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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第3章 White

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14 チャンバラ


 撃たれたらしい。遅れて響く発砲音。


「お兄さんっ!?」


 桃架ちゃんが、「遊具撤去」を中断して駆け寄ってくる。地面に両手がついた状態からじゃ、さすがに反応出来なかったようだ。幸い、銃弾は波動エネルギーの鎧をほとんど突破出来なかった。

 登山服に穴が開き、小さな火傷を負った程度だ。

 問題ない。そう返そうとする。が、足元に微かな振動に意識を奪われ、開きかけた口を閉じた。俺には桃架ちゃんみたいな殺気感知機能は備わっていないけど、実態を伴う異常に対しては敏感だ。

 地震じゃない。これは。


「来る」


 一段と激しく揺れる。咄嗟に飛んでいなければ、脳をシェイクされ、三半規管にダメージを負っていたに違いない。

 驚愕は体を硬直させる。突然殴られても即座に殴り返せる桃架ちゃんや巴ちゃんと違って、大抵の人と同じく、俺は慮外の一撃には一瞬固まってしまう。

 明確な隙。まずいと直感した。

 土に円形の波紋が現れる。真ん中が伸びた。

 筒状のそれに、土手っ腹を打ちつけられる。ヒヤリとした気持ち悪い痛みは、胃と腸をひどく不安にさせた。吐きそうになる。自動保護施設のスタッフ、新木との喧嘩修行(強制参加)がなければ、情けなく悶絶してしまっただろう。どうにか姿勢を保つ。

 下を見て、ビビった。

 土砂降りの日の水溜まりのように、地面自体(・・・・)がバチャバチャのたうち回る。非常識な光景だった。液状化現象が起きたとしてもこんなことにはならない。

 土の変質。殴られた感触は、ゾンビエギンのものと似ていた。弾力と流動性、その両方を兼ね備えている。

 のたうつ地面から、焦茶色の触手が生えてきた。それも無数に。触手というと、病院に出現したお化けクラゲを彷彿とさせるが、あれと違って、こちらには「生きてるって感じ」がまったくなかった。無機質だ。

 天然じゃない方のゴム。

 浜世家の異能か。狙撃とはまったく系統が異なる。敵は、スナイパーの他に少なくとももう一人いる。物体をゴム質に変成し、意のままに操れるってところか? 極めたら強そうだ。

 迫り来るゴム触手から飛翔で逃げつつ、少し出力を絞った「火」の爆弾を投げつける。分解と消失の洗礼を受け、瞬く間に燃やし尽くされるゴム触手だったが、すぐに代わりが生えてきた。

 鞭のように振り払われる。僅かな隙間を掻い潜る。一々燃やしてたらキリがない。瞬く間にエネルギー切れを起こすだろう。

 頬を引き攣らせた。

 早くて強いが、一本一本なら余裕で対処出来る。


 でも、何より手数が多い!


 分かりやすい説明も積み重なれば、理解はだんだん難しくなる。量があるだけで物事は厄介になるのだ。ファンタジー作品でものすごく強いキャラが「千の兵に匹敵する」などと評された時、「もっと強くね?」と疑問を感じてしまうこともあるけど、とんでもない。数の処理には激しく体力を使うし、攻防に伴うダメージの蓄積も大きいからだ。

 千どころか十の兵に匹敵すれば、現実世界ではガチ強である。

 尤も、亜人(おれ)にはすり抜けというアドバンテージがあるし、先ほどお見せした通り空爆も出来ちゃったりするから、普通の人間が何万人揃おうが物の数ではないが……土から生まれたゴム触手も、ズレる能力を有している。

 同じ土俵に立ってるわけだ。

 躱すだけじゃダメだ。感覚を研ぎ澄ませる。小さな、とても小さな「火」の爆弾の生成に成功した。ゴム触手の根元に当てれば、一時的に無力化出来る。

 舌打ちする。回避だけするよりずっとマシだけど、その場しのぎに過ぎないのは変わってない。

 基本的に、個は量に対して貧弱。

 ゴム触手に紛れて、銃弾も飛んでくる。致命傷にはならないが、痛みで集中がかき乱されるのは確かだ。思い通りに行かない。むしろ相手の掌の上で踊らされている感。イライラする。しかし、力をある程度温存するという制約の下で、現状を打破出来そうな目ぼしい手札は……。

 どうする? いずれ押し切られる……っ!


「私を舐めるな! 『チャンバラ』」


 桃架ちゃんの右手に、ピンク色に光る剣が出現する。

 保育士ではなく保育される側が使いそうな技名だが、強さは本物だった。見える範囲のゴム触手がすべて弾け飛ぶ。

 目ん玉ひん剥きそうになった。変身出来なかった時期から巴ちゃんよりキルポイントが高かったのもそうだけど、控えめに言って強すぎだろ。他の二人を雑魚扱いしてしまうのも分かる。別格だ。

 さすが、魔法少女モノの主人公に抜擢されやすいピンクというだけはある。


「はあぁっ! 『遊具撤去』っ」


 最後の触手を切り刻んだそのままの勢いで、地面に剣を突き立てた。そして、ついさっき俺が撃たれたせいで妨害された、地下捜索のための技を発動させる。


「あぎゃっ」


 一人の男が引き摺り出された。ライフル銃を抱えている。

 こいつがスナイパーか。寸分の躊躇いもなく、桃架ちゃんは剣を振るって男の首を刎ねた。スナイパーはエギン化などしていなかったらしく、ただ絶命する。

 やっつけた。ゴム触手の使い手の存在を一瞬忘れてしまい、ホッとしたのも束の間、桃架ちゃんが叫ぶ。


「一人掴み損ねました! 強いです!」


 一点を中心に、再び地がぬらぬら揺れる。

 まるで間欠泉みたく、土製の茶色いゴム触手が大量噴出した。互いが互いを複雑に編み込んでいく。ゾンビエギンの再生と同じ現象だった。

 形作るは大きな鎧。中心におとなしそうな少女がいる。土色の胸元からちょこんと覗く上半身は、不釣り合いなほど小さい。身長は、ちょうど三色娘の平均くらいか。

 けども、醸し出す雰囲気は少し大人びていて、中学生にはそぐわない。

 俺と同世代?

 鎧というか、機体は大剣を構えた。

 少女が口を開く。


「メイ、マウンテンモード」


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