戦うユメとチヨコレイト・ブラック
「チヨコレイト・ボーイ」
謙が変身したチヨコレイト・ボーイは名乗りながら右手と右足を前に出して構えた。
チヨコレイト・ボーイは今まで感じたことのない感覚を楽しんでいた。
「チヨコレイト・ガール」
智が変身したチヨコレイト・ガールも名乗りながら左手と左足を前に出して構えた。
「あなたたちがチヨコレイト? ムカつくなぁ」
ユメは嘲るように言った。
「どうすれば勇芽が元に戻る?」
チヨコレイト・ボーイはそう言いながらユメに殴りかかった。
「なんて言えば良いのかな? やっぱり正直に答えるのが一番かな?」
ユメはチヨコレイト・ボーイの攻撃をかわしながら笑った。
「そのユメの肉体を破壊すれば勇芽は意識を取り戻す」
そうピンク仮面が教えた。すると倒れているユメ改め倒れている勇芽を守っていた半透明の壁がなくなった。
「ありがとう。ピンク仮面」
チヨコレイト・ボーイはそう言いながら攻撃の手を休めなかった。
「ちぃ、やりなさいアキヤラボパ」
ユメの指示を聞いたアキヤラボパは倒れている勇芽に向かった。
チヨコレイト・ガールがアキヤラボパの前に立ちはだかった。
「イサメンは私が護る。絶対に。そうしなくちゃいけないんだ。それが私のやるべきことなんだ」
チヨコレイト・ガールはそう叫んだ。
「両手に意識を集中するとバリアが出せる」
ピンク仮面の声がチヨコレイト・ガールの耳元から響いた。
「こうすればいいのね」
チヨコレイト・ガールの両腕から巨大な中華鍋のような形状の黒い壁が出てきた。
「キボウヘキ」
チヨコレイト・ガールはその壁の出し方を知っていて憶えているような気分になった。
アキヤラボパはキボウヘキに激突して悲鳴のような鳴き声をあげた。
「なんでこんな事をするの?」
チヨコレイト・ガールはユメに疑問をぶつけた。
「そうね、私は向こう側の地球。霊泡界からやってきた」
ユメはチヨコレイト・ボーイから距離を取り上空の浮いている地球を指さした。
「霊泡界では私はリモコの使徒という組織の一員だった。怪物を操り霊泡界を混乱に陥れる。楽しかったな。で、それを邪魔してきたのがチヨコレイトだったのよ。チヨコレイトとリモコの使徒の対決は結局リモコの使徒の勝ちだったらしいんだけれど、そんなことより私は暴れたいんだよね。戦いの中で血沸き肉踊る感覚っていうのを感じていたんだよね。わっかんないなかな?」
ユメはケラケラと笑った。
「子供の癇癪みたいな理由でイサメンをこんな風にしたの?」
チヨコレイト・ガールはユメに向かって走った。
「子供の癇癪は無知で無力なガキがやるから無意味なんだよ。怪物を操り悪意を持って行動したら誰にも収集がつかない」
ユメがそう言うとアキヤラボパはチヨコレイト・ガールを後ろから攻撃しようとした。
チヨコレイト・ボーイがアキヤラボパとチヨコレイト・ガールの間に割って入った。
「右耳に武器がある」
ピンク仮面の声がチヨコレイト・ボーイの耳元から響いた。
「如意スティック」
チヨコレイト・ボーイは右耳につまようじ大の棒を確認した。それはチヨコレイト・ボーイの意のままに長さと太さが変わった。
チヨコレイト・ボーイは如意スティックを10メートルほどに変えてアキヤラボパを叩いた。
アキヤラボパはなにやら悲鳴の様な物をあげた。
チヨコレイト・ボーイはチヨコレイト・ガールを無事に守れたことに安堵した。
「私はイサメン酷いことをした。今日のデートが終わったら謝るつもりだった。だから、奪わないでよ。イサメンを、池田 勇芽を」
チヨコレイト・ガールはそう言いながら拳を握りしめてユメを殴った。
チヨコレイト・ガールの拳はユメの顔面に当たりユメは遠くへ吹き飛んだ。
ユメは立ち上がり血を吐き出してこう言った。
「自業自得でしょ。アキヤラボパ、飛べ」
ユメの指示を聞いてアキヤラボパは強く羽ばたいた。大きな風にチヨコレイト・ボーイは吹き飛ばされた。
アキヤラボパはユメを足で掴んで高く飛んだ。
「風なんかに負けるか」
チヨコレイト・ボーイは両手で地面を掴み四つ足でアキヤラボパへと近づいた。
そして地面に如意スティックを突き立てて高く跳んだ。
そして如意スティックを手放すもアキヤラボパの羽を掴んだ。
「なんなのよ、なんでこんなにうまくいかないのよ。何で私の邪魔ばかりするの?」
「邪魔してるのはお前だろ。デート中で、まだキスしかしてなかったんだぞ。それを…… ふざけんな」
チヨコレイト・ボーイが掴んだ所からアキヤラボパの石の羽がひび割れ始めた。
アキヤラボパはまたも痛みにもだえる。
「アキヤラボパ! もう良いよ。落ちろ」
アキヤラボパは羽ばたくのを止めた。
そして落下を始めた。
下は祭りの真っ最中。歩行者天国に人が溢れている。
「潰れちゃえ」
ユメは無邪気に笑った。
「させるか」
チヨコレイト・ボーイはそう言いながらアキヤラボパの羽を握る手を離した。
「おい、逃げろ」
チヨコレイト・ボーイは叫びながらアキヤラボパよりも先に落ちた。
「チヨコレイトの力は物理法則を超越する。改めてみると厄介すぎるな」
ユメは苦々しく言った。
祭りを楽しんでいた人たちは上から落ちてくるアキヤラボパを見て叫びながら逃げ始める。
「うわああああ」
小学校に入ったか入らないかぐらいの女の子が泣きながらうずくまった。
このままではその子の頭上にアキヤラボパが墜落してしまう。
だが、そうはならなかった。チヨコレイト・ボーイが受け止めたのだ。
これまで感じたことのないほどの負荷がチヨコレイト・ボーイの両腕にかかった。
「うぎぎぎぎぎ」
チヨコレイト・ボーイは声にならないうなり声をあげて必死に堪えた。
チヨコレイト・ボーイは今助けている少女の事を思うといくらでも耐えてやるとそう思えた。
「大丈夫だから、さあ立ち上がって逃げて」
チヨコレイト・ボーイは安心させるような口調を心がけながら足下でうずくまっている女の子に声をかけた。
女の子は何かを決意したように立ち上がり走って逃げた。チヨコレイト・ボーイは人のいないところにアキヤラボパを投げ飛ばした。
女の子が走った先で彼女の母親らしき人の安心した声を聞いてチヨコレイト・ボーイは少し脱力した。
「チヨコレイト・ボーイ! ここがお前の墓場だ」
ユメはそう言いながら右手から黄金の炎を放った。放たれた黄金の炎は爆裂し数十人の逃げまどう人々に当たった。
「黄金の炎は万物が持つ魂を燃焼させる。それに伴う激痛は憶えているでしょ。チヨコレイト・ボーイ」
ユメは大笑いしながら言った。
実際、黄金の炎が当たった人は体に黄金の炎が引火して酷く苦しんでいる。
チヨコレイト・ボーイはそれを見て憤慨した。
「此糸を苦しませる奴は俺が全部ぶっ壊す」
チヨコレイト・ボーイはユメを仮面の下で睨んだ。
ユメは思わず怯んでしまう。
「チヨコレイト・ボーイ頑張れ!」
そんな声援が飛んで来た。
「誰も彼も正義の味方を! 自分を護ってくれる奴を褒め称えやがって! 悪夢をみたい度胸のある奴はいないのか!」
ユメは怒声をあげた。それはユメ自身の恐怖を覆い隠すためのようだった。
一人だけそれに頷く者がいたことをユメはまだ気がつかなかった。
「それで、関係ない人間を焼いて良いって事なのかよ?」
チヨコレイト・ボーイはユメに飛びかかった。
「私はさ、そういうやり方しか知らないんだよね。優しさとか友情とか思いやりじゃ足りないんだよね。世界はさぁ愛と暴力で満ちてなきゃいけないんだよね」
ユメが笑うとユメの足下のアキヤラボパが羽ばたきチヨコレイト・ボーイは吹き飛ばされた。その風は黄金の炎を散らして周囲の桜の花びらに着火した。それは夜の暗さの中黄金の明かりに揺れる桜は幻想的で美しかった。
花火があがった。それは銃声を想起させた。
暴風で逃げるのも困難で阿鼻叫喚と風の音で人々はパニックになりながらも逃げた。
「みんなお祭りを楽しんでた。みんな笑顔だった」
「ええ、反吐が出る」
「あの炎は痛かった」
「でしょうね。知らないけど」
逃げ苦しんでいる人々に無関心なユメにチヨコレイト・ボーイは怒髪衝天と言って差し支えないほどの激情を抱えた。
「ふざけるな」
その一言で空気が震え、風の流れが変わった。チヨコレイト・ボーイを中心に風が吹き抜けた。その風に煽られた黄金の炎は弱まり消えた。
チヨコレイト・ボーイが想情弾爆を起こしたのだ。
チヨコレイトは魂のエネルギーである霊泡を想像力で倍にして戦っている。そして、強い思いなどの影響で想像力が急激に変化すると発生するのが想情弾縛だ。想情弾爆は物理法則を超えて想像を現実に変える強力な力だ。
ユメは震えた。
「ふざけてるのはどっちよ。ようやく好き勝手できる。ようやく暴れられる。そう思ったのに邪魔してるのはどっちよ。許さないから」
ユメは恐怖をかき消そうと笑った。
チヨコレイト・ボーイは一歩一歩アキヤラボパとユメに近づいた。
アキヤラボパは羽ばたいて風を起こすがチヨコレイト・ボーイは吹き飛ばされなかった。
「足に力を集中すれば速度は出ないが風で飛ばされない? 厄介だな」
ユメは忌々しげにつぶやいた。
チヨコレイト・ボーイは少しずつ進む速度を上げていった。
「私は呪う。私を満たそうとしない全てを。アキヤラボパ、私と契約して」
ユメは叫んだ。アキヤラボパから紫色の光がユメに放たれた。アキヤラボパは疲れを癒すように動きを止めた。
そしてチヨコレイト・ボーイはユメを殴った。
ユメは右腕でチヨコレイト・ボーイの拳を受けた。ユメの右腕はアキヤラボパと同じ石の翼へと変貌していた。
石の羽がひび割れる。
もう一発殴ろうとするチヨコレイト・ボーイだったが体勢を低くしたユメにかわされてしまう。
そのままユメの翼に変わった左腕を腹にぶつけられてチヨコレイト・ボーイは怯んでしまう。
「ねえ、知らないでしょ。アキヤラボパの羽はナイフみたいに尖ってること」
ユメはそう言いながら両腕の翼から羽を弾丸の様に放った。その羽はチヨコレイト・ボーイのアーマーに深々と刺さった。
ユメは両腕を翼から人の腕に戻し右手で近くの電信柱に触れた。
ユメの右腕から黄金の炎が吹き上がり電信柱を包んだ。
それは5メートルほどの長さの棒へと形を変えた。
「魂を燃焼するんじゃなかったのか?」
チヨコレイト・ボーイは多くの人がある程度逃げたことを確認して冷静さを取り戻した。
「空気でも鉄でも水でもゴミでも森羅万象に魂は宿ってるのよ」
ユメは誇らしげに言った。
ユメは黄金の炎に包まれた電信柱を振るう。
チヨコレイト・ボーイは逃げるので精一杯だ。
「逃げてたら有利になるとでも思ってるの? じきにアキヤラボパも回復する。そうしたら2対1で私たちの勝ちだ」
「有利になると思ってるさ。だって1対2にはならないからな」
チヨコレイト・ボーイの余裕にユメは焦る。
「アキヤラボパが動き始めた。これで終わりだ。チヨコレイト・ボーイ」
アキヤラボパが復活して単純な体当たりを仕掛けた。
2メートルほどの棒がチヨコレイト・ボーイに投げられた。
その棒は公園で手放した如意スティックだった。チヨコレイト・ボーイは如意スティックを掴んでアキヤラボパに振り下ろした。
「っ誰が…… チヨコレイト・ガール!」
忌々しくユメがつぶやいた。
そう、公園からチヨコレイト・ガールが如意スティックをを持って走ってきたのだ。
「これで、2対2だね」
チヨコレイト・ガールがそう宣言した。