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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第1章 Yellow

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37 夏祭り前


 結局、祭りは巴ちゃんと回ることにした。

 聞いてくれ。なかったんだ、選択の余地ってヤツが。アパートで暮らす上でのルールを説明しに巴ちゃんの部屋へと向かったら、彼女はペースト状の下剤を調合していたのだ。どうも、俺と祭りを回る予定だったグループのメンバーにこっそり侵入し、食器に下剤を塗りたくるつもりだったらしい。

 ショッキング、などとギャグを言っている場合ではない。極悪非道だ。ターゲットだけでなく、その家族にまで害が及ぶ。はっきり認めさせてもらうと、巴ちゃんは頭がおかしい。

 有体に表現すれば、ブレーキが壊れている。委員長の言葉を借りると、人が『人』であるためのルールを軽く飛び越えられる精神性を持っている。

 危険人物だ。言うことを聞かないと、何をするか分からない。

 申し訳なく感じながら、非リア男子グループに同行不可能な旨を伝える。ただならぬ気配を感じたか、少なくとも文面上では愛想良く残念がってくれた。

 はあ。テロリズムに屈した気分だ。


「脅しが通用すると分かれば、あの手合いはバンバン脅迫してくるヨ。だからテロリストの要求を飲んではいけないネ」

「しかし、飲まなかった場合、大切な友人たちが被害を受ける羽目になる」

「そうやってズルズルとトモエの言いなりになって、めでたく結婚まで追い込まれるがヨロシ。マリッジブルーならぬブルーマリッジネ。ハハ」

「笑い事じゃねえ。こうなったら、一刻も早く白西の理性を取り戻し、俺と彼女のイチャラブを見せつけて諦めてもらわねば」

「シロニシが追い払われるだけネ。殺されるカモ」「ふう。それな」


 そもそも、白西が俺の愛を受け入れてくれるとは限らない。その場合、俺は強制的に巴ちゃんとマッチングさせられるのだろう。実の所、こうやって贅沢に悩んではいるものの、巴ちゃん単体なら全然嫌いじゃないし、好かれて光栄だとすら思っている。ホントだよ。一生独り身でいるよりかはずっとマシだ。

 だが。仮に、白西が色良き返事を返してくれたとしよう。この場合でも、巴ちゃんが大人しく引き下がってくれるとは思えない。しかし俺は、白西を諦めたくない。彼女とのSNSのやり取りなら、ニヤニヤしながら一日中眺められる。

 どうするか。ピンと来た。


「二又して、『ソラハーレム』を築くしかない……?」

「結構サイアクなこと言ってる自覚あるカ?」

事実上の(・・・・)配偶関係も社会的に認められつつある。すでにスウェーデンやフランスなどでは、婚外子に対しての社会的支援が充実している。そういう法案が成立してもおかしくないと思わないか? なろう時空の日本なら」

「メタ発言ヤメロ」

「ソラハーレムを作るなら、私も入れてもらえませんか!?」

「あ、桃架ちゃん。浴衣可愛いね。え?」「冗談です」


 いつの間に部屋に入ってきたのか、桃架ちゃんがすぐ後ろにいた。ばっちりおめかししている。俺もおしゃれな甚平を用意した。巴ちゃんとお揃いのアラベスク模様だ。気を利かせて選んだのではなく、指定された。

 もはや制服。

 が、まだ着替えてない。私服だ。祭りまでは二時間もある。


「早めに出ないと、青クズと遭遇するかもしれないので」

「すっかり青クズが定着したね。ねえ。仲良くしてもらえない、かなあ?」

「嫌です。想像するだけで鳥肌が立ってしまいそうです」

「そうかあ。えっと、桃架ちゃんは学校の友達と一緒に回るんだっけ?」

「はい! 十人ぐらいの団体で、輪投げ・金魚掬い・射的などなど、みんなで一斉にやって品を狩り尽くします!」


 ハゲタカの群れ?

 巴ちゃんが在籍していることといい、浜世椎奈も通っていたことといい、美國中学校の治安が心配になってきた。案外どこもそんなものなのだろうか。

 桃架ちゃんがニコッと笑う。俺も笑い返した。かわいいね。


「祭りの楽しみはゲームだけじゃない。味の濃い焼きそばとか甘ったるいりんご飴とかもある。お小遣いを上げるから、いっぱい食べるといいよ」

「良いんですか!? 五千円もっ」

「心配するな。管理人のヤローから毟り取ってやった金だから」

「えっ? 管理人って、お兄さんになったんじゃなかったんですか?」


 めちゃくちゃびっくりする桃架ちゃん。


「だって、このアパートで新規入居者案内やトラブル対応してるの、最近はいつもお兄さんじゃないですか。高校生管理人さんかと」

「漫画じゃないんだし。でもそうなんだよ。他にも、役所に電気ガス水道その他諸々会社との連絡もすべて俺がやっている。家賃の管理もな。しかし代行なんだ。ほぼボランティアの。ちょっとくらい金をもらっても良いだろ」

「お人好しですねぇ。そんなんだから青クズなんかに付け込まれるんですよ。あ、虫除けスプレー切れてましたよね?」

「あちゃあ。買いに行くの忘れてたな。今から薬局に行けば間に合うか」

「その、お世話になってるお礼として、差し上げます。これがお兄さん用」

「ありがとう。ん? 俺用って? あ、お母さんにも買ってあげたとか」

「こっちを水晴巴に使ってください」


 ア◯スジェット。

 二度見した。まあ、アパートの掃除中とか、たまに出ることあるし。


「じゃあ、そろそろ行ってきます」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

「はい。あっと、これも聞いておかないと。体、軽くないですよね?」

「うん」「良かった。では」


 桃架ちゃんと別れて一時間半後、巴ちゃんがやってきた。おめかしは浴衣だけだった。化粧っけはほとんどない。この子の場合、自分が素で可愛いことを理解しているからか。そういう所でも地味に反感を買ってそう。

 さて、レッツゴーだ。祭りが開催されるベースボールグラウンドの方角へ。こうなったらもう、問題児でも問題なくエスコート出来ると示し、人を導く素質についてのエピソードとして昇華して、就活市場で無双してやるぜ。


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