13 殺気の分析
「MP切れで動けなくなるのはさすがにまずい。一旦空爆を打ち切ろう」
「はい。分かりました」
言うが否や、通常の三倍のスピードで進んでいた桃架ちゃんが止まる。慣性力はすり抜けた。椎奈ちゃんの家の仕掛けでぶっ飛ばされて痛い目を見ているから、対策は万全だ。
「とはいえ、波動エネルギーの残量的には、まだ一発二発なら余裕で打てる。予想通り体力の消耗も少ない。ゾンビエギンを倒しに行った方がいいんじゃないかな?」
「ダメですよお兄さん。敵は、例えば、地中に避難した可能性もあります。逃げる目はすべて潰すべきです」
慎重だな。逃すのは勿体無いという意見には賛同するけど、ゾンビエギンを倒してすぐに戻って来れば問題ないだろうに……いや、佐渡さんと跡掛さんを赤い閃光の範囲外まで逃がさなきゃいけないから、「すぐに」とはいかないのか。
「まだ二手に分かれて十分程度……。雑魚な愚か者二人も、再生力お化けなだけのゾンビ相手ならあと十五分くらいは保つと思いますよお兄さん」
「まあ、愚か者だけど雑魚じゃあないしな」
「というか、この程度で死ぬのなら、死んでも問題ないじゃないですか」
ねえ? と同意を求められた。同意を求められても。
厳しい。強さこそが存在価値の基準、まさに戦闘民族。この現代日本において、親からどういう教育を受けたらこういう価値観を持つようになるのだろうか。
道徳や倫理で赤点を取ってないか心配だ。巴ちゃんも。
ギッタンギッタンになった地面を眺める。溢れる罪悪感に蓋をして、人の気配を探った。誰もいないように見える。この惨状を生き残れる人間は、常識と照らし合わせるといない。
浜世家は術士集団だ。普通の人間にカテゴライズするのはまずいし、舐めすぎというものだろう。しかし、亜人とその眷属たちとは違って、体が素で丈夫なわけではない。よって装備や防御系の術式で身を固めているわけだけど、浜世家は戦争集団ではなく退治屋である。あくまで人、あるいは化け物相手に特化していて、大質量の攻撃を防げるわけではないと椎奈ちゃんも言っていた。
桃架ちゃんの警戒も分かる。どちらかというと俺も慎重派だ。石橋は叩いて渡る。爆破はしないけど。だからこそ、むやみやたらと警戒しても精神を摩耗させるだけと知っている。
徹底的に防御を固めた重装歩兵ならまだしも、スナイパーでは、ねえ?
と同意を求めても、桃架ちゃんはきっと賛同しないんだろうな。地中に避難した、か……。仮に、爆風吹き荒れる戦場で地面に隠れ潜む術式があったとする。死神の誘いを華麗に払い除け、無事に生きていた。だとしたら、狙撃を再開するんじゃないか? 弾丸を転移させる系の能力もあるようだし。
待てよ、そうとも限らない。弾丸転移のための条件を空爆で壊されたから、大怪我を負ってしまったから、静かに逃げ延びようとしているから、撃ってこない理由はいくらでも考えつく。
うーん……。
「感じませんか? 冷たく、熱い殺意を」
尋ねかけてくる桃架ちゃん。
脳に直接冷や水を流し込まれた感覚。現実に引き戻される。
残念ながら、俺には離れた人間の殺意を察知するための器官は搭載されていない。あったら、海旅行の事件をもうちょっとスマートに解決出来ただろう。
戯けて答える。
「はは。ごめん、君の殺気が強すぎて」
「あっ、すみません。でもこれが私の性分なので」
素直に謝ってきた。そして、冗談で言ったにもかかわらず、敵には殺気を撒き散らすタイプだと素直に認めた。君が怖い。
「お兄さんは考えすぎなんです」「そうかい?」
「ビビッと来たら、足を止めるべきじゃないんです。結構ヤバいのがいそうだな、よし潰そう。私はそうしてるだけ」
「結構ヤバいのがいるの?」「いますね」
なんでそこまで分かるんだよ。いくらなんでも鼻が利きすぎだろ。先祖にサ◯ヤ人でもいたのか?
まあ俺は考えすぎるタイプだから、さっきの空爆を生き残った奴がいると条件づけた場合には、そいつはそれなり以上の強者だろうとは察しがつく。ついでに、守護タイプの術師だとも。
余裕で耐え切った上にバトルもめっちゃ強かったりしたら嫌だぞ。
死んじゃうかもしれないからな、俺たちが。
「自らの命を賭してエギン化した結果、生き残れた説とかない?」
「ないですね。理性がある知的生物の殺気ですよこれは」
「理性と知性の有無まで感知出来るの?」
「……ふー。ただただ待つというのは、どうしてもイライラしてしまいますね。イラストレーションが溜まります」
「フラストレーションだろ。速筆の絵師か」
「地上に降りましょう。お兄さん」
焦土を踏む。酷い状態だ。文字通り土は黒く焦げて、ボロボロだ。「火」がもたらすは燃焼ではなく消滅だが、余波だけで物質をこうも痛めつける。
自分でやったのでなければ、放射能汚染を疑ってしまいそう。
「大地を『火』で浸したり出来ませんか?」
「無理だな。波動エネルギーが切れるし、維持コストに体力と精神力のほぼすべてを持ってかれちまう」
「じゃあ私が。『遊具撤去』」
保育士関係ねえ。桃架ちゃんは片膝を突き、地面に両手を当てる。曰く、異物を地中からほじくり返す技だそう。
公園からは危険な遊具が片っ端から撤去されて、SNSでは「寂しい」という意見もよく見る。幸い、ウチの近くの公園は時代の流れに巻き込まれずに済んでおり、品揃えは充実していた。未だ、少年少女たちの憩いの場である。
女子小学生がよくバスケをしている上、たまに高校生の男子も混ざってたりするくらいだ。巴ちゃんみたいなクレーマーが増えないことを祈るばかり。
「うぎっ」
肩に小さな痛みが走る。二の腕を覗き込むと、常時纏っている波動エネルギーの鎧に、弾丸が突き刺さっていた。
来週も休みます。ごめんなさい。




