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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第1章 Yellow

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35 引っ越しの手伝い


「しつこいねえ。マスコミってヤツは」


 すでに何度目かも分からない主張をコピペする。「おととい来やがれFxxk you!」と打ち込みたくなる気持ちを、仏であろうとする心で我慢しつつ、取材お断りのメールをテレビ局に送った。

 帰ってきてから五日経つ。日本の長い夏休みはまだ終わっていない。最近は短くなった学校も多いようだけど、ウチの学校はきっちり八月三十一日まで休み期間だ。課題も終わったし、先ほどアパートの掃除もしたから、やるべきことはFXの勉強ぐらい。飽きてきたので暇だ。

 だからと言って、マスコミのメールに対応するのは怠い。そして虚しい。


「突然の高波の後、巨人は現れた。恐怖に震えてコテージに篭っていた。気づけばいなくなっていた。不安だから旅行を切り上げた。普通の高校生としては別段おかしくない証言だろ。何か隠してると疑ってるのか。勘が良いな。嫌になる」

「メールなんか、無視すれば良いネ」

「そうもいかないな。いいか? 報道用ヘリが一機撃墜されている。報道関係者に死人が出てる。『仇討ち』という有利なストーリーがあって、故にマスコミによる目撃者への執拗なコンタクトにも、世論から一定の支持が得られると予測される。法的にグレーでもな。だからこちらは、要請には真摯に対応し、正当な理由で取材をお断りしたというポーズを示しておくべきと考える」

「なるほど、ソラハらしいネ」


 頬杖を突く。窓際で、白西がフラフラ揺れていた。可愛い。

 リモコンに手を伸ばす。昼のバラエティ番組で、馴染みの芸人たちがバカをやって笑いを取っていた。

 溜息を吐く。


「古のテレビ番組は、我こそはと思う原石が、実績を積むためのフロンティアだった。だが今や、テレビに映るのに実績が必要となった。マスコミは大衆(マス)でなく、宝石、つまりバズったインフルエンサーにしか目を向けなくなって、原石発掘への熱意はほぼ失われつつある。結果、テレビはその役割の過半を消失してしまったのだ」

「よくもまあ、それだけベラベラ語れるものダナ。昔は記者かアナウンサーでも目指してたノカ?」

「白西が一時期、女子アナになるとかほざいていたものだから」


 スマホが鳴った。メッセージを見る。マスコミからではない。下に降りて、アパート前に停まっていた引っ越し屋さんのトラックに応対した。彼らを手伝い、空き部屋に荷物を運び入れる。

 作業が終わり、トラックが帰っていったのと同時に、新規入居美少女が顔を出した。彼女の部屋に案内する。


「汗だくね。ご苦労様」「巴ちゃん。このくらいはお安い御用さ」


 エアコンは備え付けだ。電源を点け、25度に設定する。

 椅子に座る巴ちゃんの横で、ダンボールのテープを剥がす。難しそうな数学書と、お人形さんが詰まっていた。お人形さんは可愛いね。

 取り出していく。巴ちゃんは、黙って椅子に座ったまま。


「巴ちゃん。ちょっとで良いから手伝ってくれると嬉しいんだけどなぁ」

「え? 分かったわ。昊刃が言うなら」

「人生の先輩として一応指南しておくと、こういうのは自発的に動くべきなんじゃないかな。仮にも自分の荷物なんだから。俺じゃなくて桃架ちゃんが言ったとしても、ちゃんと手伝った方が良いと思うんだよ」

「なんで? あいつは格下だから、馬車馬のように扱き使っても良いのよ」


 本人が聞いたら発狂しそうな持論だ。「何かの拍子に器物損壊しそうだから」と、桃架ちゃんが手伝いを断ったのも頷ける。


「昊刃の隣部屋に住みたいわ。富良野を追い出せないの?」

「追い出さないから。同じ階というだけで我慢して」

「なんなら、お、同じ部屋でも……やっぱなし! まだ早いわ!」

「そうだね。早いね」

「そうだわ。反対隣の奴に嫌がらせして退去させれば良いのよ」


 なんでそういう発想になるんだろう。内心で頭を抱える。俺がお世話になっていた、児童養育施設の施設長、落合先生に、巴ちゃんの住居について相談した時からずっと、ご近所トラブルを起こさないかが心配だった。


「ふふん。冗談よ。安心なさい。私は礼儀を弁える女よ。ちゃんとご挨拶用の菓子折りも持ってきたんだから。さあ投函してくわよ。キ◯トカットを」

「男子校のバレンタイン企画?」


 確かに真ん中で折れるけども、菓子折りのチョイスとしてはいただけない。この暑さじゃ溶けちゃわない? すでに溶けちゃってるんじゃない? 挨拶の品は、後で俺の方から用意しておこう。必要経費だと割り切る。

 飯のランクがまた下がりそうだ。

 インテリアのプランを途中で三回ほど組み直したから、それほど荷物は多くなかったにもかかわらず、かなり時間がかかった。気づけば夕方になってしまっていた。

 最後のダンボール箱を開ける。

 浴衣が入っていた。アラベスク模様。青とは珍しい。


「いいね。巴ちゃんに似合いそう」

「でしょ? えっと、一週間後に夏祭りがあるじゃない。一緒に行かない? その、二人きりで……」

「いや、男友達誘って行くけど」「なんですって」


 ショックで固まる巴ちゃん。もし白西の理性がちゃんと機能していたら、鳥矢と室も合わせて四人で祭りを回っていた可能性が高い。でも白西はあんな感じになってしまったし、ならば俺と鳥矢は彼女いない同盟と、室は彼氏いない同盟に合流して、別で回った方が良いかという結論に至ったのだ。

 ちなみに、リーが施してくれた幻影術のおかげで、白西の人間性喪失は学校で認知されていない。そのせいで、白西(思い人)を誘わず非リアグループに入ってお茶を濁そうとしている俺は、クラスメイトからチキン呼ばわりされている。

 このままだと、額に「タンドリーチキン・ファイナル」と書いて、祭りを回る羽目になるかもしれない。


「じゃあ、えっと、私とこっそり抜け出して、花火を見に行きましょう! この間、あの黄色いのと待ち合わせした空き地とか、穴場じゃない?」

「そうだね。俺の土手っ腹に穴が開いた場所だ」

「お願い。私だけをエスコートして!」

「友達付き合いも大事なんだよ。分かってくれ」

「眷属とのコミュニケーションの方が重要でしょご主人様! 連れて行ってくれないと、祭りのど真ん中で昊刃の名を叫びながら駄々をこねるわよ!」


 それはあれだな。めちゃくちゃ困るな。

 どうしよう。


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