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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第3章 White

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16 良くない雑草


 浜世メイはいなくなったと判断し、その場から離れて巴ちゃんたちと合流すると、彼女たちはゾンビエギンをすでに倒していた。

 再生力が消え、ゴムの弾力性と人型も失われ、普通の雑魚エギンのようになったという。やはり浜世メイによる改造を受けていたのだろう。距離があると変成を保てなくなるのか。

 気絶したままだけど、跡掛さんは無事だった。良かった。

 佐渡さんに尋ねる。


「どうしましょう。浜世家に正体がバレました。このまま逃亡した方が……」

「問題ありません。ご帰宅ください、昊刃様」

「え、いや、でも」

「すべてボス、あなたのお姉様がなんとかしてくださいます」

「あっ……あっ……。そうですね。姉さんがいるから大丈夫でした。佐渡さんは?」

「麓まで降りて、車を回収します。ガイドさんが乗ってきたものもこちらで処理しておきます。跡掛朱美さんも私が送りますので」


 礼を言った。三色娘とともに飛んで帰る。車であれば三時間以上かかる距離も、遮蔽物のない空を亜人の飛翔速度で進めば、俺たちの街まで十五分とかからない。フルスロットルならもっと早く着いただろう。

 桃架ちゃんがひどく腹を空かせていたため、アパート近くの定食屋に寄ってから戻る。ピンクと青の喧嘩が勃発し店に謝る羽目になった。

 疲れて子守がめんどくさくなっていたから、適当な理由をつけて三色娘を各々の部屋に隔離する。三色娘の住宅事情をおさらいしておくと、巴ちゃんは二ヶ月半前からアパートの一部屋に引っ越してきているし、椎奈ちゃんは二ヶ月ほど前から桃架ちゃん宅の世話になっている。

 玄関で登山靴を脱ぐ。リーが迎えに来た。


「おかえりヨ。早かったナ。山はどうだったネ?」

「最悪だ。浜世家(れんちゅう)に襲われた。桃架ちゃんの友達とガイドさんが殺されてエギンに。姉さんの部下も二人死亡」

「あらあら。それは災難でしたね」


 リビングから、聞き慣れた女性の声が届く。

 わずかな香水の匂い。廊下を歩きながら答えた。


「姉さん。来てたのか」

「ええ。妖精さんと少しお話ししようと思いまして」


 アパートに入る前、しっかりホースで洗っておいた登山靴を乾かすべく、ベランダへと持っていく。桃架ちゃんがアイゼンで付けた廊下の傷は、業者の手ですでに直っていた。前よりピカピカだ。

 鳥矢がいたら自慢しただろう。今は行方不明だけど。

 ソファにもたれかかる。座面が沈んだ。ずるずる落ち続けて、闇に飲み込まれるんじゃないかと錯覚するほど疲労している。

 目を瞑った。


「佐渡から事情は聞きました。浜世家に襲撃されたと」


 ソファの軋む音。姉さんが隣に座ったらしい。微睡みに任せて眠ってしまいたかったが、佐渡さん視点の報告には、俺と桃架ちゃんサイドの詳しい話は含まれていないはず。応対することにする。

 巴ちゃんたちと別れたのち、何があったのか。スナイパーの弾丸転移能力に少し手こずったこと、燻り出すために「火」による空爆を行ったこと、スナイパーは始末したこと、メイと名乗る物体変成能力者もいて、彼女はかなり強かったことなどについて、詳細に伝える。


「浜世メイとやらは逃がしてしまった。一つ矛盾を指摘しただけでなぜかものすごく取り乱して、発狂しながら地面にダイブしたんだ、文字通り。止める間もなかった」

「へえ。そんな子が。興味がありますね」


 姉さんは微笑み、ずいと身を乗り出してくる。発狂しながら地面にダイブ、事実をありのままに言っただけだが、字面にすると面白いしな。

 巴ちゃんの愚かっぷりを大いに気に入ってる姉さんだから、奇人変人への関心は並々ならず強いのだろう。


「身長は低い。童顔だった。一人称は自分の名前。幼く見えるけど、多分俺と同年代だな。あと、物をゴムっぽく変質させる能力がある。汎用性はめちゃくちゃ高そうだった。どうも距離制限があるようだが」

「へえ」

「アネ、あまりソラハに負担をかけるナ。ソラハも無理するナ。紅茶飲むカ? 冷えて風味は落ちてしまったガ」

「いただこう」

「とりあえず温め直すネ。……ショックだったのカ?」


 神妙に尋ねてくるリー。頬を触る。ひどい表情になってたか?

 大きく溜息を吐いた。


「篠さんや問鹿さんの時とは違う。彼女らはすぐ側にいたんだ。心にくる……」


 正直に言う。リーは黙って、電子レンジを回し始めた。

 俺は情に篤い人間じゃない。かと言って非情でもない。命の重さは知っている。あまり親しくない人たちでも、守れなければ、己の非力さを悔いたりもする。

 ……本当にそうか? この辛さ、モヤモヤ、焦燥は、果たして後悔から生じたものなのか? 違和感がある。

 ポンと肩を叩かれた。


「佐渡からです」

『昊刃様』「えっと。なんでしょう?」

『跡掛さんがお目覚めになりました。お話ししますか?』

「……もう他人と話せる状態ですか?」

『さすが、お気遣いの出来るお方。まだです』


 そりゃそうだろうな。彼女は決して気丈な人間じゃない。いきなり見知った人が殺されて、それが夢じゃないと知れば、動転するか放心状態になるか、とにかく落ち着けはしないはずだ。

 通話が切れた。スマホを姉さんに返す。


「では、私はこれで」

「もう行くのか?」

「亡くなられた富良野さんのお友達の事後処理もありますし。山火事もですね」


 眉を顰める。あの空爆を山火事で済ませる気か。火事など比じゃないほどボロボロにしたし、何より雪山だぞ。さすがに無理があるだろ。

 心配になる。

 玄関まで見送る。「じゃあまた」と声をかけようとした時、姉さんは振り向かず、前の言葉の続きを意味深に呟いた。


「あと、良くない雑草が芽吹いているようですので。抜いておかないと」


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