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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第1章 Yellow

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36 ルール


「なるほど。祭りの途中で青クズを毒殺すれば良いんですね! お兄さん」

「違うよ?」


 夏祭りデートの約束はうやむやにして、一先ず巴ちゃんと別れた。返す足で隣室、つまり富良野宅を訪ね、桃架ちゃんと相談する。相談したら、間髪入れずに毒殺が提案されたというわけ。

 我が職場の人間関係はホント微笑ましい。

 笑うことこそ救い。

 それにしても青クズちゃんは、すぐキレるわ恨みを書いまくってるわで、天寿を全う出来るイメージが毛ほども湧かない。乙女ゲームだったらあの子、主人公ヒロインに敗北したのち、第一皇子辺りに処刑される悪役令嬢だもん。取り巻きとかいないけど。

 手を差し伸べると決めた以上、最後まで面倒を見ないといけない。悪役令嬢のいじわる執事に転生すれば、似たような状況を味わえるのだろうか。


「性格激ヤバモンスターが意中の相手にアプローチして必死に振り向いてもらおうとするの、普通にギャグシーンじゃないですか?」

「人生の先輩として、ギャグだと流したくはない。真剣に向き合おうとはしてるよ? でもあの子の場合、それどころじゃないんだ とりあえず、マウンティング癖は社会に負の効果を持つからやめさせないと」

「マウンティング・ミハル・ゴリラ・トモエ」

「やめて。笑っちゃいけないのに、なんかストレートに面白い」


「話変わるんですけど。魔法少女への変身について」


 声の調子が、青クズ絶拒モードから悩む少女のものに転じる。

 頭を切り替えた。夏祭りで巴プリンセスをどう接待すれば良いのか、という俺の悩みはまったく解決されていないが、相談内容は今後に関わる重要事項だ。


「なんというか、力を使うコツが掴めてきた気がするんです。なので、お兄さん。私に変身するよう念じてもらえませんか?」

「了解だ桃架ちゃん。伝説の戦士プ◯キュアに願ってみる」

「あの、架空のキャラに願われても」


 架空のキャラとか言うなよ。かつてこの世界にもいたかもしれないだろ。亜人も妖精も、魔法少女もいるんだから。


「ん〜〜……っ!」


 力む桃架ちゃん。居心地が悪くなって、目を逸らす。

 すぐに視線を戻した。


「見てくださいお兄さん! 袖が! あとスカートが!」


 先にフリルが付き、仄かにピンク色になった。元が部屋着なので、アンバランスさがすごい。

 戻るのだろうか。


「うーん。あと少しって気はするんですけど」

「強くなった感じはある?」

「それは……はい! 床くらい踏み抜けますよ!」「踏み抜かないでね」

「強いエギンでも倒せそうです! 水晴が巨人になっても大丈夫です!」


 頼もしい。ついでに言っておくと、巴巨人の正体は巴ちゃんじゃないから。

 出現する化け物は、時間の経過とともにどんどん強くなっていく。戦力強化は安心材料だ。ただ、いよいよ桃架ちゃんも変身出来るようになるとなれば、考えなきゃいけない問題が一つある。

 俺が側にいないと変身出来ない点。

 通話やSNSではダメだった。ビデオありでも。こちらがあちらを直接視認する必要があるらしい。しかし、俺が二人と同時に顔を合わせるのは、週一の定例ミーティングの時のみ。

 集まらないのは、ご存知、仲の悪さがネックだ。やるべきはなかよし大作戦、なのか?

 これがなんと、作戦開始前から破綻してるんだよな。だって、顔を合わせる度に無条件で仲悪くなっていってるし。

 悩みが時間に比例して増えていく。


「はあ」「悪いね。手伝ってもらっちゃって」

「ああ、この溜息はめんどくさいとかじゃなくて。ノープロブレムだぜ、委員長。頼ってくれて嬉しいくらいだよ」


 夏祭り五日前になった。自治体を通じて貸し出されたイベントテントの一部が、高校の体育館で一時的に保管される。その管理業務の手伝いを、クラス委員長に頼まれた。病院クラゲ事件翌日の朝に話してから、友達と言える間柄になった。

 目の前の黄色いテント布について、どの団体に貸し出すかチェックし、出し物の内容とマッチしているかどうかも確かめる。

 チョコバナナか。


「なんだか字体が卑猥だ」「そう? まあ、そうかも」

「チョコバナナかあ。バナナにスティックを刺して、溶かしたミルクチョコレートとカラースプレーをかけて三百円ぐらいで売るのかな」

「え? カラースプレー?」

「塗装用のじゃなくてさ。細長くて粒状なトッピング用のチョコレート」

「ああ、あれか。バンクシーを連想しちゃったよ。一時期アレに憧れてて」

「意外だな。壁にシューッて、シュレティンガーの方程式とか書くの?」

「アウトローと知識人を同時に気取っているところが最高に嫌味だね。真っ先に通報されそう。他のバンクシーから。……僕は、真面目過ぎるきらいがあるだろう? だからこそ、ああいう自由な人たちに惹かれてしまうんだよ」

「身勝手な連中と表現した方が正しそうだけど」


 隣のテント布に移る。かき氷。至って普通のデザイン。

 だがそれがいい。


「人はルールを守ることで、人を『人』たらしめる何かを守っている。だとすると、ルールを破ることは、その何かを破って、そして、『人』でない何かに片足を突っ込もうと試みることの暗示なのではないか。休み期間に独りでいると、つい考えちゃうんだ。『自分』じゃない何かに変身する一番の近道は、ルールを破ること。僕の変身願望は、それで満たされるんじゃないかって」

「近道かもしれないけど、急峻な崖を横に突っ切るようなものだぜ」

「落ちるだろうね。真っ逆さまに」

「とりあえずは自己ルールを緩めて、新しい自分を発見してみると言うのは?」

「たとえば、恋人がいる自分とか?」


 いいねと頷く。意中の相手を尋ねてみると、委員長のお目の高さに驚いた。俺の知る中で、誰よりも和を尊ぶ子だ。誰よりも悪目立ちしない、天才的中立者。

 バランス感覚が桁違いなんだろう。桃架ちゃんと巴ちゃんとの仲をまったく取り持てていない身としては、とても羨ましい。

 委員長が、揶揄うように言ってくる。


「恋人と言えばだけれど。白西さんを放って、祭りで彼女いないグループと合流すると言うのは、いったいどういう了見なんだい? 少なくない女子が、君を虎視眈々と狙っているぞ。場の均衡を乱す選択は謹んでいただきたいね」

「いやあ。そのお。少し込み入った事情がありまして」

「……青い髪の少女から付き纏われているよね、最近。何か関係ある?」


 え? 訝しむ。「付き纏われている」と言うのは適切ではない。亜人の眷属として適性が高いから、こっちが我が社にスカウトしたのだ。

 などと正直に説明するわけにはいかない。悪いけど、委員長とは、室や鳥矢ほど親交度は高くない。カモフラージュ用の話をする。


「彼女の保護者が亡くなって、表向きは児童保護施設が面倒を見ることになった。だから、兄貴分として世話を焼いてるのさ。独身貴公子どもと回るのは、単に気楽そうだからだよ。白西と回らない理由は、内緒で」

「あー。一応納得はした。でもその青髪の子、すぐキレて怒鳴るわ高慢ちきだわと、あまりいい噂を聞かないから」


 巴ちゃん、近所で有名な悪童なのかよ。

 アウトローな知識人(本物)になりそう。

 テント布のチェックを終えた。取り違えらしき問題を一件見つけたため、電話で自治体に報告しておく。

 帰り際、お疲れ様と言い合って別れようとした時、ふと気になって、振り返る。

 先ほどした、ルールについての会話に関わる質問。


「なあ。ルールを守ることで、人は『人』を守ると言ったよな」

「? ああ。うん」

「ルールを破ってないのに『人』を破ることについて、委員長はどう思う?」

「それは」


 彼は短く答えた。


「理想だね」


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