アキヤラボパとユメ
「アキヤラボパ、チヨコレイト・ブラックの足止めは任せた」
ユメはそう叫んでチヨコレイト・ブラックとは逆方向へ走り出した。
「逃がすか」
チヨコレイト・ブラックの二人はユメを追いかけて走った。
そしてチヨコレイト・ブラックはユメに追いついた。
「これで逃げられないぞ」
「ようやく、ユメと戦える」
チヨコレイト・ブラックの二人はそう言って構えた。
「なにを勘違いしているの? 罠にかかったのはそっちよ。別にあんたたちを倒すだけが私の勝ちじゃない」
ユメは不敵に笑った。
遠くから悲鳴が上がった。アキヤラボパが人々を襲っているのだ。
「私はこの此糸市を燃やし尽くせばそれで満足なのよ」
ユメの右腕が黄金の炎で包まれる。
チヨコレイト・ブラックの二人がどちらと戦うか動揺した瞬間、ユメは右手で地面を殴った。殴った端から黄金の炎が燃え移る。
「力の込め方によってはこんなこともできる」
ユメがそう笑うとチヨコレイト・ブラックの二人は黄金の炎に包まれた。黄金の炎は2メートルほどの高さまで立ち上り視界が遮られる。
「別に痛くも熱くもない。大丈夫」
チヨコレイト・ガールはそう言うとアキヤラボパがいた方角へと走り出そうとした。
「イタッ」
チヨコレイト・ボーイは思わず叫んでしまった。アキヤラボパの羽によりアーマーに付けられた傷から炎が染み込んだのだ。
チヨコレイト・ボーイの叫びにチヨコレイト・ガールは動揺した。
またもユメの両腕は石の翼へと変わり、石の羽を弾のように飛ばした。
視界の外からの不意打ちにチヨコレイト・ボーイとチヨコレイト・ガールは悲鳴を上げる。
「あははははは、苦しんでよ。そうやってあんたたちの悲鳴を聞くとさ、良いんだよ、気持ちが」
ユメはそう笑った。ユメは笑いながら涙を流していることに気がつくと涙を黄金の炎で燃やした。
「チヨコレイト・ボーイ助けて」
チヨコレイト・ボーイはその声を遠くから確かに聞いた。
その瞬間、チヨコレイト・ボーイは痛みも苦しみもどうでもよくなった。
チヨコレイト・ボーイは走った。
「嘘でしょ、なんでそこまで自分を犠牲に出来るの?」
ユメは笑顔を崩した。
「そこか!」
チヨコレイト・ガールはユメの声がした方向を思いっきり殴った。風圧で黄金の炎がかき消える。
「空中戦ならどうかしら?」
ユメは笑顔を作り直して羽ばたいて空を飛んだ。
チヨコレイト・ボーイを呼んだ声めがけて石の羽がアキヤラボパから発射される。
その声の主に石の羽は届かなかった。チヨコレイト・ボーイが如意スティックで弾き飛ばしたのだ。
「安心しろ。無理でも安心しろ。俺が護ってやる」
チヨコレイト・ボーイが叫んだ。
「ありがとう、チヨコレイト・ボーイ」
そんな声を浴びながらアキヤラボパに如意スティックを振り当てた。
アキヤラボパは如意スティックをくちばしで掴んだ。チヨコレイト・ボーイは思わず如意スティックを手放してしまう。その隙をついてアキヤラボパはチヨコレイト・ボーイに体当たりをした。
チヨコレイト・ボーイはどう避けようかと後ろを振り返ると逃げようとしている人が数人いた。ここでアキヤラボパの攻撃を受けなかったら後ろで逃げている人が大変なことになる。
アキヤラボパの巨体があの人たちに当たったら、そんなこと考えたくもない。そんな一心でチヨコレイト・ボーイはアキヤラボパの体当たりを受け止める。
如意スティックを加えたくちばしを十本の指で掴み、アスファルトの地面を足の指で掴む。ちょっとでも力を抜いたら吹き飛ばされそうで足の指に力を込めた。ちょっとでも油断したらアキヤラボパは俺を弾いてそのまま飛んでいってしまいそうで集中しすぎなほど集中した。
チヨコレイト・ボーイは後ろに下がっていった。足の指で掴んだ跡が深々と刻まれ少しずつ減速していく。
そして数十秒後、アキヤラボパが完全に停止した。後退したのは5メートルほどで後ろで逃げる人に被害はなかった。
アキヤラボパは距離を取った。そこで落とした如意スティックをチヨコレイト・ボーイは手に取った。
一方、ユメは高所からチヨコレイト・ガールに石の羽を飛ばしていた。
「キボウヘキ」
だが、石の羽はチヨコレイト・ガールの両手から発生するバリアーに弾かれる。
「これ、泥仕合か」
ユメは露骨にテンションを下げた。
「だったら、どうするの?」
チヨコレイト・ガールは冷静なまま言った。
「逃げる」
ユメはそう言って飛んでアキヤラボパの方へ合流しようと急いだ。
チヨコレイト・ガールは周囲を見回してある物を見つけて手に取った。
それはさきほどユメが黄金の炎で加工した電信柱だった。
チヨコレイト・ガールはそれをユメに向かってやり投げの要領で投げた。
ユメの左足に刺さりユメは墜落した。ユメの左足から鮮血が流れる。
チヨコレイト・ガールとチヨコレイト・ボーイはそんな倒れたユメにとどめを刺そうとかけよる。
そこに立ちはだかるアキヤラボパ。ただ、チヨコレイト・ブラックの二人は気がついていた。今アキヤラボパに向かって攻撃すればアキヤラボパかその向こう側のユメのどちらか、あわよくば両方を倒せると。
「右の腕輪を三回撫でて必殺技を繰り出せ」
ピンク仮面の声がチヨコレイト・ブラック二人の耳元から聞こえた。
チヨコレイト・ブラックの二人は互いの顔を見合わせた。
そしてチヨコレイト・ブラックの二人は右腕の指輪を三回撫でた。
空の地球、霊泡界から光が降り注ぐ、それはチヨコレイト・ブラックの二人の間だけを照らさなかった。その影が立体的な拳に変わり、黒い巨大な拳が宙に浮いた。
「チヨコレイト・ブラック、これで終わりじゃないんだから! あんたらが最初に奪ったくせに、始めたくせに」
ユメは泣きながら倒れたままもがいた。
「「影絡拳」」
チヨコレイト・ブラックの二人はそう叫びながら右手で空を殴った。
その一撃をまともに食らったアキヤラボパは粉々になりながら吹き飛んだ。
その先にはユメがいた。
アキヤラボパがぶつかる寸前、ユメは黄金の炎に包まれた。
そしてユメは消えた。
アキヤラボパは地面に叩きつけられ紫色に光って爆発した。
その紫の光を浴びた物や人が少しずつ修復されていった。
「これで、勇芽が戻ったか?」
チヨコレイト・ボーイがつぶやいた。
「申し訳ない。ユメは逃げただけで勇芽は意識を取り戻してはいない」
「そっか」
チヨコレイト・ボーイは残念そうにうつむいた。
「ありがとう」という言葉が聞こえた。
チヨコレイト・ボーイは胸が熱くなった。
「見つけたよ。俺のやりたいこと」
チヨコレイト・ボーイは小さくつぶやいた。
チヨコレイト・ガールはそれを聞いて仮面の下で深く安堵した。
チヨコイト・ブラックの二人は助かった人たちに囲まれた。
「どの星からきたの?」
「女の子の方はどういう名前なの?」
「本当にありがとう」
「異次元人ですか?」
「何年後からきたんですか?」
「あの鳥は何だったの?」
チヨコレイト・ガールは色々な人から矢継ぎ早に繰り出される質問に「私はチヨコレイト・ガールです」と返すのが精一杯だった。
「申し訳ない。そろそろ変身限界だ」
ピンク仮面の声がチヨコレイト・ブラックの耳元から聞こえた。
チヨコレイト・ブラックの二人はピンク色の光に包まれて公園へと瞬間移動した。そこは二人が変身した公園だった。
「ここは?」
「申し訳ないが早く腕輪を外したほうがいい」
チヨコレイト・ブラックの二人は戸惑いながらピンク仮面の言うとおり腕輪を外した。
するとチヨコレイト・ブラックの二人は譲と智に戻った。
譲と智は倒れた。二人の意識は朦朧としているが物を考えられないほどではない。二人は物を見れなかった。視界には入っているが、焦点が定まらずそれがどんな物だか分からないのだ。
体にうまく力を入れられない。今、自分がどんな姿勢だか分からない。
だけど、土の味だけは分かる。
数分経っただろうか、譲と智の二人は座れるくらいに回復し視力も戻った。
「申し訳ない。それは変身酔いだ。チヨコレイトの力の代償と思ってくれて良い。30分もあれば完全に回復するはずだ」
「最初に説明しろよな」
謙が苦しそうにしながら言った。
「申し訳ない。不愉快だったならその腕輪は返してくれて構わない」
「渡してたまるか、勇芽を助けるのを他の誰かに譲るもんか」
「そうね。謙がそうなら私も戦う」
「申し訳ない。君たちの覚悟を見くびっていた。もう、その腕輪は君たちの物だ」
ピンク仮面の表情は仮面のせいか読みとることは出来なかった。
ピンク仮面の胸には穴が開いていた。
「なあ、もしかしてずっとここに残っていたのって勇芽を護ってくれていたのか?」
謙はふと気がついた。
ピンク仮面は頷いた。
「ありがとう」
謙はそう言って頭を下げた。
「イサメを護るのは私の使命の一つだ。イサメは今、ユメに魂の一部を奪われている。ユメを倒すまでイサメは目を覚まさない。それまで病院で生命維持を行った方がいい」
「わかった119すればいいかな?」
「そうしたほうが良い。私は限界だ、眠らせてもらう」
ピンク仮面はそう言うとみるみる小さくなりストラップサイズになった。
「なあ、智。やりたいことを見つけたって言ったよな」
「うん」
「それはさ、戦って思ったんだ。誰かのためにって思いながら頑張ると胸の芯? っていうのかな、熱くなって気持ちが良いんだ」
「うん」
「その感覚を感じていたい。この力があってもなくても。そうやって生きていきたい」
「そっか、この謙の顔をイサメンに見せてあげたらイサメン惚れ直すだろうな。見せてあげなきゃ」
智は拳を強く握った。
「そうだな、まずは勇芽を助けよう」
謙はそう言って立ち上がった。
そして謙はバランスを崩して転んでしまった。
「大丈夫? 謙?」
そう言って駆け寄る智も転んでしまった。
二人は十数分同じ姿勢で座っていたので足がしびれたのだ。
謙と智は顔を見合わせて笑った。
そして足のしびれがとれた二人は相談を始めた。
「ねえ、これのこと誰かに話した方がいいのかな?」
智は変身に使った腕輪を振った。
「どうだろう。でもさ、ピンク仮面さん? が目覚めるまで待たない? それから決めても遅くないよ」
謙はそう言って小さくなったピンク仮面をポケットに押し込んだ。
その後、二人は救急車を呼んだ。救急車にはこの公園で巨大な鳥に襲われて倒れたと説明した。
勇芽の両親はとても悲しんでいた。それを見て謙と智も苦しかった。
「絶対助けようね」
智は譲の手を強く握った。譲は強くうなずいた。
二人はくたくたになって家に帰った。そして疲れが出てすぐ眠った。