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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第1章 Yellow

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27 合体吸収


 巴ちゃん、さすがの鋭さ。飛び級制度があったなら、俺と同学年、あるいは先輩になっていてもおかしくない子だ。もしホントに飛び級したら、世代の異なる同級生に囲まれて、もちろん友達はいないんだろうな。かわいそうに。


「友達なんていらないわ。大事な人が一人いれば。私には、昊刃だけでいい」

「重いよ、重い。でも大事にしてね」「状況は?」

「悪いの一言。飛べたりはしないっぽいけど、位相ズラしを使える」

「なるほど。あ、だから手を引き抜けてなかったのね。厄介だわ」

「どうすればいいと思う?」

「時間切れ狙いはどう? 昊刃だって、波動エネルギーとやらの放出を、ずっとは続けられないのでしょう?」

「ああ。一時間も飛び続けてたらガス欠になる。でもすぐ回復するよ」


 波動エネルギーとは、肉体と魂におけるアイテールの循環過程で生じる摩擦熱(・・・)のような何かを材料にして、亜人の赤玉が生み出すもの。リーが言ってた。

 摩擦熱自体は誰にでも生み出せるが、普通の人間には赤玉がないから利用出来ず、ただ放散するだけになってしまうらしい。

 化け物(エギン)に奪われない限り、アイテールはいつも巡っている。そうである以上、エネルギーの補充に時間はかからない。


「今のデカ巴ちゃんみたいな、上空の俺たちを睨みつけるだけで極力動かない省エネ状態だったら、即座に充填可能だよ」

「そうだったの? 知らなかったわ。じゃあ……おばさんにやったみたいに、肉体と魂を繋ぐパイプに潜り込んで。それで、アイテールの流れを断ち切れたりしない? 一時的にでも」

「ああ、なるほど。キツそうだけど、試してみる価値は──」

「ないネ」


 背後から、妖精の声。ビビりながら振り向く。いきなり後ろに立たないで欲しい。

 立ってない、浮いていると言われたら返す言葉もないが。


「あの時は、トモエのおばさんが人間だったから成功したネ。違う生物が相手だったら、精神構造の違いに対応出来ないし、最悪発狂死ヨ。過去に実例もあるヨ」

「嘘だろ? ひえぇ」

「そもそもあの怪物が、肉体と魂があって、その間をアイテールが巡っているような、健全な生物に見えるノカ?」

「見えないなぁ」

「力押ししかないってわけ? 昊刃が隙を作ってくれるなら、マジックポイントを振り絞って必殺技を叩き込めるけれど」

「えっと、『オーバードーズ』とか『カルテ改竄』とか? 今更だけどさ、名前変えられないの? ナース服の魔法少女が使っていい技じゃないと思う」

「しょうがないじゃない。技を出す時、自然と口を突くのよ。で、どうなの?」

「やめておくが吉ネ。まだその時じゃないヨ。少し見回ってきたが、どうやら他の場所でも、ヤツらの同類が現れているネ」「なんだって?」


 眉を跳ね上げた。

 現時点での巴ちゃんは、決め技を使うと変身が解ける。伸び代があって大変よろしい。

 他にも元鈍色バブルたちがいるのであれば、巴ちゃんはまだ生身に戻るべきじゃない。


「白西たちは?」「コテージの中ネ。まだ見つかってないハズ」

「でも、急がないと。桃架ちゃんに波動エネルギーを纏わせておけば。こんな所で足止め食らってたらダメだ。だからと言って、放置するわけにも……」

「考えがアル。トモエ、小技の『ヒヤリ・ハット』で注意を分散さセロ」

「え? わ、分かったわ」

「ソラハ。耳を貸せ」


 作戦を耳打ちされる。どうして思いつかなかったのかと自分を問い詰めたくなるくらい、シンプルかつ効果的なものだった。

 しかし。いや。


「早く行ケ」「……この鬼妖精がっ」


 悪態を吐いてから、再び地面に潜む。そして待つ。

 機が熟すまで。赤玉のエネルギー保有量が、十分に回復するまで。

 巴ちゃんの「ヒヤリ・ハット」は、相手の思考力を刹那の間だけ低下させ、重大な事故に繋がりかねないミスを誘発させる技だ。なかなかに恐ろしい。数学のテスト中にやられたら。などと益体もないことを考え、実行の直前まで作戦内容を忘れようとするも、全然上手くいかない。

 赤玉が汗でベタつく。喉が渇く。畜生め。

 しかし有効なのだ。やるしかない。やれ、俺。


 覚悟を決める。


 地面の上に出た。デカ巴ちゃんにかますは、豪快なラ◯ダーキック。体勢を崩させはしたものの、やはり突き刺さるだけで終わる。ファーストステップは。

 本番はここからだ。デカ巴ちゃんに、目一杯の波動エネルギーを注入する。

 突き刺さった俺とともに、巨体はふわりと浮いた。

 天空へと急上昇。心臓が恐怖でバクバクとなる。もう無理、これ以上は進めないという位置で止まった。高度がどのくらいかは、分からない。少なくとも、富士山よりは高い場所にいるのではなかろうか。

 自分の仕事を過大に評価してしまうバイアスがかかってるのかもしれない。

 キリスト教徒ではないけど、呟く。


「アーメン」


 重力に従って、落ちる。

 加速、超加速を経て、ドンと地面にぶつかった。デカ巴ちゃんは大地を透過出来ないという読みは、やはり当たったようだった。この世界の衝撃は、位相をズラした世界にいる俺をすり抜ける。物理的ダメージはない。

 ものすごく怖かったけど。

 デカ巴ちゃんが、端からドロドロ溶けていく。本物はそれを、微妙な表情で眺めていた。自身を表す「ドロ巴ちゃん」との被りを気にしているのかもしれない。


「行こうか。残りも殲滅しないと」

「ええ。富良野はこの機に死んでくれてもいいんだけれど」


 同僚に対するきつい本音をスルーして、その場を後にしようとした。

 美しいソプラノの声が、泥だらけになった森に響き渡る。

 振り返った。四肢を溶かしたデカ巴ちゃんが、虚空に向かって哭いている。

 意図が掴めず、呆然と立ち尽くした。耳が異音を拾う。音はどんどん大きくなっていく。たくさんの何かが、こちらに近づいている。


「まさカ」


 リーが呻くのと同時に、鈍色の木が、岩が、虫が、鳥が、魚が、家などその他諸々が、凄まじい勢いで走ってきた。巴ちゃんの手を掴み、慌てて飛び退く。

 ヤツらは消え行くデカ巴ちゃんに抱きつき、吸収された。巨体は復活し、元よりさらにデカくなる。乾いた笑いが頬に浮かんだ。

 マジかよ。

 デカ巴ちゃんでは迫力不足。巴巨人と呼ばせていただく。

 巴巨人はグラリと立ち上がり、俺たちを見下ろした。


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