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探偵ごっこする八縁兄妹と大月姫

 今日は日曜日、学校は休みだ。謙と智は小さくなったピンク仮面と一緒に勇芽の様子を見に向かった。


「勇芽は寝てるだけってお医者さんは言ってたけど。そうじゃないんだろ。ピンク仮面」


「まあ、そうだな。魂の大部分をユメに奪われている。眠りから醒めることはないだろう」


「食事とか排泄とかどうなの? 大丈夫なの?」


「ユメの方が霊泡界でする限り問題ないだろう」


 勇芽は病院で寝てるだけと言われて家で寝続けている。


 謙と智は家を出て隣の池田家に入った。


「勇芽はまだ起きないんです。大丈夫かしら」

 勇芽の母親の言葉に謙と智はうつむいた。


 謙と智が勇芽の部屋に入るのは二週間以上ぶりだが二人はとてもそうとは思えず不思議な違和感を覚えた。


「寝顔のイサメン、かわいいなあ」

 智はそう言って勇芽の顔をなで回した。


「謙はやらないの? 寝てる勇芽にキスぐらいやっても良いんじゃない。あの直前にもやってたんだし、その続きって事で」


「全部終わるまでおあずけだ。だから速攻でユメを倒す」


「お、心強い。謙やっぱり男前だね」

 智はそう言って笑った。


「霊泡界とこっちが繋がっているのは半年だけだ。それが過ぎたらユメは消えて勇芽は元に戻る」

 ピンク仮面の言葉に謙は「そんなの長すぎる」と言った。


「だな……」

 ピンク仮面は明後日の方向を向いた。


「ユメってなにがしたいのかな? 悪夢とか絶望とか言ってたけど」


「ちょっと長くなる。申し訳ない」


「いいよ、話して」


 智の言葉でピンク仮面は語り始めた。


「君たちが戦士たちの魂を宿していることは話したな」


「えーっと、チヨコレイトとリモコの使徒だったよね」


「ユメは大切な人を戦いで失って、リモコの使徒の一員になった。そして、怪物を操りチヨコレイトと戦い、敗れた。ユメは黄金の炎で此糸市を焼き尽くせば大切な人を取り戻せると信じている。そんなことをしても生き返らないのにだ」


「たとえ蘇るとしても、その為に町を焼くなんて許せない」

 ピンク仮面の言葉に謙は語気を強めた。


 智のスマホが鳴った。


 大月からの着信だった。智は去年まで大月と同じクラスだったのだ。


「ねえ、八縁。昨日のチヨコレイト・ブラック様たちの活躍、見た?」

 大月は開口一番そんな言葉を放った。


「えっと、なにそれ?」

 ここまで智が言ってあることに智は気がついた。


「確か、黒い服で昨日祭りに出たって言う二人組だよね。謙から聞いたよ」

 智はそう答えた。


「へぇ、仲直りしたんだ。まあ、いいや。弟君、あれっお兄ちゃんだっけどっちだっけ? いる?」


「いるけど、それがどうしたの」


「チヨコレイト・ブラック様達見てるでしょ、写真とか撮ってないかなって?」


「あのね、今、勇芽、池田勇芽が昨日怪物に逢ってから起きなくて大変なの。その話は後にしてくれる」


「えーっと、お見舞い行くね。どこの病院?」「今は家にいる。行き方は……」

 智はそうして大月を招いた。


「そう言えばチヨコレイト・ブラックの事は黙っちゃっていいかな。口裏合わせてね」


 数十分後、大月はやってきた。ピンク仮面は小さくなって動きを止めた。


「災難だったね。デートの終わりがこれなんてね。あとは、えっとその池田になんて言えばいいのか分からない。寝てるからなんて言っても伝わらないし、果物も食べてくれないし…… 失礼だけど見舞いに来た甲斐がない」

 大月はそう言うとバナナを置いた。


「ほっんとうに失礼だな」


「うん、ごめん。私って思ってたことをすぐ口に出しちゃう失礼なタイプなのっていうのもあれだしね。気をつけてはいるんだけどどうも」


「なんか、こっちがいうのもアレだし失礼を承知で言うけどすっごい嫌なタイプだな」


「ははは、言うねえ。まあ、言われても仕方ないけどさ。私は昨日祭りに現れた怪物とチヨコレイト・ブラック様に恋してるの」


「は」「えっ、どういうこと?」



 謙と智は大月の言葉にショックを受けた。


「だからね、チヨコレイト・ブラック様のことを考えると心臓がバクバクいって、苦しくなるの。この感覚がもう最高で色々調べてるの」


 大月は自分の胸に手を当てる。


「なにそれ?」


「ねえねえ、二人はチヨコレイト・ブラック様達のことどう思ってるの?」


「呼びにくい。正直チョコ黒で良いんじゃないかって思ってる」


「チョコ黒かぁ。良いね、良いね。それで、昨日見たの?」


「いや、チョコ黒のことは話に聞いただけ、ただ鳥と鳥を操る少女が勇芽から何かを吸い出していた。それから勇芽が起きないんだ。医者は寝てるだけって言ってたけど、俺はその少女が許せない」


「そっかぁ、それは大変だったね。あの少女、写真に撮ってもなぜか顔が写らないんだよね。のっぺらぼうなのかな」


 大月はそう言って写真を見せた。そこには昨日の戦いの一場面が撮影されていた。


 謙はそこに写っているユメの顔を勇芽にそっくりでだけどどこか違うと感じた。写真をじっと見るのを止めるとユメの目、鼻、口、耳が消えてしまった。なんらかの魔法的な力が働いているのだと謙と智は結論づけた。


「うんうん、良いね。あれ、池田ってどこで倒れたの?」


「北此糸公園、あそこから花火を見るつもりだったんだ」


「そっか、現場検証しよっか」


「えっ?」


「だーから、私はチョコ黒と怪物を追ってるの良かったら一緒に来る?」


譲と智は顔を見合わせた。


「そうね、暇だし行こうかな」


「えっ、嬉しい。いろいろ聞かせて」


「その前に三人で食べない?」

 譲はバナナを振る。


 三人はバナナを食べ終えると北此糸公園へ向かった。


「えっと、怪物はどの辺から現れたの? いまいち情報が足りないんだけど」


「空から飛んできた、暗かったしよく分からない。強いて言えばアレかな」

 謙はそう言って空に浮かぶ地球、霊泡界を指さした。


「アレ、なんなんだろうね。八縁、智も見える側なんだよね?」


「一応、見えるけど。あと、ややこしいから智でいい」


「だよね、智。謙も謙呼びでいいかな?」


 謙は頷いた。


「それにしても暗いところに彼女連れ込むなんて謙もスケベね」


 謙はさっと目をそらした。謙の顔は耳まで赤く染まった。


「ここに誘ってきたのは勇芽だし……」


 そう言いながら謙は勇芽の真意がエッチな事にあったのではないかと考えて興奮する。


「謙って可愛いでしょ」


 智は満足げに言った。


「アレが見えるからってそれだけだもんね。不思議な力とか前世の因縁とかないもんね」


 大月は霊泡界を見ながら話題を逸らした。


 実際、前世からの因縁はあるのだが、そのことを大月だけは知らない。


「そうね。あっても大変じゃない?」


「大変だから楽しそうなんじゃない。外野だからこそ内野の苦しみを知りたいみたいな。途中から野球の話になってない?」


「なったね。外野の反対語に内野を選んだ辺りから。言いたいことはわかるよ」


 智と大月は目を合わせて笑った。


 謙はその声を聞いて思わず「勇芽」と口走った。


 それから八縁兄妹は嘘を適度に混ぜながら大月にこの公園でなにがあったか説明した。


「祭りの跡地に行こっか」


 大月の提案に八縁兄妹は頷いた。


 そして三人はチヨコレイト・ブラックとして戦った、祭りの会場へとたどり着いた。昨日は歩行者天国に出店がたくさん出ていたのだが今日は風に交通量の多い道路だ。


 そして人通りがいつもの倍ぐらいに多く写真を撮る者もいた。


「いつもなら土日ぶっ通しでやるのに、今回は日曜日やらないんだってね」


「仕方ないよ。それにしても見物客多いね」


「ここで戦ってたんだよ。鳥とチョコ黒が!」


 三人は思い思いに話した。


「意外とゴミが落ちてるんだな」

 譲がふと呟いた。


 謙はカバンにたまたま入っていたレジ袋を取り出して路上に落ちているゴミを拾い始めた。


「なにやってんの?」


「いや、気になったから」


 大月の言葉に謙は真顔で答えた。


「謙は愛らしいな。手伝うよ」


 そして大月と八縁兄妹はゴミを拾いながら歩くが、特にこれといったものはなかなか見つからないままレジ袋がパンパンになった。


「疲れたね」


「あれっ、あの煙なんだろ」


 そう言って大月は細い煙を指さした。


「いや、ただの煙だろ」


 謙は疲れていた。


「でも、鳥とか謎の女は金ぴかの火を使ってたから何か関係あるかも」


 そう言って大月は煙の方へ向かった。


 八縁兄妹は呆れながらもついて行った。


 その先にいたのは金髪に染めた二人組の男がたばこを吸っていた。


 謙はその男の片方が此糸高校の有名な不良の先輩の松田忍であることに気がついた。当然、未成年だ。


「お前ら、俺の後輩か? 此糸高校だろ」

 松田は怒声をあげた。


 逃げようとする大月と智。松田は智を蹴ろうとした。


「むかつくんだよな。鳥の化け物が出たからって探偵ごっこするようなガキ」


 その言葉を聞いて謙は心臓の鼓動を強く感じた。ぶん殴ってあのタバコを口の中突っ込んでやる。そう思った。


 智の顔を見た。


 謙は無我夢中だった。ゴミの入ったレジ袋を松田の蹴りに当てて智を護った。


「この野郎」


 松田はバランスを崩してコケた。


 三人はダッシュで逃げた。


 安全なところまで逃げると智が「110するね」と言った。



 そして警察に智は経緯を説明した。松田は逃げたらしい。


 謙は自分がなにを考えていたか思い出して身震いした。

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