15 チグハグ
「浜世家は本当に巨大化好きらしいな」
「浜世家ってまとめられるの、きらい。メイはメイ」
ゴム質の機体を纏う、メイと名乗った術師が神速にて繰り出すは、大剣の薙ぎ払い。
空に逃げる。背中に冷や汗が伝う。ボロボロの地面が捲れ上がり、横一文字の跡を晒す。もうもうと上がる砂塵。
桃架ちゃんの方を一瞥する浜世メイ。灰褐色のゴム触手にニュルニュルと覆われて、姿が完全に見えなくなった。機体に潜り込んだらしい。
目の部分がピカッと光る。理解ってやがる。かっこいいギミックだぜ。
「ダッサイな〜」
桃架ちゃんはお気に召さなかったらしい。ピンクソードを振りかぶる。椎奈ちゃんのペンダント刀と違って、実体があるタイプではないはずなのに、「チャンバラ」の持続時間はかなり長いようだ。
猛獣も真っ青な笑顔を浮かべて、桃架ちゃんは足を踏み込む。姿が消えた。コンマ一秒にも満たないうちに、メイ機体の懐に現れる。一般的なマンション一つ分の巨体、しかも両手に剣を持っている状況で、すばしっこく小さな桃架ちゃんに対応出来るとは思えない。
包丁を使っている時、キッチンに突如として現れたゴキブリは殺せないのだ。
「真っ二つになっちゃえ!」
浜世メイがいた位置に、横から刃を差し込んだ。ゾンビエギンと同じく斬撃は通るようで、無抵抗に切れる。
半分までは。突然ガチンと止まった。
機体は下を向き、桃架ちゃんを捉える。目の当たりに高密度のエネルギーが集まった。ビームを発射。
桃架ちゃんは剣を手放す。俺の手前まで後退してきた。首の角度が調整され、ビームの狙いはこちらに。本能的な恐怖に情けない声を上げ、横に跳ぶ。
ジュワリと焼け融ける地面。泣きそう。
「わっごめんなさいお兄さん! 青クズを叱っといてくださいっ」
「俺は君を許さない!」
「メイもピンク頭は許さない。ピンク頭だけはぶち殺すっ」
浜世メイの声が聞こえる。どこから喋っているのだろう。
「私、何かしましたか!?」
「仲間を殺した! メイの鎧をダサいと言った! 死ね!」
「桃架ちゃんが仲間を殺してごめん! でもこっちだって襲われて、仲間を殺されてるんだ! 反撃くらいするっ! あと俺は君の鎧かっこいいと思う!」
「えっ、そう……?」
「お兄さんグッジョブです! 隙あり!」
グッジョブをこなしたつもりはない。素直に褒めただけだ。
いつの間にか回り込んでいた桃架ちゃん、背後から斬りつける。雷が如くの一撃だった。吹っ飛ばされた機体の背中は、パックリと割れていた。
瞠目する。あの勢いで斬りきれてない? 防御力はすこぶる高そうだ。先ほど、物体をゴム質に変成し意のままに操る能力者と予想したが、恐らくそれだけじゃない。もっと汎用性がある。
危険度の評価をさらに上げる。
「やっぱり! ピンク頭は卑怯者! キライ! 大嫌い!」
浜世メイはヒステリックに叫んだ。巨大な鎧に似合う大音量だ。拡声の術でも使っているのだろうか。
桃架ちゃんは傲然とした鼻笑いで返す。
「はんっ! 『儀式に必要』の一点張りでお兄さんを誘拐しようとする、お前たち浜世家は、卑怯どころか下劣だよ!」
「メイを浜世家でまとめるな!」
大剣が振り下ろされる。桃架ちゃんは再び「チャンバラ」を発動。ピンク色に光る剣で、重量にして百倍はありそうな得物を受け止める。
打ち合いが始まった。押され気味なのは浜世メイ。桃架ちゃんの動きを捉えきれていない。鎧の防御力で凌いでいる状況だ。逆に言えば、桃架ちゃんの猛攻を防げるだけ硬い。
「クソ犯罪はやめて、本業に注力しなよ! 時代錯誤の妖怪退治に!」
「化け物は駆除する、与えられた任務もトライするっ」
「お兄さんを生贄にして、どんな儀式をしようとしてるのか、説明してごらん!」
「…………っ」
「キャハハハハ! 何も知らずに事を構えている? 思考停止じゃん! その有様で、よく個を主張出来る。巴並みに幼稚だな。恥知らずだ」
「なんだと」
「桃架ちゃん、言い過ぎ!『 巴ちゃん並みに幼稚で恥知らず』だなんて、そんなの、言い過ぎにも程があるでしょ! 名誉毀損だ、ほら謝って」
「だって! お兄さん!」
高速戦闘に、ようやく目が慣れてきた。割り込む。両者の剣戟を「火」の小さな暴発で減衰させ、波動エネルギーの鎧で受け止めたのだ。
しかしキツい。骨がイカレたかとヒヤヒヤさせられる。
「謝れないこの子に代わって俺が謝罪する。ごめんメイさん。でも、君たちのことが分からないのは本当。見えない。イマイチ掴めない。チグハグなんだ」
「チグハグ……?」
「最近、体が軽くなることは多いのに、エギンはまったく出てこない。君たちが狩ってるからだろ。でもだ。放置しておけば亜人を誘い出せたはずだ。どうにも腑に落ちない」
大剣から力が抜ける。困惑しているようだった。
固まってしまった。
あれ? 聞く耳を持たれないままバトルに突入する流れかと思いきや、そうではない? 「またも隙ありだよ!」と血気盛んに突っ込もうとする桃架ちゃんを押しとどめた。
めちゃくちゃ不満そう。このバトルジャンキーめ。
しかし、内心驚く。明瞭な戦意の喪失。疑問を示しただけなのに、この劇的な反応はなんだ? 巴ちゃんと出会ってしばらく、いくら更生させようとしても暖簾に腕押しだった空虚感を知っている身からすると、むしろ怖い。
「みんなおかしい。六華も無頼もおかしいの」「え?」
「メイも、メイもおかしいの。時々、メイがメイじゃなくなっちゃった気分になる。気持ち悪い。どうして」
「それは、どういう……」
「うっ」
突然、こちらに背を向けて、脱兎の如く走り出すメイ機体。
「ちょっ……」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
耳を劈く絶叫を上げつつ、浜世メイは前に飛び込む。地面はそれを、当然のように受け入れた。ゆらりと波紋が広がる。すり抜けの亜種だろうか。
地面を触ってみる。ただただ土の感触。巴ちゃんの「遊具撤去」では反応がなく、すり抜けで追いかけてみてもどこにも見当たらず。
浜世メイが再び浮上してくることも、なかった。




