14 ゲーマー野郎の禁ゲー
口が乾く。
いきなり核心に触れられた気がしたから。誰だってビビるだろう。守れているはずだった秘密が、実はバレていたとしたら。リーの方針は「なるべく知られないようにする」だ。罪悪感が湧いてくる。
ハッと思い出した。そう言えば。
リーが化け物の出現を察知する寸前、鳥矢は電話で「おばあちゃんのお見舞いをしている」と述べていた。昨日、こいつも病院にいたんだ。
しかしおかしい。病院にいる間、俺には認識阻害の効果が終始働いていたはずだ。俺が昨日病院にいたのは事実だが、認識されるはずがない。
リーの術にも穴があるのか? そう言えば、巴ちゃんには普通に見えているようだった。でもそれは、彼女は色付きで、亜人の眷属として適性があったからだろう。
鳥矢は普通の黒髪だ。なぜ見えた?
そもそも、どういう意図で質問してきたのか。
「あ……ああ。いたよ。友達の家族なんだけど、急に容態が急変して。心配になって行ったんだ。俺が帰った後、夕方お亡くなりになられたらしい」
「それは。なんかすまん。なあ、友達って誰? 同級生?」
「中学生の可愛い女の子。上司と部下の関係だ」
「どっちが上司でどっちが部下? どっちであってもいかがわしくね?」
「そこに目をつけるとは、さすがだな鳥矢」「はあ……」
わざとうやむやにしてみた。それ以上追求することもなく、彼はくるりと踵を返し、教室を後にする。リーの集中力が切れた時、たまたま鳥矢に目撃されただけか。
というかこいつ、病院で大事件が起きた話も知らなさそう。化け物が活性化する前にお暇したのかな。ならば何も問題ない。
友人を追いかける。
「待てよ。帰り道は途中まで一緒だろうが」「そうだっけ?」
「おいおい。何度も遊びに来ただろ。ゲームしに。そして、お前たちはいつもいつも、左手というハンデ持ちの俺を情け容赦なくぶちのめすんだ。忘れたなんて絶対言うな。散っていった俺のアバターたちが浮かばれない」
「す、すまん」
「あれか? ゲームのし過ぎで上の空なのかゲーマー野郎? なら平常運転だな。『ゼロ度を下回ったから水が凍りました』くらいに自然だ」
「えっと。嘘に聞こえるかもしれないが、ここ三日はゲームをやってねえ」
なんだって?
その場で後退った。信じられん。死んでも治らないゲーム中毒が治った?
単なる嘘を超え、完全無欠の虚妄に思えた。
硬直し、声帯が機能しない中で、鳥矢はさらに続ける。
「その。上の空は正しいかもな。学校からのメールを見る限り、病院で何かあったんだろ? おばあちゃんが心配なんだよ」
「お前誰だ」
「分かってる。今までの鳥矢赫義と比べたら、別人みたいなこと言ってるよな。でも俺は、自分に素直になると決めた。愛と学びに誠実になる。人として真っ当に生きると誓ったのさ」
「マジかよ。天変地異の前触れか?」
実際、同じタイミングで、地球のどこかに穴が開いて、そこから化け物が侵入し始めているという異常事態は起きているわけだが。
まあ、改心して主人公側に着く悪役に、憧れでも抱いたのだろう。どうせ一時のブームだ。すぐにゲーム廃人に戻る。子供の頃の感受性を失いゲームがつまらなくなってしまったのならともかく、そういうわけでもなさそうだ。
禁酒禁煙と同様、禁ゲーはまず成功しない。
「まあ、しばらくはその真人間ごっこに付き合ってやるよ」
「『ごっこ』じゃねえ。本物の覚悟だぜ。お前は一年半後、卒業生代表として壇上に呼ばれる鳥矢赫義を見ることになる」
「はは。本気で言ってるのだとしたら、度重なるゲー徹で脳がダメになっちまったと疑う。たとえ更生が成功したとしても無理だろうよ。信頼と実績では、ウチのクラス委員長が最強なんだから」
「俺はやるぜ。やると言ったらやってやる」
「はいはい。ああ、室ん家で『デミ・シード』ってゲームやるらしいぞ」
「話聞いてた? 行かないからな」
苦笑いしながら視線を逸らす。
白西があんな状態じゃ、鳥矢が乗り気にしろそうでないにしろ、遊びの計画は立ち消えだ。カバンの持ち手を握りしめる。取り戻さなくちゃいけないのは、いつでも気兼ねなく遊べるあの日常だ。
高校を卒業してもずっと続きそうだと感じられる、あの温かな絆だ。
──室は立ち直れているだろうか。化け物と遭遇し、目の前で白西がやられたショックから。
小さな公園前の分岐路で、鳥矢と別れる。
「曇ってきたな。雨降りそう」
天気予報をチェックしようと、ポケットからスマホを取り出す。
桃架ちゃんからメッセージが届いていた。彼女の中学校も休みらしい。つまり、巴ちゃんも暇になったはず。
昨晩出来なかった話し合いがしたい……と思ったところで、巴ちゃんから「昊刃の家に行くわ」と連絡が来た。察しが良くて助かる。こちらが彼女の家に馳せ参じるべきかもしれないけど、生憎住所を知らない。聞くのを忘れてた。
帰宅してから十五分、形式上は眷属の二人も集まった。一緒に登校し、一緒にここに来たらしい。残念ながら、特に仲良くなっているようには見えなかった。
部屋の隅では、白西と富良野母が虚空を眺めてぼーっとしている。
リーが口火を切った。
「何を論ずるつもりネ?」
「二つある。まずは、色付きにして尊王派の革命少女、浜世椎奈を、魔法少女として勧誘すべきかどうかについて」




