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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第1章 Yellow

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15 いがみ合い


「断固として勧誘すべきではないと思うのだけれど」


 浜世椎奈を眷属として仲間にすべきか。

 俺の質問に、頬杖を突きながら、巴ちゃんは心底嫌そうに拒絶した。


「理由は、言うまでもないわよね?」

「分かるよ。巴ちゃんの気持ちは。すっごくよく分かる。本音を言えば、俺だってあの子に関わりたくない」

「じゃあこの話は終わりね。私のターンよ。昊刃たちの活動について、聞きたいことは山ほどあるの。あなたが特別な力を持っていることと、昨日の化け物が他にもいて、そいつらをぶっ殺そうとしていること以外、私は何も知らないわ。憶測だけなら出来るけれどね」

「説明の時間は後で取るから。そう簡単に終わらせないでくれ。二日前に会った限りでの印象だが、浜世椎奈は高い運動能力を持っているし、それにカンも鋭そうだった。手袋越しに、赤玉の不思議な力を察知したくらいだ。おかしな性格に目を瞑ってでも、彼女を誘う価値はあるんじゃないか」

「はっ。どうだか」


 肩を竦めて吐き捨てる巴ちゃん。この子は賢い。革命志士を名乗って過激な思想を口走る女子中学生の異端さが、きっとよく理解出来ているのだろう。説得は難しそうだ。

 どうしよう。やっぱり他を当たった方がいいのかな。アテはないけど。


「何よ。富良野さん」


 顔を上げた。桃架ちゃんがムッと眉を曲げ、巴ちゃんを睨みつけている。


「別に。ただその偉そうな物言いと態度が、お兄さんに失礼なんじゃないのかなと思っただけだよ」

「はあ? 少し話したら分かるでしょ。昊刃は序列関係を望む人間じゃないわ。まあ、昊刃さんが敬意と敬語を望まれると仰られるなら、より丁寧に接待して差し上げても構いませんけれども」

「なんだろう。高い壁を感じるし、逆に巴ちゃんがその壁の上に乗って俺を見下してるような気さえするよ。まるで『貴様』のニュアンスだ」


 尊敬に尊敬を重ねると無礼になる。


「桃架ちゃんも、俺への接し方は気にしなくていいからね」

「えっと、うん」

「まあ、浜世がダメなら、別の候補を見繕う必要があるのは確かね。芸能人だと、地毛が色付きだと公表している奴らも結構いるわよ」

「どうやってコンタクトを取るんだよ。よしんば眷属に誘えたとしても、彼女らには守るべき地位と生活がある。化け物の出現に即応出来るほど自由じゃない」

「だから浜世を仲間にすると? 冗談じゃないわ。あんな脳泥女を抱え込むくらいなら、マネキンに魔法少女のコスプレさせて飾っといた方がマシよ!」


 脳泥女って。ホントに嫌いなんだな。浜世椎奈は普段から、性懲りもなく尊皇反民主的な主張を繰り広げていると想定される。猛者だ。

 そこまで考えて、浜世は少し白西に似ていると感じた。白西も問題児だった。出前を取って学校まで持って来させたり、校則を変えてゲームの持ち込みを許可させようとしたり、球技大会でストライキを起こして麻雀大会を開いたり。普段は腑抜けた生徒なのに、変な所で行動力が会った。

 もちろん思想信条は全然違うのだけど、メインストリームに対しての反骨心を持っているという点で、両者は共通している。

 二日前、目の前で強烈な演説をされて、心の底からビビったし、付き合っちゃいけない人物だとも思った。でも俺は、浜世椎奈は嫌いじゃない。むしろ好感すら抱いた。彼女とともに世界を救うのは、悪くない。

 とはいえ、チームワークは大事だ。とても。巴ちゃんの反対を押し切ってまで、無理に浜世を加入させるメリットはない。いざとなった時に連携が取れないのでは困る。


「分かってる。巴ちゃんの意見を尊重しよう。だけど芸能人はなしだ。バレるリスクが大きくなる。余計なしがらみで動き辛くなれば、化け物退治に支障が出るだろう。地道に探すしかない。聞き込みは怪しまれるから、インターネットの力を借りて」

「うーん……例えばSNSの大海から適性者を探すとして。地毛と名乗っていても、嘘かどうか見分けるのはとても難しいわ。髪は染められるもの」


 全く以ってその通りだ。しかも逆にだ、たとえ生来の色付きだったとしても、悪目立ちを恐れて黒染めし、息を潜めている者も少なくないだろう。

 項垂れる。最初から、ピンク・イエロー・ブルーが周りに揃っていた。それだけで出来過ぎなのだ。運を使い果たしている。いつまで経っても終わらない、底なし沼の水底捜索になりそうな気がしてならない。


「リー、知恵をくれ。亜人の相棒は初めてじゃないだろ?」

「と言われてもネ。みんな等しく仲間集めには苦労していたカラ。その間に世界が滅んだこともあるヨ」

「おいおい。冗談はよしてくれ」

「妥協案があるわ。浜世の理性をわざと化け物に喰わせて、廃人状態にしてから眷属契約するのよ。きっと戦闘人形として役に立つわ」


 大真面目に提案してくる巴ちゃん。自由な発想力には脱帽するけど、正直かなりゾッとした。


「鬼畜ダナ。駄目ヨ。眷属の力を行使するには、肉体と魂の連関が重要ネ」

「そう。この世から害悪の芽を一つ潰す、いい理由付けになると思ったのだけれど。残念ね。……ねえ富良野さん。言いたいことがあるなら言えば?」


 巴ちゃんが、またもや桃架ちゃんに突っかかる。

 挑発された少女は、怯えを含む冷たい声でこう言った。


「私、水晴さんのこと、ただの高飛車で嫌な子で、だからいけ好かないんだと思ってたけど、違うみたい。もっと悍ましいよ。えっと、あそこのお母さんと白西さん、見えてるよね? 見えた上でそんなこと言えるの……? 頭、おかしいよ。浜世さんよりずっと」

「…………なんですって?」


 一挙に張り詰める場の空気。急転直下の絶対零度だ。

 ヤバいなんてもんじゃない。

 止める間もなく、巴ちゃんが桃架ちゃんの胸ぐらを掴み上げる。桃架ちゃんの足が浮いた。すごいパワーだ。俺の許可がなくとも、眷属としての能力を一部引き出せるのか。

 無意識に、白西を背にする位置まで移動していた。


「むぐ……ケホッ」

「もう一回言ってみなさい! 次は鼻を引きちぎってやるから!」

「か、簡単に、暴力を振るうんだね。賢いのだけは知ってるよ、ねえ……自分の頭で考えられる人、でしょ? どうしてそんなに粗暴なの?」

「ムカつくからよ。ムカついたら殴りたいでしょ?」

「同じ理由で、浜世さんに喧嘩を仕掛けたの? そして負けた?」

「なっ!? どこでそれを」

「やっぱり。あの事件、水晴さんだったんだ。勧誘に反対する理由、それでしょ。ねえ。浜世さんが怖いんでしょ?」「っ──」

「水晴さん。水晴巴。あなたのどこが魔法少女なの。お兄さんに近づくな。お前の居場所は学校にもないし、ここにもないんだよ、クズ女あっ!」


 巴ちゃんは、問答無用で桃架ちゃんを投げ捨てた。どうにか受け止める。


「あんたなんか! あんたなんか、変身も出来てないくせに!」

「う…………」

「落ち着け巴ちゃん! 一旦話し合おう! お話すれば仲良くなれる!」

「お兄さん。危機意識が足りないよ」


 いつも天真爛漫な桃架ちゃんが、今は別人みたいだ。だからこそ、本気の忠告であると察せられる。


「あのクズの面倒、一生見切る覚悟があるの……?」

「は?」


 巴ちゃんの面倒を、一生(・・)

 なぜ急に、そういう重たい話が出てくる。訳が分からない。

 訝しみつつ、渦中の人物に視線をやる。

 口が半開きになった。彼女は俺の答えを、固唾を呑んで見守っている。

 未だ状況を理解していないが、どうも、ここで答えを間違えると取り返しがつかなくなるらしいことは分かった。

 リーに助けを求める。いない。逃げやがったなあの野郎。どうする。

 どうするんだ。スパコン並の演算能力が欲しい。こういう時はあれだ、こうやって時間を稼ぐんだ。


 To be continued...


 ピロリロリン♪

 天啓のようなタイミングで、スマホから音が鳴った。

 急ぎ取り出し画面を点ける。浜世椎奈からだった。


『厨二病のお兄さん。あの空き地に来てくれ』


喧嘩する女の子たちは良いですね。仲裁しようとして両方から殴られるのが僕の夢です。

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