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アカの亜人  作者: オッコー勝森
第3章 White

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11 浜世標


 浜世(しるべ)は、浜世家若手の術師スナイパーである。

 五日前、彼は他の仲間とともに、座学棟の会議室に呼び出された。大人しく待っていると、呼び掛け人の無頼、六華の父親、が入ってきて、正面で話し始める。


「六華は間違いなく『亜人』に惚れてた。あれの好みは抜き打ちお部屋チェックと検索履歴から丸分かりよぉ。あの街に住んでやがる、六華が一目惚れしそうな容姿の若い男をピックアップしたぜ。『亜人』はきっと、こいつらの中にいるぞ」


 その場にいた全員が、声の主に「父親失格」の烙印を押した。親として最悪の部類で、とにかく死ねばいいのにと誰もが思った。

 しかし、話を聞いている術師の中に、かつて序列三位だった彼を倒せる者はいない上、実力自体は尊敬しているため、ほぼ全員、どうにか苛立ちを抑え込む。

 そして、ホワイトボードに貼り付けられた、十人弱の少年たちに注意を向ける。爽やかなな顔立ちの彼らだが、無頼が娘の好みを邪推して選んだと考えると、標はすこぶる気持ち悪く感じた。


「男性アイドルのオーディションでもしてるみたい」


 呆れたような呟きが、狭い会議室の虚空に投げかけられる。

 標は自らの記憶を洗う。彼女の名は(めい)。六華より三歳上だが、身長は冥の方が低い。周囲の物質を変成し防御壁とする血刻術式の持ち主だ。

 序列は十四位。集められた術師の中で最も高い。


「確かに六華(あの子)は、メイもだけど、毒気のない正統派イケメンが好き。でも父親がそれをどっぷり把握してるの、正直言ってきしょい」


 あの無頼に、正直に生理的嫌悪感を吐露しやがった。

 標など、他の有象無象の術師たちは慄く。


「えっ?」


 無頼はキョトンと首を傾げる。室内の殺意が高まった。


「ゾワゾワする。メイ、今すぐお前をぶっ飛ばしたい」

「はいはい、決闘の季節が来たらな。ちなみに、ウチの娘と趣味が合うらしいメイっち的には、どいつが一番好きなんだ?」

「んー……メイ的には」


 しばし熟考して、「こいつとこいつとこいつと……」などと選び始めた。


「一番って言ったよな? メイっちは気が多いなぁ」

「マイルドな面食いなので、顔だけでそんなに厳密な順番はつけられない。性格を知ってたら一人を選べる。多分」

「性格までは調べてねえよ。一般人の素性をみだりに漁ると『掟』に触れちまうかもしれねえ。まあその話は置いといて、アイドルの振る舞いが、一部の例外を除いて均質的な理由が分かった気がするぜ。まあこれで、半分まで絞れたわけだが」


 半分まで絞れた、だって?

 調査としては、主観が入り過ぎている。恐らく最初の選定からしてそうなのだろうが、判定がガバガバ過ぎると、標は眉を顰めた。彼はスナイパーであり、そこそこ精密さを重んじる気質だった。


「で。この中だと、六華が一発で惚れそうなのはどいつだと思う?」

「ん……まず断言出来るのは、この鳥矢って男は違う。あからさまってわけじゃないけれど、六華の好みからすると少しダウナー寄り。ちなみに、私は嫌いじゃない」


 最後の言葉に、標も軽く同意する。鳥矢なる男からどことなく醸し出される陰のオーラに、自分と似たものを感じたからだ。


「これで四人か。よしお前らを、四班に分ける」


 は?

 標が困惑している間に、一同の組分けが為された。彼の班は「鈴木昊刃」という少年の担当が任せられる。

 我慢しきれず、彼は文句を垂れた。


「事前説明もなく、有無も言わさず監視任務って。横暴すぎますって」

「お前らのミスを枢機の野郎に隠してやってるのは誰だ?」


 口を閉じる。標は、鈴木昊刃の写真を眺めた。普通の好青年にしか見えないが、それは只人(ただびと)である証明にはならない。


「何も、四六時中見張れってわけじゃねえ。観察は『さりげなく』だ。掟破りの罰で闇に呑まれたくはないだろう? が」


 逆接ののち、無頼は声を低くする。


「少しでも怪しいと思ったら容赦するな。あ、『亜人』だけは殺すなよ?」


◇◇◇


「クソが。銃弾はハエじゃねえんだぞっ化け物がっ」


 標は毒づく。

 監視対象の鈴木昊刃は、中学生女子とはいえ、人を一人抱えて山道を歩き、けろりとしていた。確かに鍛え込んでいるようだったが、高校生としてはあまりにもタフだ。だからと言って「亜人」と断定することは出来ないが。

 しかし怪しい。故に言いつけ通り、容赦なく仕掛けた。

 浜世標は、継戦能力の高い(・・・・・・・)スナイパーである。もちろん、一撃で敵を仕留める技能も優れているものの、彼の真骨頂は、一人目を射止めた後──射撃の音が響いた後にあると言っていい。

 自らが発した音の軌跡に、自分の「波力」を乗せて、音が響いた領域に張り巡らせることが出来る。

 血刻術式、「音過結界」。

 結界内で、彼は三つの恩恵を得る。サイレント、ステルス、弾丸転移。つまり、自らの発した音を消し、自らの姿を隠し、弾丸を自由に移動出来る。ただし、生きた人間の周囲半径数メートルは結界の効果が無効化されるため、近づかれると自分の居場所がバレてしまうほか、離れた相手に直接弾丸をぶち込むことは出来ない。

 これらの弱点に加えて、隠れ潜むべきスナイパーにもかかわらず、少なくとも一度は発砲音を鳴らさなければならないことが「音過結界」に微妙な使い勝手の悪さをもたらし、血刻術式の保有者にもかかわらず、彼は序列38位という微妙な地位に甘んじている。

 元々目立ちたがり屋ではないため、あまり気にしていない。


「くそっ、俺じゃ足りねえってのかよ……っ!」


 枢機や無頼などの弾を回避する人間ならともかく、掴む人間に遭遇したことは一度もなかった。追尾弾も効果なし。眷属と見られる少女をすぐに排除するビジョンは、まったく思い浮かばない。長期戦を挑もうにも、残弾数に余裕はなかった。

 とにかく、鈴木昊刃が「亜人」であるのは確定事項だ。さっきから無頼にメッセージを送ろうと何度も試みているが、手首のデバイスは一向に繋がらない。事を起こす前には、問題なく定期連絡出来たのに。「亜人」またはその眷属が、妨害電波のようなものを発していると標は推測する。

 結界によるバフがかからない最初の射撃で、鈴木昊刃を殺さず撃つ自信はなかった。だから、無難に引率の大人の一人を狙った。それが間違いで、一か八かで鈴木昊刃を狙うべきだったか。標は後悔する。もう遅い。

 ここから如何にして状況を立て直し、鈴木昊刃を無力化するか。

 考えようとして、猛烈な悪寒に空を見上げる。


「なっ!?」


 赤い閃光が、弾けた。


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