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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第3章 White

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18 手紙


 冬の本番ほどじゃないし、もちろん雪山ほどでもないが、十一月中旬の朝はもう寒い。コートを出すか今日も悩んで、結局、中綿入りのジャケットでやり過ごすと決める。

 その決断を少し後悔するほど肌寒い通学路に、室の姿はない。早起き自慢のメッセージは届いていなかったから、大方、いつも通りに、遅刻ギリギリの時間にスライディング登校してくるのだろう。

 信号が青になった。音が響く。聞こえなくなるくらいの距離を歩くと、だんだんと制服姿が増えてくる。

 誰かの背中を探す。探し相手は、室でも、行方不明の鳥矢でもない。

 誰を探してるんだっけ? ここのところ、毎日そう困惑している気がする。

 教室の扉を開いた。


「委員長。おはよう」「……おはよう」


 空気の抜けた風船のような返事。篠さんが亡くなってからはずっとこうだ。後期委員会決めや体育祭の種目割り当てなど、本来なら彼がやるべき仕事を俺と室で代打してやっているぐらいに元気がない。

 委員長としての威厳はすっかり失われてしまった。

 対して、委員長代理として出しゃばっているところから察せる通り、室は最近元気だ。憑き物が落ちたみたいに表情が晴れやかなのだ。彼女の心が上向くような出来事が最近あったかというと、心当たりがない。

 どういう風の吹き回しだろうか。とにかくそのせいで、俺は委員長代理補佐として駆り出され、陽気でおバカなリーダーに振り回される苦労人副リーダーポジの人になってしまっている。

 尤も、バーサーカー・クズサイコパス・元政治犯たちの溝をどうにかこうにか誤魔化す仕事の万倍マシだけど。

 昼休み、弁当を持った室がこちらに走り寄ってきた。


「昊刃くん〜。もう一回文化祭しない?」

「知ってるか? たかがクラス委員長に文化祭開催の決定権はないんだぜ」


 この学校の文化祭は五月中旬に行われる。今年の分は、俺が亜人として覚醒する少し前に催された。


「そこはほら、昊刃くんの神通力でさ〜」

「あいにく俺は、裏から学園を牛耳る理事長の御曹司とかじゃないんだよな」

「じゃあ音楽祭!」「仮結衣さんへの負担が膨大すぎるだろ」

「ん? 私はいいよ。クラリネット大会が中止になって不完全燃焼だし」

「おお……その優しさに涙がちょちょ切れそうだぜ」


 関係各所に根回ししておくか。


「実現するかは置いといて、室さんや、どうして祭りをしたがるのかな?」

「若さとノリと勢い!」「輝いてるな。眩しいよ」


 夏祭りの花火を想起する。椎奈ちゃんの父親によって台無しになったあれだ。

 輝き弾けているモノには、往々にして邪魔が入りやすい。嫉妬だったり、足を引っ張る愉悦だったり、横から茶々を入れる理由はたくさんある。椎奈ちゃんの父親が花火による感動のフィナーレを破壊した動機はもちろん、そういう醜い感情とかじゃあないだろうけど……どんな理由があれど、上手くいってたのが突然ぶち壊しにされては、ショックを受けない方がおかしい。祭りの実行委員会は、メンバーの多くが心的外傷を患ったという。

 室は明るく陽気な反面、とても傷つきやすい少女だ。悪意からはなるべく遠ざけてやりたい。


「にしても、昊刃くんのはずいぶんともやし尽くしだね。美味しそうだけど」

「こいつ金欠なんよ。しかも食欲旺盛なペットを三匹も飼ってる」

「ああ、例の……」


 仮結衣さんから、可哀想なモノを見る目で見つめられる。慣れた視線だ。条件さえ揃えば興奮するぐらいである。

 俺の性癖は隠しておくとして、仮結衣さんもまた、「変な子に粘着されて不憫」という認識なんだよな。ロリコン高校生が飯で釣って女子中学生を囲っていると捉えられてもおかしくない図式なのだけど。

 三色娘(あいつら)の普段の行いが悪いせいだろう。逆に俺は、模範的な高校生男子として一定の評価を得ている。信頼と実績の昊刃さんだ。


「大丈夫なの? その……虐待とか受けてない?」

「なんとか制御してる。大丈夫。それに、サポートしてくれる姉さんもいるし」

「あー。確か、小学生ん時にいるっつってたね。会ったことねえけど。兄貴もいるんだっけ?」

「え? いないけど」「あれ?」

「別の誰かと混同してるんじゃないか?」

「はあ? 近藤さんなんて知り合いいないし」「そうじゃなくて」

「どんな人なの? 昊刃くんのお姉さん」


 仮結衣さんにそう尋ねられる。「混同」と「近藤」の混同を説明しなくてすみそうだとホッとした。珍しくない苗字のはずだけど、そういえば周りにいないな、などとどうでもいいことを考えつつ、姉さんの良さ語る。


「頭が良くて視野も広い。声を聞いたら、どんなことでもなんとかなると思えてしまう、不思議な雰囲気を持った人だ。理想の上司って感じかな」

「ベタ褒めだね。すごい人なんだ」

「ああ。ここだけの話、鳥矢を探してくれてたりもする」

「おお」


 連続色付き惨殺事件の重要参考人として、だが。さすがにそれを言うわけにはいかない。姉さんの職業が怪しまれる。俺だってよく知らないのに。

 表向きには占い師、しかしその実態は、とある政府機関のエージェント。

 情報がほとんどない。いかにも謎に包まれている。


「心配だな〜鳥矢。ホント、どこ行っちゃったんかねぇ」


 俯き考え込む室。彼女を安心させようと、努めて明るい声を出す。


「大丈夫だって。きっと戻ってくるよ」

「『鳥矢を偲ぶ会』と称してみんなでゲームする企画とかどう?」

「全然心配してねえじゃねえか。偲ぶな。委員長代理の仕事として最悪だ」

「あっ。私、近藤なんて知り合いいないぜ?」

「蒸し返すのやめろ」


 雑談に興じていると、いつの間にか昼休みが終わってしまう。

 退屈な授業をどうにか凌ぎ、放課後になって、昇降口に赴いた。仮結衣さんは部活だから、室と二人だ。

 下駄箱に上履きを入れると、何かが擦れる感覚があった。

 違和感の源を取り出す。


「手紙?」「えっ? ラブレターッ!?」


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