて、些細な話じゃないか。

 あいつが食事の準備をする前に、あいつに組み付いておかなきゃダメだったろ?

 絶望感に支配される。なあ。

 おい。口が乾く。化け物に向かって手を伸ばす。

 待て。待ってくれ。

 そこには、いるんだ。友達が。鳥矢が、室が、桃架ちゃんが。

 俺の大切な人たちが。

 己の高所恐怖症も忘れ、波動エネルギーで全身を満たし、化け物に飛びついた時には、矢はすでに発射されていた。

 屋台と通路の老若男女たちをザクザクと刺す。位相がこの世界とズレているから、肉体に損傷はない。ただし、肉体と精神を繋ぐパイプに穴を開け、人が「人」であるためには必須な、アイテールを強奪する。

 刺された彼らは、一時的に放心状態に陥って、その後は、飢えた獣が如く周囲を襲う。ここら一帯、一斉にやられたから、きっと喰らい合う羽目になる。

 約束された地獄絵図。

 視界の端に、ぼんやりと虚空を眺める知り合いがいた。クラスメイトの女子。委員長が気になってると言ってた、あの子だ。

 憤怒と悲嘆と、ごちゃ混ぜになった心のままに、拳を振るった。飛びつきの勢いにより、こちらがマウントを取れていたにもかかわらず、いとも簡単に防御された。

 拳が、握り潰されそうになる。

 位相を戻した。すり抜ける。地面を転がり、急いで向き直った。矢が射出される。飛翔して回避した。あれは危険だ。「この世界」にいたらアイテールを奪われるし、かと言って「少しズレた世界」にいたら普通に刺さる。そして出血多量で死ぬ。

 矢の攻撃は止まらない。無尽蔵かよ。これまでのエギンにも弾幕を張ってくるヤツはいたけど、息切れは早かったぞ。距離を取るべき? しかしそれでは被害が拡大する。

 矢の当たらなかった人たちは皆、逃げている途中だろう。幅を取って戦えるのは、避難が完了した後。だとすると、俺が選ぶべき戦略は、「インファイトを仕掛けてヤツの注意を引き、矢を放つ隙を与えない」か?

 先ほど潰されそうになった右手が、ヒリヒリと痛む。

 人型のエギンを睨みつけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ