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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第1章 Yellow

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17 ナイフ


 刺さったナイフが、捻られた。

 痛くて熱い。浜世椎奈に刺された。黄髪の革命志士にやられた。革命志士を名乗ったことから、浜世と言えば刃傷沙汰と連想してもおかしくなかったかもしれないけど、しかしまったくの想定外だった。

 平和のぬるま湯に浸かっていた代償か。いや。誰が想像出来る。

 誰が警戒出来る。どうして。

 立っていられない。浜世に向かって倒れ込む。

 抱き止められた。彼女の体幹は、微動もしなかった。


「ごめんね、お兄さん。左手だけ手袋の厨二病お兄さん」

「どう、して……」

「恨みはないんだよ。でも亜人は殺さ(・・・・・)なきゃいけない(・・・・・・・)本家に勘付かれる前に(・・・・・・・・・・)


 脳が一瞬、音の理解を拒んだ。

 やがて瞠目する。なんだって? 殺す? この子は今「亜人」と言って、そしてそいつを殺さなきゃいけないとも言った。

 確信犯だ。膝から力が抜けた。額がぶつかり合う。


「うふふ。近いなあ」「…………」

「せめてものお詫びに、私のファーストキスを上げよう。んー」

「かはっ」


 特に意図はなかったが、血反吐をぶち撒けてしまった。意識はだいぶ濁ってきている。お情けみたいなキスはごめんだとか、そういう強い思いは持てそうもなかった。まあ、気管はナイスなタイミングで仕事をしてくれた。

 少女は血をペロリと舐めた。唇を尖らせる。


「うーあーあ。赤い。赤。そうだ、血って赤いんだった。とはいえ、お兄さんの左手には、血よりも赤い呪われた宝玉が埋め込まれている。そうだろう?」


 答える気力すら残っていない。視界がぼやける。


「最期に、手袋を外して見せてくれ────うきょ?」


 冥土の土産に持っていけそうな、面白い間抜け声だった。

 遅れて衝撃が伝わる。浜世が殴られたのだ。転がる彼女に釣られて共倒れになるところを、桃架ちゃんに支えられた。


「大丈夫ですかお兄さん!」

「傷に響くぜ……」「ごめんなさい!」


 謝られた。地面に寝かせられる。少し楽になった。

 浜世が殴られた。つまり、誰かが浜世を殴ったということだ。刺される前までのやり取りから、真っ先に巴ちゃんを思い浮かべた。

 ああ。拳の使い手は彼女か。視界の端には、固まったまま動けない彼女が映っていた。

 は? つまり、力一杯に浜世を殴った桃架ちゃんが、技後硬直に陥いることなく、返す体で優しく俺を受け止めたということか?

 どんな身のこなしだ。あり得ないだろ。しかし、驚愕に溢れる浜世の視線が、今起きた出来事を雄弁に語ってくれている。


「富良野氏……?」「あなたなんか、庇わなきゃ良かったよ」

「へえ。その節はどうも。でも不思議だ。動機は?」「さあ……」


 首を後ろに傾け、こちらに一瞥をくれる桃架ちゃん。

 悪戯っぽく微笑んだ。


「陰湿で高慢ちきな根暗女が嫌いだったから?」

「はっはあ! そんな奴がいるのなら、もう転校した方がいいな!」

「うん。そうだね。二人まとめて(・・・・・・)、少年院に」

「──面白くない冗談だ」


 正論返し。司法には詳しくないが、正当な理由なく人を刺した未成年者に、更生の機会が一切与えられないとは考えにくい。ただでさえ危険思想の持ち主だ。場合によっては、収容それ自体が目的の少年院に連れて行かれても不思議じゃない。


「私の新しい進学先は、邪馬台国(・・・・)の学校だ」


 しかしその処置は、彼女にとって歓迎しがたいもののようだった。

 浜世椎奈は捨て台詞を残して、脱兎の如く逃げ出す。


「っ!? 待て! 卑怯者!」


 追いかける桃架ちゃん。制止する隙もなかった。出来る元気もなかったが。

 あの子、どうしちまったんだ。様子がおかしい。アパートですれ違った時、いつも明るい挨拶をくれる、天真爛漫な女の子はどこに行った? 個人の多面性を否定する気はないが、戸惑ってしまうのは仕方ないだろう。あと、魔法少女に覚醒した様子はないのに、あの凄まじい動きは、なんだ。

 ズキリと痛みが走る。傷口はまだ熱い。ナイフの下辺りを押さえつける。自分の汚い血でネットリしていた。しかし、あれ? と疑問を持つ。

 捻られたにしては、出血量が少なくないか?

 リーが耳元に立った。


「トモエを変身さセロ。あいつの衣装はナースのそれネ。治癒系の能力を有している可能性が高いヨ」

「ああ……」「え、え?」

「トモエ、ボサッとするナ! 自分への攻撃にはすぐ反抗するのに、他人だったら震えるだけかヨ? キミは、クズで臆病者と謗られても仕方ないネ」

「そんな、酷い。酷いわ。面と向かって人に悪口を言えるなんて、この悪魔」

「このメンヘラ。さっさと仕事するネ。ソラハを助けロ」

「私、魔法少女なんだから、もっと大事に扱ってくれてもいいじゃない!」


 巴ちゃんは逆に、もっと大人びた子だと思っていた。第一印象の頼りなさを痛感しつつ、彼女を変身させる。

 恐る恐ると屈んで、俺の傷を診た。刺さったナイフを目の当たりにして、髪どころか顔まで青くする。冷や汗を流し、息を荒くする。強いプレッシャーを感じているのだろう、俺なんかを助けるために。


「どう、どうすればいいの? ああ、深い傷。昊刃が死んじゃうわ。それは嫌。クズで、臆病で、ごめんなさい。ねえ、でもいったい、何をすれば」


 落ち着け、大丈夫だから、可能な範囲で頑張ってくれればいいよと声をかけてやりたかった。けど、巴ちゃんの不安定な心の波に付き合う余裕はない。

 メッセージには、タイトな文字制限がある。


「こう見えても、本当に、(あなた)には忠誠を誓ったつもりなのよ。依存とかじゃ、なくて。もっと。これは。純粋な」

「高所……」「……え?」「青い、光」

「でも、あれには、痛苦を和らげる効果しか」「それでいい」


 少し逡巡して、強く頷いた。

 彼女の力が患部を撫でる。効果は期待以上で、痛みはほぼ消えた。思考がクリアになっていく。左手の赤玉から波動を放出し、体からナイフをすり抜けさせた。地面にカランと落ちる。


「ちょっと!? 溢れてくるわよ、腸とか」

「やはり。致命傷は避けられている。もちろん、擦り傷とかと比べられると重いけど。無意識に亜人の能力を使ったらしい。体はびっくりしちまってたが、巴ちゃんのおかげで回り始めた」

「そうは言っても、血を吐いてたでしょうが」

「内臓の損傷も、少しはあるのかな」

「少しでもあったらまずいわよ! 急いで病院に」

「大丈夫だ。自分でも信じられない。ハイになってるだけかも。違うな、本当に大丈夫なんだ」

「嘘でしょ……」

「それに、クラゲが暴れたのは昨日だぞ。まだ機能してないだろ、病院も」


 昨日と機能を掛けた。しょうもないネタを仕込める。正常に戻れた証だ。

 立ち上がる。少しフラつくけど、問題ない。


「帰って安静にする必要はあるかな。休校になって良かった。撤収だ。桃架ちゃんも一緒に。二人で肩を貸してくれ。リーは認識阻害を」

「病み上がりに悪いが、ソラハ。もう少し働いてクレ」


 労働基準法どころか、刑法に抵触しそうな提案だった。

 非情な妖精はこう続ける。


「少しでも情報が欲しいネ。あの女……シイナを捕獲すべきヨ」


動画配信サービスなどで、十秒飛ばしや早送りの頻度が増えているようです。

『▷||の魔法少女』という作品に、Y◯uTubeの動画に慣れ過ぎて朝のニュースが止まって見える子を出したことを思い出しました。

早く、嫌なことの早送り機能が人生に付くと良いですね。

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